第21話 文明開化の音が聞こえる
ーー 新領地改革を進めよう
充実した学校生活の間に魔の森での魔物狩りを繰り返して僕らのチームのレベルはかなりの高ランクになった。
まあ使い魔などの力を借りてしまうとほとんど敵がいないために彼らには支援のみに徹してもらっているが。
僕は子爵として自分の治める領地の視察を計画していた。
それと並行して領地の文明開化を目論んでいた、実家の近くの岩山に秘密の基地を作りものずくりをしていたぼくは、かなりの魔道具をそこで作り上げていたからだ。
「先ずは酒と衛生商品を根付かせよう。」
と1人領地の開発を呟いていると
「私にも加わらせてよね。」
とカレンが耳ざとく聞きつけて話しかけてきた
「勿論、カレンと過ごす領地だからな頑張って素敵ねと言わせるよ。」
と答えると耳まで真っ赤になって
「私と・・シャドーの・・」
と呟いて何処かに走って行った。
まだまだウブですね。
ー 代官との話し合い
子爵領には今代官が居る、これは王家が派遣した者で僕が学校を卒業するまでの間の代官である。
これまでこの領地は別の子爵家が所領していたが余りも酷い領主だった為お取り潰しにあい、現在は王家が管理していたものであった。
ただ以前の領主の影響がまだ根深く残っており立て直しにかなり時間がかかる可能性があると言う話だった。
そこで代官をしている男爵に現状報告を頼んだのだ。
ー 代官 エステール男爵
私は、スリランド王国の王城詰めの官吏で、予算関係を主にしていた財務方である。
この度急遽第三王女の降嫁先となるシャドー子爵領に代官として派遣されることになった。
派遣されて早1月、既にここの領地のおおまかな経済は把握した。
どう見てもここは貧しい領地といえる、以前の領主が無茶苦茶やったと聞いてはいたが・・・暫くは黒字経営は無理だろう。
それが私の意見だった。
そして新領主に会いに辺境伯領に来ている、ここは王都違うがかなり発展した領地であることはすぐにわかる。
広々とした石畳に整然と区分けされた田畑には実りがしっかり感じられる。
街中も清潔で嫌な匂いひとつしない、代わりに街のあちこちから良い匂いが鼻をくすぐる。
この領地の変貌はごく最近だと聞いた、何でも新領主のシャドー子爵がまだ平民の頃、次々に便利な魔道具を作っては辺境伯に渡していたおかげでこうなったと。
信じられない話だ、その頃の子爵は未だ5歳くらいだ。
しかし私はこの後この考えを捨てることになる。
シャドー子爵に会うと年齢相応の少年がそこに居たが、一度領地の話になると自分が誰と話しているのか分からなくなった。
灌漑用水から上下水道まで子爵の魔道具で作り上げられると言う、しかも既に酒や石鹸にシャンプー?を作る準備もできていると言う、今後は服用に素材を集め被服も特産にしたいと言った。
確かにあの領地ですぐに出来ることは、農業以外のことしかない。
しかもその農業についても考えがあると言う。
後1年8ヶ月の間私が行うのは、子爵が主導で行う領地改革の監視だと言う。
そのまま幾つかの魔道具を渡されて私は子爵領へ戻って行った。
ー 子爵領にて
シャドー子爵から渡された魔法袋から魔道具を取り出している。
子爵からはできるだけ広い小屋で出すようにと言われていたので、昔多くの牛を飼っていた牛舎を改築して倉庫にしたのだ。
「これは!」
魔道具を取り出すとそれはとても大きな魔道具だった、説明書によると酒を作る魔道具のようで上から材料である芋、米、麦、ブドウなど種類ごとに入れボタンを押すだけと言う。
私は周辺の農家より買い取った材料を説明通り洗ってから放り込みボタンを押した。
その他にも石鹸を作る魔道具などが多数あり、その条件を満たした場所に設置して稼働させた。
ー 2週間後
魔道具から出来上がる製品を確認に訪れた私は腰を抜かさんばかりに驚いていた。
まず酒の魔道具からは、材料さえ入れれば毎日樽1つの酒が出来上がる。
しかももう一つの魔道具に倉庫に入れると3日で数年分の熟成が行われるのだ。
仕事のない村人に倉庫の管理と材料集めに酒の販売の仕事を与え出すと、王都から商人が多く集まってきた。
どうやら試飲というものをやって味を確認した商人が我先にと買い付けに来ているのだ。
既に村には100樽近い酒ができておりこの売り上げがこれから先の領地の改革の資本となっていた。
次に石鹸とシャンプーと言われる髪や体を綺麗にする物だが、今王都の貴婦人の間で大人気商品となりこれも引く手数多で製造の管理や補助をさせるために多くの領民を雇い入れた。
今では両産業のおかげで領民の7割に仕事が行き渡っている。
その後追加で子爵が送ってきた魔道具は機織りと言うもので、糸をセットすると自動で布を織り始めるのだ。
これも糸の材料が珍しい魔物の糸ということで肌触りが抜群んで丈夫な布が次々に出来上がり、反物販売からそれを使った縫製を領民に与えたところ次々に立派な服やドレスを仕上げて行った。
何でも子爵が型紙という布を裁断する際に使う物を与えたというが私にはよく分からなかった。
これらのおかげで半年後には、領地内の産業が安定し黒字も黒字の経営となって行った。
領民も高い給金をもらい栄養価の高い食事や綺麗な服を来始め、私が赴任した時と全く違う感じとなった。
ーー 領地の改革を本格的にしよう
ー 2学年6ヶ月目
長期の休みに入った。
僕はカレンや仲間を連れて領地へ足を踏み入れていた。
「聞いていた以上に賑やかじゃないか」
カミュが街中の様子にそう口にした。
「でも少し匂いがするわね。」
カレンが言えばチカも頷く。
「そうだね未だ本格的に改良をしていないからね。これから一ヶ月僕がこの領地を変えていくよ。」
という僕の言葉にカレンは
「頼みにしているわよ、旦那様」
と揶揄い気味に声をかけた。
ー 灌漑用水と上下水道
僕は領地改革に一つの案を持っていた。
農地が全くダメな状況にある今、そこに新しい街や村を作り古い街などを壊して新たにそこに農地を開拓するつもりなのだ。
その為に農業以外の手段で領民の生活を安定させる必要があった。
それは今の所うまくいきすぎるぐらい上手くいっている。
領地全体の地図を取り出すと綺麗な街並みを書き込んでいく。
「こんな街並みができたら素晴らしいでしょうね。」
覗き込んでいたカレンがそう呟くがそれが実現できるのだ。
僕はその地図を手に空に舞い上がるほぼ領地の中央の上空高くから魔法を発動する。
「転写」
これは地図の町並みの枠を地面に写しとる魔法で、測量などをする手間が省けるのだ。
その後は上下水道や灌漑用水用の溝や穴を掘りながら水脈と繋いでいく。
水路が完成すれば次に道路網だ、道路作成用に創造した土魔法を十全に使い1日20kmほど道を作り続ける。
10日もすると大まかな街道は完成する。
街や村を囲う城壁を作っていく、高さは30m幅は5mだ。
毎日領内の様子が変わることに気づいた領民達が見学に来ることも多くなった。
次に行うのは家の建築だ、古い家を収納して移設することも考えたがせっかく新しい街になるのだから僕からのプレゼントだ。
魔の森での切り倒した大木を水抜きして製材する、規格はほぼ同じ。現在の領民は約5000戸で人口は25000人と聞いている。
建築用の金具を召喚して揃えれば1週間で数を揃えられた、そして建前だがそこにきて領民たちが手伝いたいと申し出てきた。
僕は街や村ごとの区割りをした地図を見せどこに住みたいかを決めさせた。
「自分の家は自分らで建ててくださいね、資材は提供しますから。」
と言いながら見本となる建物を5軒分ほど建てると参加したものが次々に教えながら家を建て始めた。
その途中で僕らの休みは残り少なくなったので、あとは代官に丸投げして領地を後にした。
ー 代官エステール男爵 side
またもや子爵様がおやりになられた。
私は想像を超える街づくりに感動していた。
「休みを利用して領地改革に手をつけるよ。」
と言う手紙をもらっていたが、来て直ぐに大規模な魔法を発動し領地内に地図が書かれていた。
ダメになった農地を使い新しい街をそこに移設すると言う。
川の水や地下水というものを使い灌漑用水や上下水道を作り上げた領主様は、次に道路を完成させた。
平らで広い石畳の道は領内を縦横無尽に走っており、交通の弁が格段に向上した。
次に巨大な城壁を作り始めた、1人で作るにはあまりにも巨大で長大な壁だ。
私はこの光景を見ながら子供の頃に母に読み聞かせてもらった大賢者の物語を思い出していた。
「人1人の力でここまでのことができるとは、彼の方は神に愛されている。」
思わずそう口走る感動だった。
その後は街づくり家の資材を山のように準備して領民を手伝わせながら建築技術を伝える、覚えた領民は次々に他の家を完成させる。
2月後にはほぼ全員の家が出来上がっていた。
領民は自分で選んで自分で建てた家に家財道具を持ち込み、生活を始めたがその生活がとても良いと評判になっている。
まず水は、汲みに行かずとも各家庭にある蛇口と呼ばれるものを捻ると綺麗な水が豊富に出るのだ。
しかも風呂場という浴室がありお湯まで出るという。
自分たちで作り販売している石鹸やシャンプーを使いお湯たっぷりの湯船に入ると疲れが吹き飛ぶという。
料理も領主様が子供の頃作られたというコンロが設置されており、煮炊きがとても楽だと言う。
今街に空いている場所には、出店を願い出た商人が店を建設中だ他にも冒険者ギルドに商業ギルドが我先にと建物を建てている。
まさかこれほど短い期間で街ごと作り変えるとは、まるで神のような力だった。
次の休みの頃には何をなされるのか今から楽しみだ。
ーー 公爵派の動き
王国内に3つの派閥があった、一つは王国派、一つは辺境伯派もう一つが公爵派である。
今まではこの3つの内公爵派が隆盛を極めつつあったのだが、あることを起点に変化が起こった。
辺境伯領内の新たなAランクダンジョンの踏破だ。
踏破したのは僅か8歳の子供ら4人と言う。
王城で褒美を与える際に、その子供らは多くのマジックアイテムを王家に献上した。
その為に王家と辺境伯の間が急接近して二つに派閥が一つになったのだ。
これで今まで優勢であった公爵派は劣勢に転じ、王国内での発言力が弱まってしまった。
ただ、王家が子供らに与えた褒美のうちの一つ子爵に与えた領地が王国内であれば誰もが見向きもしない荒れた領地だった。
公爵派はきっとあの領地を所領した子爵は領地経営に失敗しそれ以降は王国派と辺境伯派がまた別れるだろうと楽観視していた。
しかしその領地をもらった子爵は只者でなかった。
僅か1年足らずで子爵領は、裕福な領地と変わり今でも栄えつつあると言う。
ここで困った公爵派の貴族が行動に出た、子爵領に嫌がらせをしようと画策したのだ。
盗賊に金を渡し子爵領を襲わせたのだ、しかし盗賊らは被害を出すことなく全員捕縛されてしまった。
次に井戸に毒を撒こうといらしたが・・井戸が無かった。
それでは特産の酒作りの邪魔をしようとあぶれた冒険者を使い破壊活動をさせようとしようとしたが、あまりの丈夫さと警護の役人にあえなく捕まってしまいそこから依頼主が浮かび上がり、公爵派の貴族2家が劣り潰しとなった。
しかも街の余りの発展に自分らも派閥に入れて欲しいと寝返った貴族が4家、完全に公爵派は下火となってしまった。
ー 国王 side
「宰相よ聞いたか?子爵領のことを?」
国王がそう話しかけると
「勿論でございます、予想はしておりましたがその数段上をいかれたほどの発展だと報告されております。」
「ワシは魔の森で得た魔物素材などの金で領地を発展させると思っておったが、まさか自らの魔法と魔道具で領民の生活を安定させたのち街を1から作るとは考えもしなかった。」
「まさにその通りでございます、その姿を見ていなければ信じられないほどの発展でした。」
実際に視察に出向いた宰相がそう感想を言うと
「ワシも近いうちに娘を連れて見にいくとしよう。」
と言うことで話は終わったが、
「しかしおかげで政治もやりやすくなったな。」
と公爵派の没落具合を話しながら笑顔になる2人であった。
は
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