妖狐のあなたと交わす1週間の約束〜人間に無理やり化かされた彼女が消えるまでの1週間を最大限の愛で俺はおもてなしする〜

ぽてぃ カクヨム金のたまご選出

余命1週間の妖狐さん

セミがうるさく鳴く学校の帰り道。

 俺は一人下校路を歩いていた。

 今日は真夏日だとニュースでも言っていたが、確かにそうでいつもならする寄り道も今日はする気にはならない。


 家の近くには公園があるのだが、ここ数日は流石に暑さのせいか公園で遊んでいる園児達とその親などの姿も見受けられなかった。

 しかし、今日は違った。


 公園の横をいつも通り取り過ぎようとした時に俺はブランコを漕いでいる同い年くらいの女の子を見かけた。

 ただ静かに何も言わずにブランコをギィギィ鳴らして漕いでいる。

 こんな暑い日にしかも制服のジャケットまで着ているので明らかに異常者だし、普通は関わろうとはしないだろう。

 でも、なぜか俺はその女の子に吸い込まれるように公園の中へと足を進めていった。


 「おーい、こんなところで何してるんだ?しかも、そんな厚着なんかして……。熱中症になるぞ。」

 そう言うと女の子は首を傾げてからこう答えた。

 「ねっちゅうしょう?なんですか、それは……。人間になってから初めて聞く言葉……。」

 暑さで頭がやられてしまったのかはわからないが、急に女の子は人間になってからなどと言うことを言い出した。


 「とりあえず、お前こんなところにずっと居たら倒れるぞ?変なことはしないから、一旦うちで涼んでいったほうがいい。」

 そう言うと女の子は少し驚いた顔をしてから俺の後ろにベッタリとくっつくような形でついてきた。

 「お、おい。ちょっと距離近くないか……?」

 そう言うと女の子は少し首を傾げた後で何の言い淀みもなしにこういった。

 「人間の彼氏彼女と言うものは、距離をなるべく縮めて歩くものだと聞いていましたが……違いましたか?」


 「ちょっと待て!いつ俺がお前の彼女になるって言った?やっぱり暑さでおかしくなってるんじゃないか?」

 俺は本当にこの女の子がこの暑さで頭にダメージが入っていないかを心配した。

 「ていうか、さっきから『人間はこう言うものだと聞いた』だの、『人間になってから初めて聞く』だのどう言うことなんだ?」

 この女の子がさっきから真面目なトーンで言っていることがとにかく心配でたまらなかった。

 「それは、家についてから教えますね。」

 それだけ言ってまた女の子は後ろにベッタリくっついて離れなかった。

 

 俺は家に着くとすぐに自分の部屋へ行き、クーラーをつける。

「大分涼しくなってきたし、もう1回聞くけどどう言うことなんだ?こんな真夏日にジャケット着てたり、人間がどうたらこうたらだの……。」

 そう言った後で女の子は静かにこう言った。

 「心菜ここな……。」

 「え?」

 「心菜。それが私の人間にさせられる前の名前でした。」

 

 人間にさせられた。

 その単語に俺の頭はますますこんがらがってきた。

 「ど、どう言うことだ?つまりお前はクローン人間か何かってことか?」

 「くろーん人間と言うものは私は知りませんけども、私は先輩狐である桃伽ももか様にこの姿にさせられてしまったのです……。」

 狐、と彼女は言った。

 確かに昔話でも狐や狸が化けて、人を騙すような話は山ほどあるが実際にそのような狐を俺は見たことがない。


 「本当にお前は狐、いや白狐なのか?」

 「えぇ、そうです。信じられないのなら、私の先輩に会いに行きますか?」

 「行くが……その前にお前はその服装を変えたほうがいいぞ。明らかにこの状態で外に出たら怪しまれる。」

 そう言うと心菜は少し残念そうな顔をしながら、ジャケットを脱いでカーディガンを羽織っている状態になった。


 心菜の先輩がいるという神社は俺の家の近くの裏山にある稲荷神社にいるらしい。

 道中の木々で日光が遮られた薄暗い道を抜けると、大きな鳥居が一個見える。

 「桃伽様ー!私です!心菜ですー!事情を説明しなきゃいけない方がいるので、一緒にお話をしてもらいたいのですが!」

 心菜がそう言うと一瞬、神社の周り一体が夜になったかのように暗くなり、青白い炎が一個浮かんだ後で目の前に一匹の大きくて立派な狐がいた。


 「心菜よ、こやつが説明が必要と言っていた者か。」

 桃伽という名前らしい目の前にいる狐は俺の方をじっと見ながら心菜に話しかけている。

 「はい、そうです!私をくろーん人間だのなんだの変なことを言ってくるのです!」

 心菜は俺をポコポコと軽く殴りながらそう桃伽に訴えている。


 「まぁ、無理はないだろうな。心菜よ、おそらくまた似合わぬ格好でもしておったのだろう?」

 そういうと一瞬心菜は目を逸らした後で、はいと小声で答えた。

 すると、桃伽はため息をついた後でこう答えた。

 「全く、だから怪しまれるんだ。そもそもお前の妖力は後1週間で尽きるということを忘れているのか?そろそろ、人間の世界にも慣れたほうがいいぞ。」


 桃伽のその後の説明によると、心菜は神社で神の眷属として仕事をしていたが、ある日神の怒りに触れてしまい刑罰を下されることになったらしい。

 それが、この人間の姿にするという刑だったようだ。

 そして、その際に心菜が抵抗したためか、妖力が徐々に減った行く体へとなってしまい、ちょうど元の姿に戻れる予定だった1週間後に妖力が切れるらしい。

 

 「まぁ、そういうことだ。だからこの心菜のことは気にしないで良い。この稲荷神社には心菜の後継ぎとなる予定の白狐も決まっておる。」

 そう言って桃伽はどこかへ消えてしまった。

 

 

 

 

 

 


 

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