第10話 始動


 チャンネルを作成し、本格的に配信活動に入った俺は初配信からバズり始める。


〈この人サリちゃんのお兄さんじゃん〉


〈確か攻略不可のダンジョンを攻略したって言う?〉


〈それだ。個人チャンネル作ったんだ。登録、登録〉


〈無双するところを見せてくれ。もっと見たい!〉


「どうやらチャンネルの登録者数が増え始めているようですね」


 紫織ちゃんは手応えを感じていた。


「これで俺も配信者の仲間入りか。お金もガッポリ。なんちゃって」


 ニヤニヤする俺に紫織ちゃんは冷めた口調で言う。


「信拓さんはまだ無収入ですよ」


「何で? 登録者数は五桁に突入したのに」


「そんな簡単に収入源になるわけないじゃないですか。勿論、登録者数は大事ですけど、配信サイトの審査が通らないと収入になりません」


「審査?」


 俺は紫織ちゃんから細かく配信者の収入について教えられる。

 無知識なため、初めて聞く言葉が並んでいた。

 歳下の女の子から大の大人が教わる構図は変なものだが、紫織ちゃんは俺よりも配信者としての知識が豊富である。


「分かりましたか? まずは審査が通って問題なければ収入になります。ただ信拓さんの場合はうちの事務所に所属しているため、今のままだと取り分はこんなところですね」


 パチパチと紫織ちゃんは電卓を叩いて俺に見せた。


「たったそれだけ? 小遣いにもならないじゃないか」


「だから最初は厳しいんです。そもそもこの業界で喰っていける人なんてごく一部です。収入があるだけでも有難い業界なんですよ? その点、信拓さんはラッキーです。完全な無の状態からここまでしてくれる環境があるんですから収入どうこうより、生活を保障してくれる方が大事ではないですか?」


「それは仰る通りです」


 浮かれていた俺だったが、実際はそんな甘い話はない。

 結局はコツコツやっていくしかないのだ。


「一緒に頑張っていきましょう。信拓さんならすぐに独り立ちできますから。それまでは私が全力でサポートしますから」


「あ、ありがとう。何だか好きになっちゃいそうだな」


「ば、バカ言わないでください。私は仕事として信拓さんを導きたいだけです」


「冗談だよ。仕事でもそこまでしてくれる紫織ちゃんには感謝しかないよ。本当にありがとう」


 そう言うと紫織ちゃんは外方を向く。今、赤くなったような?


「一つだけ言わせてもらいますけど、私は小動物を見捨てる邪道な人間ではありませんから」


「しょ、小動物?」


「今の信拓さんはあれです。そう、捨て犬同然なのです。私はそう言う命を救う義務があります。だからここで信拓さんには死なれたら困るんですよ」


 この子は急に何を言い出しているのだろうか。照れ隠しにしては少しぶっ飛んでいるような気がする。

 それはそうと今の俺は実力があっても知名度が足りていない。

 おまけに収入があったとしても殆ど事務所に持って行かれてしまう。

 何かこう一気に知名度を爆上がりする方法はないだろうか。

 動画の質を上げる? でもそれには限界がある。

 紫織ちゃんがいくら優秀だとしてもあくまで編集の技術だ。

 だからといって他に編集を雇う金は俺にはない。


「結局、コツコツとダンジョン無双で知名度を上げるしかないか」


「視聴者を一気に取り入れたいってことならとっておきの方法がありますよ」


 紫織ちゃんは淡々と言う。


「え? あるの? それはどんな方法?」


「有名配信者とコラボすればいいんです。そうすればその視聴者が信拓さんの配信をみて登録してくれます」


「なるほど。でも俺にそんな知り合いはいないしなぁ。あ、そうだ。紫織ちゃんの兄貴とコラボさせてくれよ。そうすれば一気に……」


「兄は忙しい身です。そんな時間はないと思います。それに兄はコラボとかあんまり好きじゃないんですよね」


「じゃ、事務所経由で誰か紹介してくれない? コラボしてくれる有名配信者いるでしょ?」


「私は入ったばかりですので顔は広くありません。第一、相手からしてもメリットがないとコラボはしてくれないものなんですよ」


「ダメか。じゃ、どうすれば……」


「いるじゃないですか。信拓さんの周りで一人有名配信者が」


「そんな人いたかな……」と俺は思い返して見てハッとなった。


「その手があったか。んー、でもなぁ……」


「事務所としてもそのコラボなら賛成すると思います。まぁ、一度連絡を取ってみて下さいよ。ね?」


 紫織ちゃんに後押しされて俺は仕方なく連絡を取ることにした。


「あ、もしもし。俺だけど、うん。今からそっちに行ってもいいかな?」


 俺は電話で連絡を取って会うことになった。

 まずは有名配信者とのコラボ。

 これが最も効率の良いチャンネル登録者数の増やし方だった。

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