楽しい議論

「ダンジョンアイドルズ!第四回会議を行う。遥は議事録をお願い」


「分かった」


「オピニオンリーダーは私、風花が行う。愛は第三者の視点を優先で、鬼崎くんは難易度の調整を優先して欲しい」


「了解!」


「は、はい」


「本日の議題はダンジョンアイドルズ!のチームとしての目標と、個人としての目標のすり合わせ」


正直あまりぴんとこない。


「例えばチームのみんなはダンジョンをエンジョイしたいと思っているのに、チームの目標が深層攻略だとおかしいでしょ?目指す方向のすり合わせは大事」


「はいはい!」


「愛、どうぞ」


「政府の依頼はダンジョンのイメージ改善、探索者の増加だよ!そして私の目標はみんな楽しく!だね!」


「なるほど、鬼崎くんはどう?」


「僕は――僕の故郷を奪還したい」


「私の目標も領土の奪還だ」


宝木さんが続いてくれた。


「うんうん、了解了解。私の目標は」


「家族作りでしょ!」

光矢さんが被せた。


風花さんは頷いた。


「少し語弊があるけど大体そう」


「以上でみんなの目標が出揃ったと思う。暫定的にチームの目標を考えると、鬼崎くんの故郷の奪還になるけれど、愛、第三者視点の懸念はある?」


「英雄扱いで過労死!誹謗中傷!」


僕も内心頷いた。故郷の奪還だけならば、僕が十分にレベルを上げれば可能だと思う。

でも、その後は絶対に僕の手には負えない。


だからこそテレビ局に入社して情報を操作する側になりたかった。


……お前ダンジョンアイドルズ!専属カメラマンな と売り飛ばされたが。


「十分有り得るリスクだと思う。英雄扱いであれやれこれやれ対策として、負傷したことにする という案は一応考えた。誹謗中傷は――実害があるなら開示請求祭りかもしれない」


「政府、メディアに対しての強いコネも欲しいな!」


「必要だと思う。だけど、方法は十分考えるべき。メリットが提供されない相手に便宜を図ってもしょうがないから。私達が提供し続けられるメリットじゃなければ」


「あー、今まではお仕事を受けるとかも一応相手にとってメリットになっていたけど、これからはテレビのお仕事そんなとれないもんね」


「そう。かといってネット上での影響力も不安定。人気者が明日には炎上というのが十分多い」


「うぅん……難しいね」


「あと、私達はダンジョンについて知らなさすぎる。レベルアップを繰り返し怪物を倒せるようになった私達は、同じ怪物になっていた では困る」


「レベルアップって良いものなんじゃ」

思わず口をついてでた無意識の思い込み。


「少なくとも、レベルアップをするごとに普通の人には出来ないことが出来るようになっている。これは、違う世界のルールに染まっていっていると言える」


「……」


レベルって、ジョブって何なんだろうか。


「ダンジョンに対する研究への投資もしたほうが良いと思う。民間、国営問わず」


「魔石の安定した提供は、政府にとって十分貸しになると思う!」


「政権が変わるまでかもしれないけど……十分意味はあるかな」


「1パーティーで国を支えられるほど、魔石を取ることは難しいと思う」


一応苦言を呈す。


「じゃあ、高位探索者とのコネとかはどうかな!政府の人にとって十分魅力的だと思う!」


「研究の成果、あと私達、そして鬼崎くんの強さが話の取っ掛かりになるかな。良い案だと思う」


僕の強さがそこまで交渉材料になるだろうか。平常時の僕そこまで強くないんだけど……多分宝木さんにあしらわれる。


レベルが僕のほうが高くても、体の動かし方は圧倒的に宝木さんのほうが知っている。


「そのために、鬼崎くんのジョブについて知りたい。それと得意不得意」


風花さんがこちらをじっと見る。


目線をそらすが、その先は同じくじっとこちらを見つめる光矢さんだった。


「……ジョブ聞いても笑いませんか?」


「私は知ってるよ!」


「大丈夫」


「笑わない」


本当にどうやって光矢さんは僕のジョブを知ったんだろうか。他者のジョブを確認する方法なんて、自白か、スキルからの推測しかないのに……


「僕のジョブは勇者。恐らくユニークジョブです。スキルはパッシブの「勇者」と「聖剣召喚」です。パッシブの「勇者」の影響で、味方がピンチになったり、敵が強大だったりするとパワーアップします」


「……チートでは?」

風花さんがポツリと呟いた。


「成る程、平時では万全の力が発揮されないのか」

宝木さんはどこか納得したように頷いた。


「ちなみに私のジョブは聖女!さくらが大魔法使いで、遥が舞闘家だよ!聖女のスキル「神託」で勇気くんのことを教えてもらったよ」



……びっくりした顔をしているのは僕だけじゃなくて、風花さんも、宝木さんもだった。

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