今後の作戦

一旦家に帰ってきた俺と心菜は部屋で状況を整理していた。

 「つまり、お前は神様の怒りを買ってこの姿にさせられた。そして、その時に抵抗したせいで段々と妖力を消費する体になってしまって、妖力切れと刑の終了時間が一緒になってしまったというわけだな?」

 「そうなんです……。あ、それであと桃伽様が言ってなかったことが1つだけあります。それは、私を人間の姿にした目的です。」

 確かに目的もなく行う刑というものはあるほうがおかしい。

 何か理由があるのは確かだが、心菜の場合は何なのだろうか。


 「私が人間の姿にされたのは、これからも人間の力になるために奴らの世界を学んでこいって言われたんです。それで、しっかり学べた証拠を出せたら、妖力も少し分けてやるって言ってくれたんですけど……。」

 少なくともさっきの桃伽の反応を見るに全くもってそのような成長が無かったのだろう。


 「分かった……じゃあ俺ができる範囲になるけれども、この世界について教えてやる。」

 そういうと心菜は俺に飛びついてきた後で何度もお礼を言ってきた。

 「分かった、分かったから離れろ……。まずは人との距離感から教えないとだな……。」

 俺がそういうと心菜は少し離れたところで正座をした後で少し悩んだような顔をしている。


 「どうしたんだ?」

 「いや、色々教わるので様をつけて呼んだほうがいいかなと思ったのですが、名前を聞いていなかったので……。」

 そういえばそうだった。

 俺は心菜の名前だけ聞いて結局自己紹介をしていなかった。


 「俺は熊谷 哲也くまがい てつやだ。別に様もつけなくていいし、苗字、下の名前どちらで呼んでもいいから。」

 心菜は少し悩んだ後で呼び方を決めたようだ。

 「じゃあ、哲也さんでいいですか?」

 急な下の名前呼びにびっくりしたが、特に変な意図も心菜には無さそうなので、気にしないことにした。


 「とりあえず、まずは人との距離感からだな……。正直言って今の心菜の接し方はやばいぞ。」

 「え、そうなのですか……?最近本屋さんでこっそり読んだ本にはこんな感じの距離感で接してる人が出てきていたので、それが普通だとてっきり……。」

 おそらく恋愛ものの小説か漫画でも読んだのだろうが、それを鵜呑みにして行動する心菜もすごいなと思う。


「まず、そもそも普通は人間というのは初めてあった人には距離を取りたがるんだ。お互いの警戒心があるからか分からないけど、最初はお互いの間に距離があることが普通だから、今日心菜がしたようなベッタリくっつくようなことは普通はしないんだ。」

 「なるほど……。つまり私は間違った関わり方をしてしまったんですね。ごめんなさい!」

 そう言って心菜は俺に向けて頭を下げてきた。

 「いや、頭までは下げる必要ないから!これから注意すればいいから、これから!」


 いちいち反応が大きいのは仕方がないのかもしれない。

 「あとは基本的に人間関係は友達から始まるんだ。友達っていうのはまぁそうだな、親しく話せる間柄みたいな感じの人のことだな。」

 「なるほど、つまり今の私と哲也さんは友達ということですね!」

 そう言って心菜は納得したような顔で頷いている。

 「まぁ、そういうことだな。そんな感じで人間っていうのは少し変わった関係性を築いていることが多いんだ。」


 心菜に人間関係について色々と説明した後で俺は心菜に1つの質問をした。

 「そういえば心菜は夜とかどうしてたんだ?家があるわけでもないんだろ?」

 そういうと心菜は少し目を逸らした後で無かったですとだけ答えた。

 「よく警察とかに補導されなかったな……奇跡なんじゃないか?」

 「ほどう……というのはよく分かりませんが、帽子を被った青っぽい服を着た男性の人に誘拐されそうになったことはあったので、その時は全速力で逃げました!」

 心菜は自慢げに話しているが、明らかに補導されかけたのだろう。


 「うーん、どうしようか。また変な人に襲われないためにも、俺の家で1週間だけ暮らすとかはどう?母親次第だけど……。」

 「お泊まりということですね!出雲に行った時以来です!」

 そう言うと心菜は嬉しくなったのかぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

 「出雲……そうか。神無月には出雲に行くもんな……。」

 そういえばそんな風習があったなと考えていると一階から母親の声がし始めた。


 「交渉しに行くからついて来てくれ、学校での友人で親と喧嘩したからっていう設定にするからな?」

 「分かりました!後ろにいるだけでいいですよね?」

 そのまま、俺と心菜は一階へ降りて母親に交渉を始めた。


 「ただいま、哲也。あら、その後ろの女の子は誰?」

 早速母親は心菜について聞いてきた。

 「実は、この子俺の友達なんだけど、家族と大喧嘩したみたいで……。」

 俺は先ほど心菜と話したでっち上げの内容を話す。

 「あら、それは大変!それで家に泊めさせてあげたいってことね?哲也も青春を楽しむようになったのね……。」

 勝手に謎の感動ゾーンに入ってしまった母親を俺と心菜は収まるまで見ているしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 


 


 


 

 

 

 

 

 

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