第5話 疑いを晴らすために
俺が勝手にゲームをクリアさせたことと配信をした履歴からすぐに沙里奈にバレてしまった。
「これ、お兄ちゃんでしょ。勝手に触らないでって言ったよね?」
沙里奈は腕を組みながらしかめっ面で俺を攻め立てた。
「はい。申し訳ありませんでした」
俺の反省した態度に沙里奈は「はぁ」と溜息を吐く。
「よりにもよって生配信。おまけにお兄ちゃんの顔は知れ渡った。言いたいことは色々あるけど、一つだけ言わせてもらうけど、本当にあのダンジョンをお兄ちゃんがクリアさせたの?」
「そうだけど」
「そうだけどって誰もなし得なかったことなんだよ? 裏技やイカサマをしたんじゃないの?」
「普通にクリアしたよ」
「今までやったことないのに一回でクリア出来るはずない。どういう小細工をしたのか教えなさい!」
沙里奈は勝手に配信したことよりどうやってダンジョンをクリアしたのか気になってしょうがない様子だった。
そんな驚くことかと思いつつも説明しようにもこのようにしか言いようがない。
「ゲームをするのは初めてだけど、実体験の映像をそのままプレーしただけだよ」
「実体験って?」
「言っただろ。俺は眠っていた間は異世界に居たって。その時の映像がまんま出てきたからそれと同じように攻略しただけだ」
「それはつまり正夢ってこと?」
「正夢とは違うよ。実際に体験したことなんだから」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。頭が痛くなってきた。異世界? 実体験?」
沙里奈は酷く混乱した様子だった。
無理もない。こんな話、現実で信じてもらえるはずはない。
しかし妹には真相を知ってもらいたいという欲があった。
「証拠! 証拠を見せてよ。お兄ちゃんが異世界に居たっていう証拠を!」
「証拠って言われても何もないよ。俺の頭の中を覗けるのなら別だけど」
「何かあるでしょ。そうだ。異世界に行ったなら何かスキルがあるでしょ。炎出したり水を出したり。そういうことして見なさいよ」
「残念だが、こっちの世界に戻ってくる時にそういったスキルは使えなくなっちゃったんだ」
「証拠がないんじゃ、ただのインチキじゃない。今すぐ謝罪動画を上げなさい。クリアできたのはインチキでしたって」
「だからインチキでも何でもない。証拠といえば俺の頭の中にある。経験したことは全部頭に入っている。それが唯一の証拠だ」
「なーんか胡散臭いなぁ」
「なら次の難易度の高いダンジョンをクリアしてやる。それだったら信じてくれるか?」
「まぁ、クリア出来たらね」
沙里奈監視のもとで俺はオンラインゲームに入った。
地下層の中で最難関と言われている沼地のダンジョンに俺は挑戦することになる。あぁ、ここか。懐かしいなぁ、と思いつつ俺はゲームを進める。
「それも迷い森の迷宮と同等のSS級ランクだよ。今までにクリアした人はいるにはいるけど、一人か二人って話だったと思う。これを一回でクリア出来たらお兄ちゃんが本当のことを言っているって信じてあげる」
沙里奈は終始信じていない。俺のゲームーオーバーを見て言い負かそうとしているのが目に見えた。
「ここは確か地下九十九階がボスステージだったな。前に攻略したのは二年くらい前だったな。あの時は苦労したなぁ」
過去の実体験を思い浮かべながら俺は苦戦することなく楽々と九十八階まで辿り着いた。
「何で当たり前のように進んでいけるのよ。私が挑戦した自己ベストは地下八十階なのに」
「へーそうなんだ。頑張った方だと思うぞ。俺もここまで辿り着くのに半年は掛かったからな」
「お兄ちゃん。本当に異世界に居たの?」
「だからそう言っているじゃん。お、やっとボス戦か」
ボス戦はヤマタノオロチで無数の首が襲い掛かる。
少しでも気を緩めば一発で捕食される。
当時は仲間に助けられながらだったが、今の俺は一人でも全然余裕だ。
ズバーン! と、首をどんどん切り落とす。
そして最後の首になった時だ。巨大化した首が俺に襲い掛かる。
「あ。お兄ちゃん。危ないよ」
「大丈夫。でかくなったことで動きはかなり遅くなっているから」
俺は頭上にジャンプして剣を下に向ける。
そのまま落下速度を利用して最後の首をブッ刺した。
ズバッ!
とどめを刺したことでヤマタノオロチの身体は浄化して消えていく。
「フゥ。倒した!」
やはり身体は覚えているようで攻略の仕方も身に付いている。
俺にとって実体験で得たダンジョンはヌルゲーになっていた。
「こんなこと有り得ない。でもイカサマをしているとは思えないし、本当に実力ってこと?」
「だからそう言っているじゃないか……って何しているの?」
俺がクリアして沙里奈に目を向けるといつの間にかカメラを向けていた。
まさかダンジョン攻略をずっと撮っていたのか。別にいいけど、一言言ってくれとは思う。
「沙里奈?」
「お兄ちゃん。私の知るお兄ちゃんじゃないんだけど」
「お前は今までどんなお兄ちゃんに見えていたんだよ」
「真面目でコツコツ勉強しているような根暗野郎だと」
「沙里奈はお兄ちゃんのことをそんな目で見ていたのかよ。まぁ、それは置いといてとりあえず俺が異世界に居たって信じてもらえたか?」
そう言うと沙里奈は高速で首を縦に頷いた。
急に人を見る目が変わったようだ。
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