第16話 対話


 日本のトップ配信者である椎羅崇史と一対一で呑むなんて前代未聞の場に俺は何故か居た。一応付き添いとして紫織ちゃんがいるのだが、事実上一対一で問題ないだろう。


「沙里奈ちゃんのお兄さんなんだって?」


「はい。一応」


「一応っていうのは?」


「実の兄妹ではないんです。連れ子同士だったので」


「あぁ、そういえばそんなことをチラッと聞いたな。ごめん、ごめん。人付き合いが多い分、忘れることも多くて」


「いえ、大丈夫です。それよりどうして俺なんかを今回誘ってくれたんですか?」


「俺なんかって信拓くんは既にトップ配信者の仲間入りだよ。大物同士交流も大事かと思ってね」


「大物なんてそんな」


「で? 実際、どうなの? イカサマとかしちゃっている感じ?」


 崇史さんは急に声のトーンを低くして怪しむように言った。


「ちょっと! お兄ちゃん。信拓さんはそんなことをしていません!」


 間髪入れずに紫織ちゃんが割って入った。


「冗談だよ。紫織。ほら、普通に考えたらやっぱり疑いたくなるじゃない? ここだけの話どうかなって思ってさ」


「俺、イカサマとかしませんよ」


「そうか。やっぱりあれは実力なのか。いやぁ、だとしたら凄いよ。どうやったらあんな攻略できるんだい? 良かったら教えてくれないかな?」


「感覚でやっているので教えるようなことはありませんよ」


 そういうと崇史は難しい表情を浮かべた。

 やはり俺のダンジョン攻略はイカサマを疑いたくなるようなものだった。

 それは視聴者からも散々言われてきていることだから慣れているけど、ここまで面と食らって言われるとどうも嫌味に聞こえる。


「信拓くんは僕の配信は見たことあるかな?」


「はい。全部ではないですけど、数本は」


「それを見てどう感じたかな?」


「そうですね。リアクションが大きくてツッコミが面白く見ていて楽しい配信だと思います」


「それはどうも。そういう外観的なものではなくて中身はどう感じたかな?」


「中身? ゲームテクのことですか?」


「そう、それだよ」


「楽しめていないように感じました」


「楽しめていない? この僕が?」


「はい。なんていうか、視聴者を気にしたものばかりで自分自身があまり楽しめてないって印象ですね。自分のためというより周りを気にして本気で楽しめていない。そんな感じです」


「僕の聞きたかった意味合いとは少しズレているけど、君のいうことは最もかもしれないね。まぁ、自分だけが楽しむのは趣味だ。これで稼いでいるのは仕事だ」


「そうなんですよ。それが難しいんですよね。俺も楽しんでダンジョン配信をしているけど、稼ごうと思ったらやっぱり視聴者の気に入られる反応が必要になります。それって俺になくて崇史さんにはあるものですよね。それってどういう対応をしていけばいいのか、今日は教えてほしいんですよ」


 ポカーンと崇史さんは呆然としていた。


「あれ? 俺、何かまずいこと言っちゃいました?」


「いや、教えてもいいよ」


「本当ですか」


「その代わり、僕にゲームの楽しみ方を教えて欲しい」


「え? 楽しみ方ですか?」


「君は楽しんでやっていることがよく分かる。だから教えて欲しい」


「いいですけど、参考になるかどうかは分かりませんよ?」


「是非、教えて欲しい」


 何故か、崇史さんと意気投合して酒が進んだ。

 お互いの持っていないものを教え合って情報交換をする。

 これがまた勉強になって配信に活かせそうな気がした。




 そして呑み会が終わった帰りのことである。


「いやぁ。紫織ちゃんのお兄さん。良い人だったな。最初はどうなるかと思ったけど、良かった、良かった」


「信拓さん。大分、呑んでいましたね。あんな嬉しそうなお兄ちゃん久しぶりに見ました。今日は本当にありがとうございました」


「いや、いや。こちらこそ参考になったよ。早速、配信しようかな」


「そんな酔っ払いの配信なんて見たくありませんよ。せめてお酒が抜けてからお願いします」


「はーい。そうします」


「では私はこっちなので失礼します」


「うん。気をつけて」


 あれ? 頭がクラクラする。今日は呑みすぎたからなぁ。

 そう思った矢先である。足元が何重にも重なって見えた。


「うっ!」


 ゴンッと俺はずっこけてしまう。


「信拓さん? だ、大丈夫ですか? 信拓さん!」


 紫織ちゃんの声が聞こえたが、その声は遠のいていくように聞こえていた。

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異世界から現実世界に戻ってダンジョン配信を始めたら実体験の場面しかなくヌルゲーになっていた。攻略不可とされていたダンジョンを容易く攻略してしまった結果がこれです。 タキテル @takiteru

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