65.怯えて媚びても反省の色はない

 並べた三人をじっくり観察する。向かって右側から、金髪、赤毛、黒髪だった。


 金髪は先代王の弟殿下の息子で、王太子の従兄弟にあたる。一つ年上で、王太子そっくりの青い瞳だった。名前は確か……ライモンド・フェリノス。王太子以外、王女パストラ様しかいないので、王位継承権を持っている。


 赤毛の彼は筋肉でゴツゴツした体を、騎士に押し潰されていた。相当暴れたようね。騎士団長の甥で、ペリーニ伯爵家の次男カストだ。王太子に付いて歩く姿を見た程度で、面識があるとは言いづらい。


 三人の中で、一番腕力が強いのは赤毛のペリーニ伯爵令息だった。毒を飲ませる時に私を押さえつけたのは、彼でしょうね。


 紳士たる資格がないわ。武器も持たない令嬢を、無理やり押さえつけるなんて。それに私の方が親の爵位も上なのよ? 王太子の婚約破棄があっても、公爵令嬢なのだから。


 むっとして表情が動いたのを、クラリーチェ様は見逃さなかった。


「中央の赤毛か? あれが気になるなら、それ」


 扇で指し示すクラリーチェ様の仕草に、斜め後ろの騎士フェルナン卿は恭しく一礼した。彼の命令で、赤毛の伯爵令息の猿轡が外される。いえ、元伯爵令息になったのね。こそりと教えてくれたクラリーチェ様は、扇の陰で楽しそうに唇をにぃと横に引いた。


 猿轡が外れるなり、カストは騒ぎ出した。もう伯爵令息ではない以上、家名で呼ぶのは失礼だろう。主に残された親族に対しての配慮よ。平民なら、個人名だけが一般的だもの。でも直接呼ぶのは避けましょう。親しいみたいで気分が悪い。


「俺は悪くないっ! 命じられただけだ。何も知らなかった。許してくれ、なんでも話すぞ」


 捲し立てるカストに、フェルナン卿が溜め息を吐く。合図を受けた騎士が、口を塞ぎ直した。たぶん……大した事情を知らないわね。右から説明されて、左側に落としてくるタイプだ。クラリーチェ様は苦笑いして、ひらりと手を振った。


 ぎょっとした顔で、カストを凝視したのは黒髪のセルジョだ。コスタ侯爵家の嫡子だった。過去形なのは、彼が廃嫡されたから。お父上は財務関係の補佐官をしており、貴族派に属している。すでに我が家に正式な謝罪をしたと聞いた。


 余計なことを話されるとマズイと考えたのか、彼はもごもごと口を動かして呻き声を出す。しかし、カストは聞いていない。コスタ侯爵家から追放されたセルジョも、名前呼びしかないわね。よく見れば、黒髪というより焦茶色かしら。


「我が姪アリーチェに毒を飲ませた経緯、誰に聞くのがよいか……正直に話せば、多少は刑を軽くしてやろう」


 クラリーチェ様が「刑を軽く」と言った途端、全員が「うー!」と声を絞り出した。誰から聞いても碌な言い訳が出てこない。そう気付いたけれど、伯母様の好きにしてもらおう。


 ロベルディほどの大国を治める伯母様が、甘い人なわけはなかった。女王というだけで舐められ、吸収したばかりの国々を押さえつけ、こうして私の隣にいる。彼女は実力者であり、権力を持つ最高の味方だ。


「では、まず……金髪から話すが良い」


 全員を一斉に解放したら聞き取れないから、一人ずつ聴取する。けれど、全員がいる場所なので、自分に有利な話を始めるでしょう。それを次の人が否定する。その矛盾すら楽しむ気のクラリーチェ様は、私の銀髪の先を指で弄りながら笑った。

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