最終章:ホトップス、勇者、××
生放送開始、模擬戦(1)
「もう、こっちの準備は出来た。さっさと始めてくれ」
ホトップスのリーダー、タイシさんがぞんざいに言った。
さくらさん達を見る。
「こっちも大丈夫」
「うん!勇気くん、お願い!」
愛さんが僕のことを名前で呼んだとき、タイシさんが少し顔を歪めた気がした。
「生放送始めます、3、2,1,0」
僕はボタンを押した。
「みなさん、こんちには!ダンジョンアイドルズ!です」
「今日は前回と同様、コラボだ。コラボ相手は――」
遥さんの発言に合わせ、カメラをホトップスさんたちの方も映るように、調整する。
「他の誰でもない、俺たちがホトップスだ。」
「ホトップスさんはダンジョン攻略動画をメインに出していて、そしてダンジョンで8層まで潜って、そしてその様子を動画に収めた一番最初のグループ」
さくらさんが簡単な説明をした。
「あぁ、今日は新進気鋭のダンジョンアイドルズ!とコラボできてこちらも光栄だ」
「今日は、そんなホトップスさん達に、ダンジョンについてインタビューをしたいと思っています!攻略の最前線を走るホトップスさん達からしか聞けないような、話があるかも!?」
「期待してくれ」
……さっきからリーダーのタイシさんしか喋っていないような気がする。
他のホトップスのメンバーの様子を伺うと、どこか無表情で心ここにあらずといった様子だ。
確か、オンラインミーティングの際もタイシさんのみが喋っていたような気がする。
「では、早速インタビューを――」
「いや、先に模擬戦を行おう。俺たちとカメラマンとの模擬戦だ」
遥さんの発言にタイシさんが被せて、模擬戦の前倒しを要求してきた。
「事前の打ち合わせどおりに、行おう。スタンピードでユニークモンスターが街に現れたという想定だ。なので、カメラマンは守るべき一般人である、受付嬢に触れたら勝利だ。そして俺たちの勝利条件は――ユニークモンスターの討伐、実際には無力化だな」
そう言ってタイシさんは嗤った。
ホトップスさんたちが守るとは言え、半ば戦場に出される受付嬢さんを見るが、打ち合わせのときと同じように、大丈夫だと言わんばかりにニコリと笑うだけだった。
模擬戦の指定場所に移動した後、開始の合図が告げられる前に、改めてホトップスさんたちを観察する。
装備は全員軽装で、動きやすさを重視しているよう。
陣形は、確か剣闘士のジュンさんが一番前で、リーダーのタイシさんがその斜め後ろくらいに。
僕のちょっと後ろに狂戦士のカズヤさん。
そして、ジュンさんやタイシさんを超えた先に、炎魔法使いのリュウさんと、逃げ遅れた一般人こと受付嬢さんが居る。
タイシさんの目には、ダンジョンの魔物も抱く戦意と似ているようで、少し違う感情があるように見えた。
「ホトップス対カメラさんの模擬戦――始め!」
愛さんが開始を宣言した。
下手に逡巡すれば、後ろのカズヤさんが怖い。
僕は宣言と同時にジュンさんとの距離を詰める。
ハリセンの構え的に、回避しにくい横薙ぎだろう。
それを叩き落とすように――
そんな僕の予想は裏切られた。
ジュンさんの取った行動は、あちらも全力でこちらに突っ込む だった。
あぁ、そうだ。あのタイシさんの目は――害意だ。
僕がタックルを受ければ、ただでは済まないだろう。
一応そこそこレベルの高い僕でも だ。
僕のレベルが低ければ、なおさら致命傷になりうる。
こいつらと本当に愛さん達は模擬戦をしても良いのか?
その疑問の答えを確かめるために、ジュンさんのあまりの迫力に躊躇い、止まろうとしたように、ブレーキをかける。
ここは、ハリセンの間合いだ。
ジュンさんが僕を怪我をさせまいとするのなら。ただタックルが勝利のための戦略ならば。
ジュンさんは減速し、ハリセンを振ろうとするだろう。
だが、ジュンさんの目はうつろで、止まろうとする姿勢を見せなかった。
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