不安
自分はかなり待遇が良いと分かって言うことではないが、里に特段不満はない。
だが一定数不満を持っていた人間がいたのだろう。反乱の規模は里が始まってから一番ではないか。
今までは、個々の力がずば抜けて強かったわけではなかった。いくら歯向かおうと、数の力によってどうとでもなった。
今は違う。
カツェン、いや、あいつだけではない。数多の天才がこの里に生まれたことによってパワーバランスが変化した。数の力を質で補える時代が到来したからだ。そしてその質を百パーセント活かせるカリスマ性のある人物が誕生して運命の歯車が狂いだす。
それが、カツェンという男。
どこから革命を起こそうという気概が出てくるのか。そのエネルギッシュさには尊敬する。
「里の未来のために! 我々の理想郷のために!」
そう口にするお前らは、昨日(さくじつ)の同輩による死屍累々を重ねた上に築いた平和でも構わないと思っているのか? ぜひ聞いてみたかった。
そして聞けばこう答えるだろう。
「必要な犠牲だ」
と。
これは里の上層部が、常に振りかざしていた理屈であり、また幼い頃からそういう教育(洗脳)をさせてきたという事実が、これらを一層滑稽にしていた。
皮肉とはまさにこのことだ。
里の中心部に向かいながら、反乱者を見つけ次第倒していく。
「ヴィーガン、君は里の誇りだよ」
自宅の近くにいた反乱者を倒して朝の爺さんに感慨深く言われたが、何とも不思議な気分だ。
同期の、それも同じクラスの仲間から反乱の首謀者を出しておいて誇り。
「僕は本館へ向かいます、後は任せますので」
もし、僕が学校から離れなければクーデターを防げただろう。
誇りとは、いい加減だ。人や立場一つでコロコロと変わる、儚い夢幻。
フラーデベルは無事だろうか。彼女は生家の方へ向かったが、今のところなんの音沙汰もない。そろそろ一報があってもいいと思う。とりあえず交信用の魔法を放つが何の反応もなかった。
「……変だな」
ちょっと外れたところにはなるがアイソートル家の屋敷がある。空を飛んでいるからそこまで大差があるわけでもない。もし事態が膠着しているのならば加勢できてちょうどいいだろう。
ものの三分くらいで屋敷の前だ。
奇妙なほど音がしない。風の通り抜ける音が聞こえる。
家主の趣味である庭園が広がっている。庭園とは名ばかりの数種類の薬草と気持ちばかりの花を植えている菜園だが、里では十分大きい部類に入る立派なものだ。成金趣味の貴族とは違い、必要最低限のものをいかに美しく見せるかに注力しているかが見て取れる。
その菜園の薬草は踏み荒らされ、木の枝々は折れている。草木の折れた具合を見るとほとんど時間は経っていないのだろう。
「中か」
それに気づいた時点で、罠にはまったことを悟った。
まんまと釣りだされたのか。
両開きの玄関は三割程開いている。その奥には誰がいるのか既に分かっていた。
何度嗅いだか知れぬ、血の匂い。
「存外遅かったな」
茶色の髪。顔のパーツは小さく、目は狐のようにこちらを見つめる。
反乱の首謀者。カツェン・レスペデーサだった。
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