模擬戦(2)
衝突寸前に左手を出してジュンさんの左肩を引っ張り、回転させる。
そして僕はジュンさんに与えた力の反作用のまま回り、衝突を逸らした。
そしてそのまま駆ける。
「ファイヤーランス」
はるか前方から、魔法が飛んでくる。
街中で威力が減衰されるとは言え、人を焦がすには十分な威力だ。
だが、この距離ならば難なく避けられ――
ッッッ!
「聖剣召喚」
聖剣を召喚し、そのまま魔法を切り裂く。
思わず叫ぶ。
「味方にも当てる気か!?」
ファイヤーランスは、僕が避けたらジュンさんに当たりそうな軌道だった。
そしてジュンさんは僕が体勢を少し崩させたから、避けられるかは怪しい。
「あぁ、やはりそうだったか。声の言う通りだった」
タイシさんは何を言って――
「隷属せよ」
タイシさんがそう言った瞬間、体が強ばる。
自分の体に鎖をかけられたような感覚。
「チッ、効きが悪いか」
「何を――」
急な悪寒。自分の勘に従い、飛び退く。
衝撃音。さっきまで自分が居たコンクリートに、飛来してきた何かが当たった跡が残った。
「狙撃!?」
後方から風切り音。
ハリセンでは絶対に出ないような音を立てて、迫るそれを前に進むことで避け、振り返り確認する。
剣だった。ダンジョンの中ではよく使われ、されど人には向けられてはならないものだった。
「どういうこと!?」
さくらさんの怒鳴るような声。
だがタイシさんは答えず、懐に手を伸ばした。
「銃に警戒!受付嬢さん!」
咄嗟に愛さん達にお願いする。
そしてそのまま聖剣でカズヤさんの剣を切り裂く。
ッ、僕はどうすれば良い?
どうすれば、彼らは止まる?
タイシさんは、懐から取り出した黒く鈍く光るそれを僕に向け――撃ってきた。
何故かこれを避けたらまずい気がして、そのまま返す刀で銃弾を切り裂く。
そして一拍置いた後に右斜め上に跳ぶ。
衝撃音。地面に当たった銃弾は、そのまま砕けた。
あぁ、これは――殺し合いだ。
危険だ。無力化なんて甘いことを言ってはいられない。
僕の足に組み付こうとするような構えで突進してきた相手に回し蹴りを喰らわせる。
今度は連発されたタイシさんの銃弾を低く、沈むような体勢で避け、そのまま間合いに入る。
そして僕は――聖剣を振り切った。
手応えの無い感触は、人を斬ったということをあまり認識させず、されど吹き出す血が人を殺そうとしたという事実を僕に突きつける。
次は狙撃手を確保しなければ――
今まで聞こえてきた音から、どさりという音が響く。
それは、敵のリーダーが倒れた音だった。
音が聞こえた方向はそれだけではなく、周囲を見渡すと、敵グループ全員が地面に倒れていた。
遥さんたちも驚いたような顔をしていた。
そして、受付嬢は笑顔のままだった。
流石に違和感を感じる。
なぜこんな状況でも笑顔のままで居られる?
そして、そのまま受付嬢はにこにこしたまま、こちらに向かってくる。
いや、優先順位は狙撃手だ。狙撃手を止めなければ被害が――
「テロリストは、勇者の手によって止められた。あぁ、首謀者タイシによって操られていた哀れな人間は今、解放された」
受付嬢は笑顔のまま朗々と、世界に向けて謳う。
何を言っている!?そして何を知っている!?
「あぁ、流石だ勇者。それでこそ勇者だ。民はお前が居れば苦難から解放される未来が見えるだろう」
「カメラの向こうの民よ。想像するが良い。あらゆる強敵を切り裂こうとする輝かしい勇者の姿を」
「彼が最強だ。まごうことなき人類最強だ。彼に勝てる人類は、一人も居ないだろう」
嫌な予感にようやくピースが嵌った感覚がした。
僕が力を見せて、僕が圧倒的な最強と認められてしまったら。
「想像してくれ。そして実際に見学してくれたまえ」
僕が負けたとき、立ち上がれる人はどれだけ居るのだろうか。
「希望が沈み、これからは魔王の時間だ」
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