胸中

 いつも疑問に思っていた。

 なぜ、俺たちは貴族の犬に成り下がらなければならないのか。先祖の境遇を呪うつもりはないが、ひとまず今代の老人たちには憤りしか覚えなかった。大貴族共にいいように使われ、死んでいく。バカバカしい、まるで戯曲の中の道化だ。先祖代々の境遇がそうだからと言ってそんないいように使われる義理はない。俺はそんな人生まっぴらごめんだ。

 俺は、里で一番強い。うぬぼれているわけではない、客観的な事実だ。ただ貴族にへいこらすることしか能のない老人共と違い、俺の強さは、天覚は本物だった。ヴィーガンも強いが、あいつは直接的な戦闘力そのものは高くない。単に仕事のできる駒というだけ。

 それは、若い世代を中心として多くの奴がそういう主張をしている。

 俺には、里の老人を皆殺しにできるだけの力がある。もちろんクーデターを起こして里を乗っ取るのも、現実的には可能だ。

 だがその先に待ち受けるのは、俺とその仲間たちが貴族によって処刑され、里が取り潰される未来だろう。

 仲間を守れずに死ぬ。そんな未来には何の価値もない。

 ならば、どうするか。

 決めた。

「虐げられている我が同志よ。我々は、十分に働いた。さあ今こそ立ち上がる時だ。我らは己の手で新しい里を作るのだ。腐りきった老人に代わって新しい里を作るのだ。何もこの地である必要はない。新たな地に、我々の楽園を築こう。もしこの想いに賛同するのならば、立ち上がってほしい」

 もはや引き下がれない、されど未来のあるこの選択を、里のどこかにいるであろう迫害されている同志たちに語り掛ける。

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