第503話 仕分け・後


 がらがらがら・・・


 3度目の馬車。

 ホテルからの運び出しはこれで最後だ。

 また、積み直して売りに行かねばならない。


「はあ」


 溜め息をついて、馬車の御者台から下りる。

 シズクが荷馬車を下りて、マサヒデに笑顔を向ける。


「これで終わりだね!」


「売りに行く時、また積み直しですよ」


「そうだったあー!」


 ふう、とシズクも息をついて、よいしょ、と、一山抱える。

 マサヒデも積まれた箱を抱えて、庭に回る。

 縁側に積まれた箱の向こうに、


「只今戻りましたー。とりあえず運び出しは終了です」


 と、声を掛けると、


「おかえりなさいませ」「おかえりなさいませ!」


 と、マツとクレールの声。

 よいしょ、と茣蓙の上に下ろし、次の箱積み。

 シズクと何度も往復して、やっと荷馬車が空になる。

 ふう、と腰に手を当てて、


「では、白百合と馬車を戻してきますね」


「いってらしゃいませ」「いってらしゃいませ!」


 どっすん、と茣蓙の横に座ったシズクに、


「疲れましたか?」


「疲れてはないけどさ。面倒!」


「ははは! まあ、上がって休んでて下さい」


「ね、お菓子食べちゃって良い?」


「どんどん食べて下さい。

 あ、私とカオルさんの分も、残しておいて下さいよ」


「分かってますって!」



----------



 シズクが菓子をつまみながら、首を傾げる。


(なんだあれ)


 マツとクレールがカップを見て、真剣な顔で頷いたり、手に取ったり。


「それ高いの?」


 シズクが声をかけたが、2人はじっと器に目を注いだまま、


「おそらく」「多分」


 生返事しか返ってこない。

 横で菓子を食っているのに、クレールが見向きもしない。


「ふうん」


 さっぱり分からない。

 2人の前に、箱が山積みになっている。

 やはり、良い物が多いようだ。


「マツさん」


「はい・・・」


「マーツさん!」


 びく、として、マツがシズクの方を見る。


「何でしょう」


 シズクは山積みの箱を指差し、


「減らした方が良いと思うけど」


 ぴ! とクレールがシズクの方を見て、


「どれも良い物なんです!」


「まだ馬車1台の半分も見てないでしょ。増えてっちゃうよ」


 2人がむっとして、


「「構いません!」」


 と、大きな声を上げたが、シズクは溜め息をついて、


「ま! どっかにしまえるなら良いけどさ。

 早く見てかないと、終わらないって。

 じっくり見るのは後にしなよ」


 シズクが呆れた顔で縁側に積まれた箱を指差し、


「立って、そこから縁側の向こう、見てみなよ。庭にまだいっぱいあるよ」


「む」「ぐ」


「マサちゃんとカオルが帰ってきたら、怒っちゃうよ」


 きり、と2人が歯を鳴らしたが、シズクはごろん、と横になって、


「とりあえず、さっと見て、売る、売らないはどんどん分けとかなきゃ。

 じっくり見るのは、我慢した方が良いと思うなあ」


「くっ!」「むむむ・・・」


「じゃ! 私は寝よーっと」


 目を瞑ったシズクの顔に向かって、クレールがいらない器の箱を勢い良く滑らせたが、シズクはぴっと指で止めて、片目を開けてにやっと笑い、


「おーやすみー!」


 と目を瞑った。


「く・・・」


 マツが箱にカップを納め、山積みになった箱の隣に置く。


「シズクさんの言う通りですね・・・」


「んむむ・・・」


 クレールが悔しそうな顔で次の箱を開ける。



----------



 からからから・・・

 マサヒデが玄関を開ける。


「只今戻りました」


「「おかえりなさいませ」」


 マツとクレールの声。

 贈り物の仕分けで忙しいのか、出てこない。

 上がって廊下を歩いて行き、居間の前で足を止めた。


 軽く部屋を見渡す。

 マツとクレールが並んで座っている。

 横に、箱が山積み。


 反対側にシズクが寝ている。

 小さく積まれた箱。


 マサヒデがシズクの方に積まれた箱を指差して、


「あれが取っておく方ですか」


「いえ、こっちです」


 と、マツが箱を閉じて、積み上げる。

 いくらなんでも、これは多い。

 合格点をまとめた程度で、後で絞る、と言う感じか?


 馬車1台分も終わっていない。

 良い物があって、思わず見入ってしまったのだろうか。


「陛下への手紙の草案は出来てます?」


 マツは顔をこちらに向けず、器に目を向けたまま、


「執務室の、机の上に」


「ありがとうございます。助かりました。

 では、私はそれ書いて、出してきますから。

 執務室、借りますね」


「はい」


 マサヒデが執務室に入って行く。

 マツが箱を閉じて積み上げ、クレールが次の箱を取った所で、


「はっ」


 と、小さく声を上げた。

 クレールが、マツに顔を向ける。


「クレールさん。まずいですよ」


「何がですか?」


「もうマサヒデ様が帰ってきたのに、全然終わってません」


「う」


 ささ、とマツが縁側に積まれた箱の山の前に来て、クレールと並び、


「手分けしましょう。和物は私に。

 洋物はクレールさんで見ていきましょう」


「はい!」


 クレールが、さ、と箱を取って開ける。

 一目で分かる。これは良い。


「む! キープです!」


 隣でマツも頷いて、


「こちらも良いものです」


 ささ、と2人が箱を分けていく。

 良い物ばかりが増えていく。


(知ーらない)


 シズクが、ごろん、と2人に背を向けて転がる。

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