ムッチムチのホルスタインボディ”モーモン”

第2話 モーモンちゃん登場




 ギルドに報告した翌日、俺は昨日自分が言った事を早速実行する為に再びギルドへと来ていた。前日とは変わってやはり朝から来ると色々な冒険者が集まっており、荒くれ者が集まる場所なのにかなり賑やかだ。

 さてどうするか……、昨日ジョニーに言われた通り異種族を探そうと思うが、そんな簡単に異種族がいるわけないが、


「おいお前いい加減にしろよ!」


 突如ギルド内に響く何者かの怒号、周りで雑談していた冒険者達も声の発生源に顔を向ける。もちろん俺もその一人。

 人集り的にどうやら受付カウンターの方で何かがあったようで、俺は集まる人々を避けてカウンターへと近付くと、そこには昨日の受付嬢さんが困った様子で立っていた。


「あれ受付嬢さん今日は休みじゃなかったのか?」

「え? あ、クズーヤさんおはようございます!! えへへ実は今日もクズーヤさんに会いたくてお休み返上したんです! 朝からお会いできて嬉しいです!」

「お、おうありがとうな……で、どうしたんだこの騒ぎは」

「あー……」


 それがですね、と受付嬢さんは口を開く。


「あちらの冒険者様達が口論してまして……」


 受付嬢さんが手で示す方を確認すると数人の冒険者がいた。軽装に弓を持った者や、ローブを羽織り杖を持つ者、鎧と剣を持った見て分かる戦士の様な冒険者。雰囲気的にも見るからに初心者なのが分かる格好だ。

 そして____人の多い中で一人だけ周りとは違う存在がいた。


「え……」


 俺は驚きのあまり言葉を詰まらせ、喉をゴクリと鳴らす。


「モォー……そんな事言ったってあんまりじゃないですか……」


 困り眉で今にも泣き出しそうなその子はただの人間族ではなかった。いや”ただの”なんて言い方じゃ分かりづらいだろう。

 身長は女性でありながら屈強な成人男性より少し大きく、重装備を下半身に纏って上半身は軽装というアンバランスな格好をしており、背には大きなハンターを背負っている。

 そして最も目が行ったのは小さく短い角と垂れ下がった可愛らしい耳。更にはなんといっても立派な胸だ。

 いやただ立派って訳じゃない。あれはもう爆乳だ……それもただの爆乳ではない。とんでもない爆乳。


 彼女は明らかに人間族ではなかった。


「……まさかこんなに早く出逢ってしまうとは」

 

 俺の驚きを他所に、戦士風の冒険者は爆乳を荒い口調で怒鳴る。


「うっせぇよ! ”異種族”のクセに黙ってろ!」

「そ、そんな……」


 差別的な言葉を受けて悲しみのあまり涙を流す爆乳の異種族冒険者、まさか昨日の今日で異種族とこんなに早く会えるとは思わなかった。


「モォー……」


 しかも見た目もドストライクだ。その鳴き声も更には良い感じだ。……ならとりあえずやる事は一つしかない。

 俺は異種族の子の元へ行き手を差し伸べ言った。


「どしたん? 話聞こか?」







「……えっと誰ですか? わ、私に何かご用でしょうか?」

「あーいや君が泣いてたから気になってさ、良ければ何があったか話してくれないか? 俺はクズーヤだ。君の名前は?」

「私はモーモンと言います。見て分かると思いますが異種族です……」

「そうだな見て分かる。名前もそうだが凄く可愛いなモーモン、種族を聞いても良いか?」

「え、え? か、可愛い? ……えーと、私は獣人です。牛型の……」


 牛型の獣人? ほーはじめて見る……だからさっきから「モォー」って鳴いてるのか。


「可愛いなモーモン」

「モ、モォー……」


 可愛い! 可愛いなモーモンちゃん!! 異種族良いな! 既に期待値が高いぞ!!


 モーモンの可愛さに和んでいると、背後から怒鳴り声が俺へと投げかけられた。


「おいなんなんだよお前! 今俺達が話してんのが聞こえなかったのか!?」

「話? 俺にはアンタらが一方的にこのモーモンを怒鳴ってるように見えたんだが?」

「なんだとっ!?」


 戦士風の冒険者は俺の言葉が図星だったのか、より怒りを露わにして先程より更に声を荒げる。このままじゃ埒があかない。

 

「なぁモーモン? 何があったか聞いても良いか?」

「わ、私がですか?」


 あぁそうだ、と答えるとまたも背後から喧しい声が響く。

 なにやら「なんでそんな異種族に聞くんだよ!」と叫んでいるが気にせず無視すると、モーモンは怯えながらも静かに語り始めた。


「私まだこの街に来たのも冒険者になったのも最近でして、色々迷っていたらそちらの方達にパーティを組もうと誘われたんです。その時に『報酬は四人で山分け』と言われたんです。なのにそれで二日くらい一緒に森に行って依頼をしてたんですけど……」


 ……なんとなく読めてきたぞ。


「先程帰って来て依頼を報告して報酬を貰って分けようとしたら最初に言った内容と全然違う報酬の分け方をされたんです。だからそれは可笑しいって……」

「なるほど報酬の揉め事か……」


 実際どの冒険者パーティでも割とある揉め事の一つだ。初心者なら特に食い違いがあってもおかしくない。


「因みにどんだけ報酬が違ったんだ?」

「……私が一割、三人が九割です」

「これはまた想像以上に違うな」


 こんな明からさまな食い違いも珍しい。これは怪しいな。


「なぁ受付嬢さんはその報酬の事は知ってるのか?」

「あ、クズーヤさん! その時は私が担当したので覚えています。確かに内容は山分けだったはずです」


 さすが受付嬢さんだ。彼女の言うことなら信頼できる。さてとなら……


「おいお前らどういうことか説明できるんだろうな?」

「ぐっ……」


 額に汗を流し言い淀む戦士風の冒険者だが、やがて言い訳を考えたのか喋り出した。


「確かに言った『四人で平等に分ける』ってな。だがその異種族はまともに攻撃も当たることができなかったんだ! 主に俺達三人で戦って寧ろソイツは役に立たなくて邪魔だったんだよ! そんな奴と報酬が一緒なんておかしいだろ!! だから減らしたんだよ! こっちからしたら無くしてもよかったんだぞ! あるだけありがたく思えよ!」

「そ、そんなぁ……」


 開き直る奴の態度に心からショックを受けるモーモン。奴の後ろにいる二人の冒険者もモーモンを嘲笑っている。どうやらモーモンはカモにされてしまったようだ。

 ならここは助けてモーモンの好感度を上げる事にしよう。


「今『役に立たなくて邪魔だった』そう言ったよな?」

「あ、あぁ言ったぞ! それがどうした!」


 そう言って威勢よく言い返してくる奴に、俺は受付カウンターの上に乗った物を指差す。


「この魔物の素材はお前らパーティが倒した物か?」

「はぁ? そうだけどなんだよ?」


 さすが二日間も森に行ってれば色々な魔物を討伐したのだろう。色々な素材がカウンターに置かれている。そこで俺はある素材を持ち上げ奴に見せた。


「これは堅い甲羅を持つ魔物の素材だ。言っちゃ悪いがお前達じゃ勝てない相手なんだよ」

「な、なんでだよ! 実際倒してんだろ!?」

「いやお前ら初心者パーティを見る限り無理だろ。魔法と弓、そして剣だろ? この魔物は防御力が高くて打撃が弱点なんだ。打撃ができるのはこのパーティ内でモーモンしかいないだろう?」

「クッ……」

「それにこれや他の素材にも明らかに打撃痕があるしな、お前が言ってんのは嘘だろ」


 それにこの初心者達は知っているのか? 冒険者同士の揉め事は基本禁止なんだ。ここは諦めて約束通りの報酬を支払って欲しい。

 呆れて集まってきた他の野次馬冒険者達も散って行く。どうやら皆もこの初心者冒険者に興味が失せたらしい。


 まだ続けるか? と聞いてみると奴は歯を噛み締め悔しそうに自分達の報酬を受け取ると出口へと歩き出す。ただ去れば良いものを奴は、


「覚えてろよ! 俺には冒険者の師匠がいるんだからな!! 覚悟しておけよ!!」


 本当に最後までテンプレの様な小者感を出して去って行った。他の冒険者達も笑っているし、しばらくは皆の酒のつまみにされるだろう。


「さて、これで解決だなモーモン」

「あ、ありがとうございますクズーヤさん! おかげで助かりました!」

「良いんだよ気にすんな。それにしてもモーモンは初心者だよな? 冒険者になってどれくらいなんだ?」

「十日くらいです」

「マジか」


 凄いな……それであの堅い魔物を倒すなんてなかなかの攻撃力だ。持っているハンマーもかなり大きな物だし、やはり人間族と違って筋力が凄いのだろう。

 いくら嫌な奴だったとはいえ、パーティから追い出された事に今も凹んでいるモーモンを助ける為に俺は提案することにした。


「なぁモーモン。良かったら俺とパーティを組まないか?」


 下心しかない男、クズーヤが今動き出す____



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