第9話 乱入
「そう言えば信拓さん。あの攻略不可と言われたダンジョンを攻略したそうですね」
紫織ちゃんは話の流れでこのように聞いてきた。
「あぁ、そうだけど」
「SSランクのダンジョンは兄が攻略したことがあるのですがSSSランクだけは兄でも攻略が出来なかったんです。それを攻略したと言う信拓さんはその………どんな手を……?」
「つまりイカサマをしているのか疑っているってことか?」
「えぇ。少し」
「なら実際に見てみるか? もう配信できる状態になっているんだろ?」
「あ、はい。拝見させてもらっていいですか?」
「勿論だ。じゃ、早速プレイするか」
Sランクと呼ばれているダンジョンに俺は入る。
今まで攻略不可とされていたダンジョンより難易度は低いが、それでもSランクだ。初心者ではまず攻略できない。
ここはモンスターの館と言われており、狭いエリアで無数のモンスターが襲ってくるダンジョンである。
行動範囲が限られている分、距離を取って考える時間がないことから判断ミスがゲームオーバーに直結する。
「一応カメラを回してます。信拓さんの実力を見せてください」
「お任せあれ!」
進むにつれてモンスターの数が増えていく。
前方、左右、上、下とどこからモンスターが出てくるか分からない。
それでも俺は難なく倒していく。
「凄い。ここまで一撃も喰らっていないなんて」
「こんなのまだまだ余裕だよ。数が多いだけで出てくるモンスターはレベルの低い敵ばかり。紫織ちゃんはこう言うのやったことあるの?」
「まぁ、兄の影響でしたことはありますけど、信拓さんほどでは……。それより喋りながら出来るんですね。普通の人は集中するためにここは無口になるのに」
「別に喋りながら出来るよ。身体が覚えているから」
「何回もプレーしているんですか?」
「ゲームでは初めてだけど、実体験で何百回と挑戦したから」
「実体験?」
やべ。俺が異世界に居たことは内緒だった。
「あーいや、勿論ゲームでね。手が吸い付いているように覚えているって意味で」
「そうですか。それならまぁ、納得です」
なんとか誤魔化しつつ、俺はボスステージまで辿り着く。
ボスは今まで倒したモンスターの怨念が一つになって巨大化した生命体である。こいつを倒せばゲームクリアだ。
「さて。こいつをチャッチャと倒して……」
その時である。俺の後ろから何者かがボスに斬りかかった。
【ここまでの誘導、ご苦労。この私がボスにトドメを刺してやる。君はそこで見ているがいい】
突如現れた謎のプレイヤーが美味しいところ取りをする。
「な、なんだ。こいつ。いきなり現れて。こんなのありかよ」
「たまにあるんですよ。無断でパーティに入り込んで息を潜めてタダ乗りするプレイヤーが。パーティがゲームをクリアすればメンバーに報酬があるんですけど、それに加えて活躍報酬もあるんです。ボスを倒せば一気に報酬が増大します」
「なんだよ、それ。タチ悪いな。いくらゲームでも常識ないのか」
「顔が見えないことをいいことにそう言うことをする人は一定数います。特に配信者の間で起こっていまして厄介な存在なんです」
「ちっ! こんなやつ!」
謎のプレイヤーに斬りかかるが攻撃はすり抜けてしまう。
「無駄です。パーティを組んだことになっているので味方には攻撃できません」
「じゃ、どうすれば?」
「パーティの取り消しはダンジョンをクリアするかログアウトするしかありません。後は相手より先にボスを倒して妨害するしかありません」
「ログアウトしたら相手の思う壺みたいでなんだか悔しい。こうなったら奴より先に倒すしかないか」
俺は謎のプレイヤーからボスに攻撃対象を切り替えた。
攻撃のセレクトを選択するが、攻撃の画面に切り替わらない。
「あれ? 何で?」
「フリーズしているんですよ。これは電源を切るかしないと治らないかもしれません」
「くそ! こんな時に!」
そうこうしている間に謎のプレイヤーはボスにトドメを刺した。
「グオオォォォォ!」
討伐成功の演出が流れてゲームクリアの表示が出る。
そしてクリア報酬の分配画面では謎のプレイヤーにボス討伐報酬がガッポリと入り、一気にレベルを上げていく。
【ご馳走様でした。また利用させてもらうから覚悟しておけよ】
謎のプレイヤーからそのような捨て台詞を吐いてログアウトされた。
「ヤロー。許せねぇ。絶対に痛い目に合わせてやる」
ゲーム越しからでも分かる嫌味な顔が浮かび、俺は無性に腹が立った。
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