第508話 妖刀・2
カオルに手伝ってもらい、刀の仕分けは早く終わった。
やはり、手持ちの物を超える物はない。
それに、贈り物ということもあってか、派手な彫りが入った物が結構ある。
魔術が掛かった品もない。
「ううむ、こんなものですか」
仕分けられた刀の箱を見て、マサヒデが小さく首を傾げる。
「ご主人様、今、我々が持っている物が良すぎるのです」
と言いながら、カオルは懐紙に『マサムラ』と書いて、マサムラの箱に挟む。
それを見ながら、
「未鑑定もありましたが、マサムラ以外は見てもらわなくて構いませんかね」
「それで良いかと。これらも売ればそこそこの値になりましょうし、道場の方でお預かりを願いましょう」
「そうしましょうか」
カオルが頷き、マサムラ以外をまとめて紐で結び『蔵』と書いた懐紙を挟む。
「ご主人様、他はどう致しますか。
私、陶磁器の目はありませんし・・・」
「私にもありませんが、一応、箱は開けてみますか。
ナイフとかの小さな得物は、これらの箱に入っているかもしれません」
マサヒデが立ち上がって、ぐるっと山積みの箱を回りながら、
「剣とか入ってそうな大きな箱は・・・やはり、ない・・・ですね。
ま、運んでた時も見当たりませんでしたし」
「では」
と、カオルが山積みの箱の前に立ち、さささ、と箱の蓋を開けて閉めて置いていく。マサヒデも横に座って、見るだけ見ていく。
一山終わった所で、カオルが手を止め、
「む」
と、小さく声を出した。
「ナイフです」
マサヒデに差し出す。
派手な意匠のナイフだ。
変な感じはしないし、飾りで高いだけか。
握ってみるが、特に何か力を感じるとかはない。
抜いてみる。
鋼も特にこれといった風でもない。
振ったり突いてみるが、変化はない。
握ってぐっと集中してみる。何もない。
ひょいと軽く膝下に投げてみるが、何もない。
意匠で高いだけの物か。
「何もないですね。派手なだけです。
鋼も特にどうと言った物ではありません。
何か注意書きのようなものは? 魔術の品ですとか」
「ありません。売りですか」
「そうしましょう」
横に避けて、箱を開けていく。
酒、陶器、磁器ばかりだ。
箱を開けながら、
(はて? 貴族の贈り物と言えばワインだが?)
と、首を傾げる。
カオルの方を向いて、
「ワインがないですね? 貴族と言えばワインですけど」
カオルも手を止めて首を傾げたが、
「そういえば・・・」
と言った後、ああ、と小さく頷いて、
「ご主人様、クレール様はレイシクランですから。
ワインなんて、とてもお贈り出来ませんよ」
「ああ! それはそうですよね!」
納得、と頷いて、ぱかぱかと蓋を開けては閉めていく。
「あ」
マサヒデの手が止まった。
「何か」
カオルも手を止めて、マサヒデの方を見る。
マサヒデは箱を置いて手を伸ばし、ぱらりと広げる。
「子供の服です」
上等な生地。細かなあつらえ。
マサヒデも分かる、良い物だが・・・
目を細めて、しばらく小さな子供服を見た後、綺麗に畳んだ。
箱に入れ、蓋を開けたまま、畳んだ子供服をじっと見つめる。
「・・・」
カオルはいたたまれなくなって、目を逸らしてしまった。
マサヒデは、これを着た子を見られないかもしれない。
カゲミツも、アキも・・・
マサヒデがそっと蓋を閉じて、箱を横に置く。
「すみません。手が止まりました」
マサヒデが次の箱を手に取る。
カオルも見ていた箱の蓋を閉じ、次の箱を手に取った。
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平たい、大きめの箱。
手を伸ばして取ろうとして、
「お?」
と、重さに少し驚いて、小さく声を上げる。
カオルが顔を上げ、
「いかがされました」
「いや、この箱、やけに重いんです」
立ち上がって、念の為に両手で持ち上げる。
また金属製のティーセットでも入っているのだろうか?
にしては重い・・・と、考えつつ、蓋を開ける。
「おや」
小さい弩だ。
弓の部分が折りたたまれている。
持ち手や横の所に金銀で意匠がこらしてある。
カオルも意外そうな顔をして、
「贈り物で弩ですか? 珍しいですね」
と、蓋を取って送り主の名を見る。
「私が勇者祭の参加者だと知っていて、贈ってくれたんでしょう。
しかし、これはちょっと」
こんな派手な弩は、使う気になれない。
「それにしても、これ、面白いですね。弓が折りたたまれています」
よいしょ、と折りたたまれた弓を広げる。
「お? 意外に力が要りません。簡単に広げられますね。
意外と良いかも?」
弦を取って、片側に付け、ぐいっと引っ張る。
「むむむ・・・」
ぱし、と小さく音がして、弦を取り付ける。
ふう! と息をついて、弩を見る。
「いや、これは固い! さすがに、弦まで簡単には付けられませんか!」
箱の中に入っている矢を1本取り、ぐぐぐ・・・と弦を引く。
かち、とはまって、矢を上に置き、地面に向けて引き金を引く。
びし! と音がして、短い矢が羽まで突き刺さる。
「流石の威力ですね」
カオルが怪訝な顔で、
「ですが・・・どなたか使いますか?」
マサヒデもカオルも、短弓と短銃を持っている。
シズクは石を投げるだけで、熊も倒せてしまう。
ラディは長銃と短銃を持っている。
クレールは魔術があるし、そもそも弩など引けまい。
「ははは! 私達の中では、誰も使わないですよ。
ちょっと見たかっただけです。これも蔵に送りましょう」
カオルが立ち上がって、矢を苦無で掘り出し、土を綺麗に払って箱に置く。
マサヒデも弩を折りたたみ、箱にしまって蓋を閉じる。
「しかし、折角の折りたたみ式ですけど、これじゃあ咄嗟に使えませんね」
「持ち運びには便利ですが、我々は銃も持っていますし。
まあ、狩りに使うくらいでしょうか」
「こんなど派手な物、傷が怖くて狩りに持って行けませんよ。
でも、高くは売れそうですね」
「ですね」
よいしょ、と蔵行きの刀の箱の上に置いて、箱の山の前に戻る。
次の箱を開ければ、また茶碗。
さっぱり分からんな、と首を傾げて蓋を閉じる。
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