人間に飽きた俺は異種族を弄びたい
瑞柿けろ
プロローグ 最高のクズにして最強
この場所は、存在すると伝説で語り継がられた秘境。空気中が魔力で満ちており、周りには頑丈な岩と滝、霧に包まれた神秘的な空間である。
そんな空間に一人の男がこの秘境の主と対面していた。
「ようやく見つけたぞ」
血のように鮮やかな赤髪、薄紫色の瞳で眼前の存在を睨みつけ男は漆黒の
「この神域に許可なく来たのも大罪だというのに、よもや我にそのような粗末な物を向けるか。身の程を知れ」
今言葉を発した奴は人か? 答えは否だ。
人などという存在は奴からしたら人間から見た蟻にしか見えないだろう。それ程までにとても巨大な竜であった。
名は”神龍メザルーナ”神話にしか存在を記されていない伝説の竜である。
白と黒が合わさり、相反する筈の神々しさと禍々しさが同居したこの世のものとは思えないそんな存在と男は対面していた。
「お前がメザルーナか……随分とデカいな」
「我が高貴な存在を見てそれだけか? フンッ! 劣等種風情が」
男はそのかなりの傲慢な態度に驚いたが、構える短剣に力を込め、
「じゃあ話は最後にして始めようか」
「この無謀な状況で絶望もせず向かって来るとは……良かろう。我が貴様という存在をこの世から抹消してやる」
口に周りの魔力が集まり黒炎が出現する。とてつもない密度と熱量、そして恐ろしい魔力量に空間が歪みメザルーナは咆哮した。
「我に敗北はない! 滅び逝く中で己自身の無力さを恥じよ!!」
以上、これが大量のフラグを建築したメザルーナの最後の言葉となった。
結果は男の勝利。圧勝とまではいかないが意外とすんなりと勝利した男の名は____
A級冒険者 ”クズーヤ・コンナヤッツ”
人類初の竜討伐という偉業を成し遂げた者の名前である。
◆
「クズーヤさん本当に凄いです! まさか単独で竜を討伐するなんて!」
秘境から長い道のりを一ヶ月かけて街へと帰った俺は冒険者ギルドへ報告をした。受付嬢は内容を知るや否や嬉しそうな反応を表す。なんだったら俺よりも喜んでいる。
「本当に凄いことなんですよ!? なんかクズーヤさんあまり喜んでない気がしますけど……」
「え? ……あ、あぁいや喜んでるよ? ただまぁ実感が沸かないというかな……そんな感じなんだ」
「そ、そういうものなんですか?」
うーん多分、と何気なく返事をする。
実際、俺は竜を探す為に秘境まで行って倒すまでに至った。だが俺が行った理由は倒すのが理由では無かったのだ。
本当の理由は____
秘境に竜と共に住むという聖なる乙女が目当てだったのだ。
確かに伝説では竜の存在が明記されていた。どの資料にも書いてあることは竜の事ばかり、しかしとある一冊のエルフ語で書かれた本にそれは記されていたのだ。
曰く、その者は秘境に住んでいると……
曰く、その者は竜と共に暮らしていると……
そして曰く、それは”ハイエルフ”であり、絶世の美女でこの世のどんな女性よりも美しいと……
そう。つまり俺は竜が目的ではなく、共にいると記されていた美女に会いに行ったのだ。しかしいなかった。影も形もなかったのである。
まー何が言いたいのか分かり易く言うと、三度の飯より女が好きな俺は絶賛機嫌が悪いのだ。
だって美女いなかったし……、いたのは厳つい竜だけだったし……本当に踏んだり蹴ったり過ぎるだろおい。
「クズーヤさん? クズーヤさん聞いてますか?」
「え? あーごめん聞いてなかった。そんな事より依頼を受注してくれないか? なるべく強い奴が良いな。ラミアとか無いか? あ、それかサラマンダーが良い。倒すにしても雌個体の方が良いな目の保養的な意味で」
「何言ってるんですか話聞いてました!? 本当の本当に凄い事なんですよ!?」
「それはさっき聞いた」
「えぇ……反応がドライ過ぎますよ。ってそんな事よりクズーヤさんにはお伝えしたいことがあります」
先程まで驚いていた受付嬢は小さく咳をすると、真面目な表情で俺に告げた。
「クズーヤさん、貴方を”S級冒険者”へと推薦させていただきます。これは私個人だけではなく現在外出中のギルマス、いえギルド全体の総意として受け取っていただいて構いません」
「……S級?」
「はいそうです」
……何故だ? なんで俺がS級に?
国で認められたS級冒険者は現在四つのパーティが存在する。いずれも充分な実力があり、何かしらの偉業を成し遂げた者達で構成されているのだ。そんなものに推薦される覚えはないのだが、
「いや俺は別に……」
「ギルマスがいないのも王都にクズーヤさんの偉業を報告する為にさっき出発したんですよ? まさかチームを組まずに単独でここまで……単独じゃなくても凄いのに」
「いやだからな?」
「クズーヤさんがどんな依頼でも嫌な顔をせず頑張ってくれていた事を私もギルマスも評価してますし!」
別に遊びまくる為にも金が必要だったから、手当たり次第依頼をやりまくってただけなんだが?
「それに街の人達からの評価も良いですし、成るべくして成ったということですね」
「……まあそれは色々と事情があってな」
もうこれは駄目なパターンだ。全部私欲の為にしていた事なのに全てが良い方に転がっていってしまう。
これは何言っても無駄か……、と諦めて黙っていると受付嬢の女性が「ではクズーヤさんに説明させていただきます」と口を開いた。
「先程S級に推薦したと言いましたが、クズーヤさんがS級冒険者になるのは確定事項だと思ってください」
「そうなのか?」
「竜を単独で倒した人がA級でいられる訳がありません。当然です」
な、なるほど……。こう言っちゃなんだが正直あまり強くなかったのだけれど、まあもうそれ言ったら話が終わらないから良いか。
「ただしばらくはクズーヤさんにはA級冒険者のままでいてもらいます」
それはまた何故?
「S級になるには国の許可が必要だからです。国の処理が終わるのにもかなり時間が掛かりますし、それが終わっても今度は全国のギルドにその情報を報告して書類を作るのにも時間が掛かるのです」
「な、なるほど?」
「S級冒険者を増やす際の処理をする”承認期間”これはおよそ一年くらい掛かるんです」
「一年……」
長いようで短いな、一年で世界に俺の事が知れ渡ってしまう訳か……え? ヤバくね?
「今夜はギルドを挙げてお祝いして盛り上がりましょう!」
「あーいや、あまり大事にしないでもらえるか? あまり注目されるの好きじゃないんだ」
「そうなんですか? すいません! 先にクズーヤさんの意見を聞けばよかったです……」
「いや良いんだ。ありがとうな色々考えてくれて、俺はそろそろ宿に戻ることにするわ」
一言礼を言ってからギルドの出口まで向かおうとすると、先程の受付嬢がカウンターから出てコチラに寄ってきた。
「……クズーヤさん良かったら今夜一緒に夕飯でも如何ですか? ……私明日仕事お休みなんです♡」
「え……」
耳元で囁いてくるその声には明らかに俺への好意を感じられる。こう言ってはなんだが受付嬢さんはとても綺麗な人だ。他の冒険者からもかなり人気がある。のだが……
「悪いな流石に竜との戦いで疲れていてな。また次の機会で良いか?」
「あ、私ったらごめんなさい。気が回らなくて……」
「いや俺こそ悪かったせっかく誘ってくれたのに……じゃあ俺は戻るから仕事頑張ってな。受付嬢さんの笑顔にいつも元気を貰ってるから、好きなんだよその笑顔」
「____ッ! あ、ありがとうございます! クズーヤさんに褒めて貰って元気になりました! この後の仕事も頑張れそうです!」
「お、おう……無理せず頑張ってな?」
はい! と元気良く返事をした受付嬢さんは嬉しそうにカウンターへと戻って行く。そして俺は作り笑顔を崩さないままギルドから出ると、
「チッ……」
小さな舌打ちを溢し、とある場所へと向かった。
◆
そこは知る人ぞ知る酒場、街から少し離れた場所にあり、来るものは限られた者のみである。ある者はベテラン冒険者、ある者は食にこだわりがある者、そしてここに見覚えのある人物が一人。
「プハァ! おうもう一杯くれぇ!」
「おいクズーヤ少し飲み過ぎじゃねぇか?」
「うるせぇ! これが飲まないでやってられるかよ!」
ここは『ジョニーの酒場』この街で俺が通い続ける酒も飯も最高に美味い酒場。
そして俺が現在話しかけているカウンターの内側にいるのが、この店のオーナーで筋骨隆々おっさん”ジョン”だ。ちなみに皆からは”ジョニー”と呼ばれている。
ジョニーはこれでも元冒険者だったのもあり、昔からなんでも話せる仲だ。こう言うと少し恥ずかしいが親友という奴なのだ。
「それにしてもクズーヤお前凄いな。S級昇格者がこの店の常連なんて最高だぜ。良い宣伝になるってもんだ」
言いたい事は分かる。でもなぁ……でもなぁ!
「違うんだよジョニー! そのS級昇格が問題なんだよ!」
「んだよそんな頭抱えて、そんなに嫌なのか?」
「嫌だ!!」
即答かよ、とジョニーは呆れる。
「ジョニーは知ってると思うけどS級冒険者は無茶苦茶数が少ないだろ?」
「そうだな。なんだっけ四つのパーティしかいないよな? ソロでS級になるお前はかなり頭がおかしいよな」
「喧しいわほっとけ!! てかそれが問題なんだよ!」
「何がだ?」
「S級はその強さが故に国から強い魔獣の討伐依頼を受ける。てかそれが義務だ」
「そうだな。その代わりとんでもない資金と名声が手に入る。あと何かしらの要望が叶うだったか?」
そうだ。それが問題なんだよ。
「一見全てが良いように聞こえるがS級冒険者には致命的なことがあんだよ」
「致命的? 一体どんな?」
「自由が無いんだよ。自由が」
そうだS級冒険者には自由がない。受付嬢さんも話していたが、国で認めたS級は常に世界中何処にいてもギルド経由で居場所が筒抜けになってしまう。
言い方は悪くなったが、要は高難易度の依頼が発生した時にすぐ討伐できるようにする為で仕方ない事なのだ。だがそれでも俺は声を大にして言いたい。
「これじゃ女遊びできねんだよ!!」
「いや結局そこかよ」
なんだその言い方!? 重要な事だろ!?
「別に遊べば良いだろ。罪じゃねぇんだからよ」
「……あーいや実はジョニーに話してない事があるんだけどな……? 実は俺
「お前マジでクズ過ぎないか?」
「いや待ってジョニー俺の話を聞いてくれ!!」
「……んだよ。分かったから聞いてやる」
さっさと話せ、と冷たい態度のジョニーに俺はゆっくり説明する。
「A級になって気付いたんだがな? 人間族の女は駄目だ。こっちが上級冒険者だと分かると、やれ結婚だとか、やれ子供がどうたら将来の話ばかり勘弁してほしい。俺は遊びたいだけなのに……」
「聞いたが普通にクズだな」
「だから俺には自由が無くなるのは困るんだよ!! 色々遊べなくなるだろ!?」
「コイツ……本当このクズは……」
完璧なクズである。それが逆に清々しい。
「まぁでもお前の言いたいことは分かった。相変わらずのクズだが俺も同じ男だ。気持ちはよく分かる」
「ジョニー!!!」
お前なら! 俺の親友のお前なら分かってくれると思っていたぞ!
クズーヤは親友の言葉に感動し、そしてその後にジョニーが放った一言に衝撃を受けた。
「でも決まっちまったもんはしょうがねぇだろ。国が関わってんだ」
「ジョニー……」
「ならどうするか? 決まってるぜ。人間が面倒ならそれ以外にすれば良いじゃないか」
「え? ど、どういうことだよ?」
「だから”異種族”だよ異種族。スレンダーなエルフや、爆乳なサキュバスとか選び放題だろうが」
「なん……だと!?」
「人間族ではあり得ない体型や種族的特徴、それになんといっても異種族だからこそ! もし万が一間違いがあっても種族の違いからの妊娠率の低さから責任を背負わなくていいって訳よ!」
「ジョニー天才かよ!! お前もなかなかのクズだぜ!!」
「よせや照れるだろ。因みに俺はダークエルフが良いな。あの太ももに挟まれたい」
「ジョニー!!! それは俺も同意だぜ!!」
確かにそうだ、他種族との繁殖は確率的にほぼあり得ない。
親友の言葉に感動し、目尻に涙を浮かべクズーヤは決意した。
「ジョニー俺はやってやるぜ! 色々な異種族を手当たり次第弄んでやる! 俺はやるぞぉぉぉ!!」
「ふっ! さすがクズーヤだ。底無しのクズっぷり……でもそのクズ加減嫌いじゃないぜっ!」
「ジョニー!!」
薄暗い酒場で二人の男が固く熱い抱擁を交わし涙を流す。そんな常軌を逸した光景に盛り上がりに皆は酒を搔っ食らう。
「ったくよ! 皆最高だぜ!」
ま、飽きたら逃げればいいだろ。なんとかなるなる。
そうこの男、新S級冒険者”クズーヤ・コンナヤッツ”は想像以上にクズであった。
この物語は一人のクズが分からされる物語である。
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