第5話 可愛ければ酒癖悪くても許される
「師匠やりました! また倒せました!」
「おーやるなモーモン」
森に入って二時間は経つ俺達だが、想像以上にモーモンは強かった。現れた魔物をアッサリ倒していく。
強さで言うと初心者では間違いなく苦戦する筈の魔物も余裕で倒しており、モーモンの身長に合わせているハンマーは普通に売っている物とは違いかなり重いと思うのだが、彼女はそれをまるで木の棒の様に振り回している。てかなんだったら片手で持っていた。
コイツ筋肉馬鹿か??
「モーモンちょっと二の腕触って良いか? ハンマー持ったままで」
「え……」
モーモンはしばらく考える素振りを見せると、
「い、嫌です……」
なんと断ってきた。
ただ困り眉は通常通りなのだが表情が違う。それは見るからに恥ずかしいのが分かるくらいの真っ赤な顔をしていることだ。
「わ、私……今汗臭いですし、結構筋肉質なので恥ずかしいです……」
「それ今更じゃね?」
「そ、それでも嫌です……」
ふーん? へー? 可愛いじゃん?
「ま、もう触ってるけどね」
「いっ!? いつの間に!?」
「遅いぞモーモン。遅過ぎだ。これからは常に俺に身体を狙われていると思っておけ」
「常に!?」
全くそんな隙を見せて、ここが戦場ならやられているぞ。
「す、すいません師匠」
分かればよろしい。
さて、ではモーモンの筋肉を確認しているわけだが、
「ムッキムキだなモーモン」
「うぅぅ……恥ずかしいですよぉぉ……」
はい可愛い優勝。
そんなことよりも本当にかなりの筋肉だ。さっきも触ったが力を入れているから硬い、というより筋肉の多さがとんでもなく壁の様な硬度になっている。
これは種族的に皆こうなのか??
「いえそういう訳じゃありません。どちらかといえば皆もっとムチムチしてますね」
「ムチムチ!!」
「私はその中でも一番身体ががっしりしてるんです……」
「ほうほう確かにかなり良い筋肉だ。この腕も腹筋も最高……それにこの胸筋もなかなかだな」
「……ほぇ?」
しばしの沈黙、まるでこの場だけ時間が停止しているかの様な静けさの中、このまま永遠に時が続けばよいのにと思ったが、時は無情にも動き出し、モーモンは悲鳴を上げた。
「ちょっ!? えっえっえっ!? 師匠むむむむむぅ!!?」
「どうしたモーモン、俺は胸筋を確認しているだけなのだが? 何かあったか?」
揉むと指がどこまでも沈んでゆき、叩けばブルンブルンとまるで神樹に実った果実の様にはち切れんばかり震える。
何がとは言わない。ただ____
「これが人類の秘宝か……」
「何言ってるんですか!?」
異種族最高だ。これが人間じゃ実現不可能の領域というやつか。
「モォォ……いつまで触ってるんですか師匠」
「別におかしくなくない? 胸筋に触る事がそんなに許されない事なのか? 死罪とかなのか?」
「え、別にそこまでとは言いませんが……」
「ぷよぷよぷよぷよぷよぷよ」
「また揉んでる!?」
クッソ! なんて可愛らしい効果音の鳴る胸筋なんだ! やりやがるぜぇコイツはよぉ!
ただモーモン君辞めなさい。揉んでる? それは心外だね。これは師匠と弟子の軽いスキンシップであって断じてエッチなことではないんだよ?
断じてエッチなことではないんだよ?
「なんで二回言うんですか……」
「健全さのアピールだ。因みにどこを揉まれているのか教えてもらっても良いかな?」
「え……」
あ、いや参考までにね。
「……お」
「おー?」
「おっ……おっぱ……」
「ぱー?」
「もぉぉ……もう許してくださいぃぃぃ……」
はい可愛い。
っと、いい加減魔物にも警戒しないといけない。はぁ仕方ないなぁ……。
ようやく胸から手を離す俺に、モーモンはホッと安心した声を漏らす。
「……」
えいっ、と離す直前になんなのかよく分からないが、突如現れた突起物に強めのデコピンした。
「モォォォォン!!?」
モーモンはいきなり大声を出して地面にへたり込んでしまった。その声はどこか色っぽくて、
「んー? モーモンどうしたんだー? 何があったんだー? 大丈夫かー?」
ニコニコしながら心配する俺と、息を荒くさせながら真っ赤な顔でコチラを見上げるモーモンの構図が生まれたのであった。
◆
時間は経過して夜になり、俺達はジョニーの酒場にいた。
「じゃあ今日はお疲れー!」
「お、お疲れ様でした」
労いの言葉を交わし、お互いに手に持ったジョッキを当てて一気に煽る。
「かぁー! 美味い!」
改めて酒の美味さを実感したが、この美味さはジョニーの酒場に置かれた良質な酒だからこそもあるだろう。だが、なんと言ってもモーモンのおかげとも言える。やはり可愛い女の子と飲む酒はアルコールとはまた違う成分を摂取できるものだ。最高である。
そんなモーモンはジョッキに注がれた酒の匂いを嗅いでいる。
「凄い甘い香りですね。これはなんてお酒なんですか?」
それはな、と答えようとすると偶々料理をテーブルにジョニーが持って来た。
「それは”カルアミルク”って言うんだぞ。ここいらじゃ聞かないと思うが、王都の方じゃ今流行りの酒なんだ」
「へ、へぇーそうなんですか……」
「おらジョニー! モーモンが怖がってんだろ散れ散れ!」
「へーへー分かったよ」
憎まれ口を叩きながらカウンターへと戻ろうとするジョニーだが、去り際に俺の耳元で、
「……良い異種族だな。やるじゃねぇか」
一言告げて去って行く。
さすがジョニーだ。お前なら分かってくれると思ったぞ。
「師匠このお酒凄く美味しいですよ! 私こんなに美味しいの飲むの初めてです!! ジュースみたい!」
「良かったなモーモン、選んでくれたジョニーに礼を言おうな」
「はい!!」
最初は不安そうにしていたがカルアミルクを予想以上に気に入ったらしく同じ酒を繰り返し何度も注文したモーモンは結果として____
「もほぉぉぉん♡ 師匠〜もうモーモンは飲めないですよぉぉぉ♡」
「……」
「もぉぉぉ、師匠〜……」
「……」
モーモンのやつ秒で酔いやがった。嘘だろいくらハイペースで飲んでいてもこんなに早く酔うものなのか??
「どうしたクズーヤ?」
この状況を察してか否か俺達の座るテーブルへやって来たジョニーは、酔い潰れたモーモンを見た途端、あちゃー、と言葉を発した。
「モーモンちゃんもう潰れちまったのか」
「そうなんだよ。種族的に酔い易い感じだったのか? 悪いことしたな」
「気持ち良さそうに潰れてるからその事は気にしないで良いだろうよ。……というかこれは俺のせいだな」
「と言うと?」
「アルコール臭が苦手って聞いてたからよ。女性でも飲みやすいやつにしたんだ。異種族は味覚が人間より鋭いらしいから甘いやつにしてな」
「ほうほう、流石プロのマスターだ気配りが完璧だ」
ただな、と付け足し、
「この酒度数高いんだよ」
あ、なるほどな。そんな酒をハイペースで飲んだらそうなるよな。しょうがない事だ。
「とりあえず連れて帰ることにするわ。世話になったまた来るわ」
料金を渡しモーモンを背負って店を出る。
背中に伝わってくるとんでもなく柔らかい弾力によって押し寄せる興奮、俺はそれを歯を食いしばって抑える。
俺程の紳士ともなればその程度余裕だ。
「師匠〜」
気持ち良さそうに酔い潰れているモーモンもまた違う可愛さがあるな。
とりあえず宿を聞き出すことにしよう。
二人の影が月夜に照らされ街へと進んでいった。
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