第11話 交渉
「私とコラボしてほしいって? 何でお兄ちゃんとコラボしなきゃいけないのよ」
沙里奈は困惑したようにげんなりとしていた。
「頼むよ。今、勢いを付けなきゃ登録者数増えないんだよ。ここはもう沙里奈に頼る他ないんだ」
「嫌よ。一緒にやるのが嫌だから個別でチャンネル作ったのに何でわざわざコラボすることになるのよ。それじゃ意味ないじゃないの。話があるから何かと思ったらそんなこと? やめてよね。兄妹配信とか恥ずかしいじゃないの。無理、無理」
沙里奈は断固として受け入れない様子だった。
「私からもお願いします。沙里奈さん」
紫織ちゃんも俺と同様頭を下げてお願いをする。
「あなた誰?」
「申し遅れました。私はこう言う者です」と名刺を差し出す。
「椎羅ってまさか……」
「はい。
「いや、いや。お世話になっているのは私の方だけど、まさか妹さんが居たなんて知らなかったなぁ」
「以後お見知りおきを。現在は信拓さんのお手伝いをさせてもらっています」
「そ、そうなんだ。いや、それはそうとコラボは嫌なの。だから帰ってくれる?」
「どうして頑なにコラボを嫌うんですか?」
「どうしてって言われても私、コラボ好きじゃないのよ」
「そうですか。信拓さん。行きましょうか」
「行くって説得しなくていいのか?」
「嫌と言い張っている人に無理にお願いをするのは逆効果です。嫌々でコラボしたところで良いものにはならないです。諦めも肝心なんですよ」
「でも沙里奈を逃したら俺には頼る相手がいないんだけど」
「それもまた仕方のないことです」
この子、急に冷たくなったか。フリではなく本当に帰ろうとすることを見ると本気なのかもしれない。
「ま、待ちなさいよ」
沙里奈は待ったをかける。
それに驚いた俺と紫織ちゃんは振り返った。
沙里奈は少しもどかしいようなぎこちない表情を浮かべながら口を開いた。
「一回だけ……」
「え?」
「だから一度きりのコラボだったら許すって言っているの」
「沙里奈。いいのか?」
「仕方がないからやってあげる。コラボを拒否したって椎羅さん(兄)に告げ口されたら顔が立たないからね」
事務所を辞めたとはいえ、沙里奈は椎羅崇史に大きな恩があるようだ。
嫌な印象を与えられたくないと言うのが本音に見て取れた。
どのみちコラボをしてくれるのならありがたい話だ。
「話が分かる妹さんで良かったですね。信拓さん」
ニコリと紫織ちゃんは笑った。
まさか狙ってやったのか。うっすらとそのように過ぎった。
「編集や雑用は私に任せて下さい。さぁ、どのようなコラボ配信をするか打ち合わせしましょう」
パンと手のひらを合わせて紫織ちゃんは仕切り出した。
良いように話を持っていかれて打ち合わせが進む。
「沙里奈さんの配信を見る限り、日常のどうでもいい内容やコメントに対する回答を喋りながらダンジョン配信する流れが一般的ですよね」
「どうでもいいとは失敬な。世の中の疑問を問いかけているのよ」
否定するように沙里奈は口を挟む。
「それはそうとして。信拓はダンジョン内で起こっていることをその場に合わせて喋っているだけ。攻略方法が独特で視聴者を驚かせるものが多いので話題になりやすい。誰かが真似をしようにも真似できないものだから信拓さんの個性だと思います」
「それはどうも」
「そこで今回するコラボは二人の個性を生かした配信にしたいわけです」
「と、言うと?」
「ダンジョン配信をしながら二人の思い出話をするんです」
「思い出話?」
「兄妹なんですから昔の印象に残っているエピソードがあるでしょ。当時を振り返って語って下さい」
紫織ちゃんにそう言われて俺と沙里奈は目を合わせた。
「ある? 私たちにそんなエピソード」
「いやーどうだろうか」
何せ、沙里奈と兄妹として生活をしていたのは一年足らずだ。
あまりにも内容が薄い。
俺たちの兄妹事情を紫織ちゃんにそれとなく言う。
「なるほど。実の兄妹ではないんですか。なら昔のエピソードがないなら今のエピソードを語ったらどうですか?」
「え、えぇ」と俺と沙里奈は複雑な表情をする。
言うにしてもそれを視聴者に公言するのはどうかと思う。
しかし、コラボで知名度を上げるためには避けられない。話は加速した。
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