おじいさんと不思議な種

@koketsutarou2

第1話

昔々、あるところにお金持ちのおじいさんがおりました。


おじいさんには少し変わった趣味がありました。




それは、世にもめずらしい物を買い取るということです。




例えば、ある時には七色の音が出るという葉っぱの笛を買った時がありました。


だけど、いざ吹いてみようとすると、全然音が出ません。


もしかしたら、とってもたくさんの練習がいるのかもしれません。




でも、お金持ちのおじいさんは世にもめずらしい七色の音が出る葉っぱの笛を買えたことに、とても満足していました。




また、ある時には誰よりも速く走れるようになる靴を買った時がありました。


けれどお金持ちのおじいさんは、膝を悪くしていたので、その靴を履いていても速く走ることが出来ませんでした。




でも、お金持ちのおじいさんは世にもめずらしい誰よりも速く走れる靴を買えたことに、とても満足していました。






そんなある日。


一人の男の子がお金持ちのおじいさんの家を訪ねてきました。




おじいさんは「こんにちは。どうしたのかな? ボクくん」と言いました。


男の子は「こんにちは。実はこのめずらしい種を買ってもらいたいんだ」と言いました。




おじいさんはその種を受け取り、見てみると、確かに今までみたことのない形をした種でした。




おじいさんは早速、その世にもめずらしい形をした種を男の子から買いました。




男の子は礼を言うと、「ねえ、その種を植えたら水やりをしにきても良いかな? ボクもその種から何が生えてくるのか気になるんだ」と言いました。




おじいさんは「ああ、もちろんだとも。ぜひ水やりに来ておくれよ」と快く返事をしました。






それからというもの、男の子は毎日おじいさんの家にきては、水やりをしました。






男の子は水やりをしながら、おじいさんと他愛もない話をしました。






ある日にはこんな話をしました。


「ボク、小さいころに釣りに行ったことがあるんだ。でも足を滑らしてしまって、川の中に落っこちたんだ。それで一緒に来ていたお父さんに助けて貰ったんだ」




「そうかい、それは怖い思いをしたね」とおじいさんが言いました。




「うん。だけどね、ちょっと怖かったけど、また釣りに行きたいと思えたんだ。それから何度も釣りに行くようになって、今ではすっかり釣りが大好きさ!」






おじいさんはその話を聞いてこう思いました。


そういえば、今までお金持ちになるためにたくさん働いてきたけれど、ゆったりと釣りをする時間なんてなかったことを思い出したのです。






またある日にはこんな話をしました。




「ボク、勉強するのがとっても大キライだったんだけど、算数の問題を一人で解けたことを先生に褒められてからは、算数が大好きになったんだ。今じゃ掛け算だって出来るようになったんだよ」と男の子が言いました。




「そうかい、それはとても良い事だね。私も若い時はたくさんの事を勉強したものだよ」とおじいさんは言いました。




「本当! じゃ今度ボクにも勉強を教えてもらえない?」




「ああ、良いとも」とおじいさんは快く返事をしました。






おじいさんはこう思いました。


そういえば、近頃めっきり新しいことを勉強することが、減ってしまっていたことを思い出したのです。






またある日の水やりの日にはこんな話をしました。




「ボク、絵を描くことが大好きなんだ。ボクの絵を見た人は、みんな褒めてくれるんだ。この間なんかボクの家の隣に住んでる女の子から褒められたんだよ」




「おお、それは素晴らしい。ぜひ私にもボク君の絵を見せて欲しい」とおじいさんは言いました。




「うん。いいよ。とびきりの自信作の絵を見せてあげるね」と男の子が快く返事をしました。






おじいさんはこう思いました。


そういえば、今でずっとお金の勘定ばかりしていて、美しい絵を楽しむことが出来ていなかったことを思い出したのです。






またある日。


その時は男の子の様子は少し違いました。




「ボク、好きな子がいるんだ。ボクの家の隣の女の子さ。でも好きって気持ちを言えなくて、本当はしたくもないいじわるをついしちゃうんだ」




「そうなのかい。ならしっかりと、ありのまま自分の気持ちをを素直に伝えると良いよ。素直な気持ちを伝えなければ、その女の子もボク君の本当の気持ちはわからないからね」とおじいさんは言いました。




「うん、そうだね。教えてくれてありがとう。そうしてみるよ」と男の子は元気よく返事をしました。






おじいさんはふと考えました。


初めて人を好きになった時のことを。




勇気をもって好きな人に話しかけたこと。




勇気をもってその人にダンスを申し込んだこと。




勇気をもってその人にプロポーズをしたこと。




とても素晴らしい結婚生活だったこと。




愛した人と永遠のお別れをした時のこと。




それからずっと一人、寂しく時間が過ぎていったこと。






おじいさんは全部思い出したのです。








ある時、いつものように男の子が水やりをしにきた時のこと。




おじいさんは「もう水をやらなくてもいい」と少しつっけんどんに男の子に言いました。




男の子は「どうして? どうして水をやらなくてもいいだんなんて言うの?」と聞きました。






おじいさんは最初、理由を話そうとしませんでした。


けれどこう話し始めました。




「もしも、種から何かが生えてきてしまったら、もうボク君はうちに水やりにこなくなってしまう。そしたらボク君と色んな話が出来なくなってしまうと思ったんだ」




男の子は「安心してよおじいさん。もし何かが生えてきても、おじいさんの家に毎日水やりにくるよ。そしたらまた、いつものようにたくさん色んな話をしようよ」と言いました。




おじいさんはそれを聞いてとても嬉しくなりました。




あんまり嬉しくって、例の七色の音が出る葉っぱの笛を持ってきて吹き始めました。


すると本当に七色の音が出たのでした。






今度は、あの誰よりも速く走れるようになる靴を履きました。


するとおじいさんは、男の子が追いつけないほど速く走れるではありませんか。






おじいさんはとっても嬉しい気持ちでいっぱい。


男の子もそんなおじいさんを見ていると、嬉しい気持ちになるのでした。






そんな二人は、種を植えたところから、いつの間にか咲いていた花に気付きました。


その花は、世にもめずらしく、また何にも代え難い色と形をしていたのでした。








その花はきっと、永遠に枯れることはないでしょう。






だってほら、また今日もどこかでいつものように、花に水やりをしにやってきてくれているからね。

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