現実逃避 in ダンジョン
「お腹すいた」
さくらさんが、空腹を訴える。
時計を見ると7時30分で、平日だったらもう朝食を食べ終わっている時間くらいだ。
愛さんは少しもの言いたげだ。これから真剣に議論しようと言ったすぐに、ご飯を食べようと休憩を提案されたのだから、流石に心にくるかもしれない。
「私の感覚では、問題の共有はなされた。そしてなおかつ今の段階では情報が足りていない。愛が上にもう確認のメールを送って返信待ちなんじゃないの?」
さくらさんの発言に、愛さんは渋々ながら頷いた。
「ならもうご飯を食べて、冷静になろう。力に恐怖するんだったら、別にダンジョンに潜れば良い」
後半部分に少し違和感を感じる。どういう意味だ?
「朝ごはん、鮭茶漬けで良い?」
でも、愛さんには通じたみたいで、朝ごはんにすることを同意した。
「はい、というわけで今日はパワーレベリングされてみたという企画です。この物凄く強いカメラさんがダンジョンで無双します」
ダンジョンの4階層までたどり着いた瞬間にさくらさんが変な事を言いだした。
「何を言ってるんださくらは……」
遥さんと同意見です。
「あはは……」
愛さんも苦笑い。
「というわけで、勇気には4層のオークをRTA気味に狩ってほしい」
戦闘担当らしいので、遥さんの方を見る。
「危機にならないと、勇気君は万全の力が出せないんじゃないのか?」
頷く。流石になんのバフもない中で、オークを瞬殺は無理だ。
「じゃあ、後衛の私か、愛がオークの目の前に歩いてくから、死ぬ前に助けて」
「……」
可能か不可能かで言えば、可能だ。そして、その考え方は究極的には――
「もう大丈夫!そんな気を遣わないで!普通に進んでいこう!」
普通に進むという言葉に少し救われる。
効率を考えるなら、愛さん達を傷つければ良い。進むのに問題がないように、足以外の場所、両腕なり顔なりを傷つける。
そうすれば、味方のピンチで僕は力を発揮できる。
オークを見つけ次第狩っていく。
ユニークも出ないダンジョン探索は何の危険もなく、何の勇気も必要としなかった。
「そういえば、受付嬢さんって、何歳くらいまで勤めるんだろう」
急にさくらさんが謎の話題を振った。
「元々気になっていた。ダンジョンに長く潜っている人間はダンジョンの影響を受けるかもしれない。じゃあ、ダンジョンのすぐ傍に居る受付嬢さんはどうなんだろうかって。ユニークモンスター化することは――」
「どんな雑談!?ああ、そういえば研究に対して投資ってどうなったの?」
「面白い研究があった。ユニークはレベルアップした結果ではなく、人と近くなったことでなるものではないかという研究。私の感覚に近い。投資した」
「どういうことだ?あと、さくらの感覚とは?」
目配せをしあった結果、代表して遥さんが聞いた。
「レベルアップは、あちらに近づくということ。オークよりもゴブリンのほうが人に近い。5層から出るケンタウロスの方が、オークよりも人から離れている」
「研究ってどんなことするの?」
愛さんがおずおずと確認した。正直さくらさんの楽しそうな顔がろくでもない研究の予感がすごいする。
「生命のかたちの確認。内蔵はちゃんと存在するのか?存在する時、どのような臓器があるか?解剖して、体内を探って。あ、あと排泄関係の能力はあるのか とか」
オークを魔法で焦がしながらさくらさんは淡々と喋る。
「ゴブリンには、内臓はあった。オークにはほとんどの内臓があった。そしてダンジョンは食事をする。どんなものでも、生きていなければ飲み込む」
「だから正直、ホトップスには興味がある。あれだけダンジョンに長く潜り、レベルを上げてきた存在は人と一致するのか?それとも、徐々に変化するのではなく、境となるラインが存在するのか?はたまた、変化は起こらないのか?かなりドキドキする」
……
「……話は変わるが、ホトップスには女好きという噂があった記憶がある」
「あはは、単なる噂だと思うけど、気になるよね!」
「気になる。ダンジョンに生殖機能を持つ存在が居た記憶がないから、気になる。レベルアップしても性欲が失われないのならば、ダンジョンのモンスターに近づいていない。この前勇気を誘惑した時、照れていたようには見えた。照れは恋愛感情が基本的にベースとなっているはずだから――」
僕を誘惑って、どれのことだろうか。耳元で囁かれたときのことだろうか。それとも空から降ってきたときのことだろうか。
「……もう一層下って、5層まで行きます?」
多少危険が増えても、もうちょっと研究じゃないお話にシフトしたい。
「?雑談できる今くらいがちょうど良いんじゃないのかな?」
「5層まで行こう。レベルアップの効率をあげよう」
「そうだね!」
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