第500話 パーティー終了・3


「う」


 ホテルの倉庫。

 従業員に開けてもらったドアをくぐると、中はいっぱい。

 真ん中は通れるようになっているが、左右の壁から満載で迫ってきている。


「食料品など、お早目に頂いてもらわないといけない物は、こちらに」


 後ろから付いてきたシズクも驚いて、


「マサちゃん」


 と、小さく声を上げた後、黙り込んでしまった。

 これからも届いてくるのだ。まだ増える。

 どうしよう。


「ええと・・・明日、馬車をこちらに持って来て、運び出します。

 申し訳ありませんけど、それまでお預かり願いますか」


「お任せ下さい」


 マサヒデとシズクが出ると、従業員がそっとドアを閉めた。



----------



 外でマツ達が待っている。

 シズクと廊下を歩きながら、


「どうしましょう」


「食い物は、私とクレール様が居るからいいけどさ、他、どうする?」


「贈り物ですけど、売ってしまいますかね?

 いつまでも、ギルドの倉庫に置いておく訳にも」


「しかないよねえ・・・カゲミツ様が預かってくれるって言ってたけどさあ。

 まだ増えるんでしょ? すぐに蔵が一杯になっちゃうよ」


 シズクは肩をすくめて、


「お皿とかはマツ様とクレール様に見てもらってさ。

 良い物だけとっといて、売っちゃおうよ。

 いくつかはアキさんに送れば良いんじゃない?

 クレール様が気に入ったのは、ここのクレール様の部屋とか」


「ああ、それ良いですね」


「マサちゃんのパーティーだからさ、得物とかもあると思うよ。

 でもさ、今より良いのなんて、まずないでしょ。

 ラディに見てもらおうよ。良い物だけカゲミツ様の所に送ってさ。

 他はギルドに寄付したり、売ったりで良いんじゃない?」


 お、とマサヒデは顔を上げて、


「売るのはやめて、全部寄付しちゃった方が良いですかね?」


「なんで?」


「贈ったのがまた店先に並んでる、なんて見つかったら気不味いですし」


 うーん、とシズクが首を傾げて、


「どうかなあ。中身はともかくさあ、値段だけは高いのばっかじゃない?

 そんなの、訓練用にーなんてたくさん渡されても、使えるわけないじゃん。

 で、倉庫行きでしょ。倉庫の場所取っちゃうでしょ。ギルドも困っちゃう。

 寄付は2、3個にしとけば? 冒険者さんのご褒美とかに使えるじゃん」


 マサヒデはうんざりした顔で、ぐっと伸びをして、


「あーあ! 本当、面倒ですね!」


「だよねー!」


「そのうち、またやらないといけませんよ」


「ひぇー!」



----------



 外に出ると、綺羅びやかな馬車の前で、皆が待っている。

 月明かりでも、きらきらと光っている。

 むしろ、夜の方が目立ちそうだ。


「お待たせしました。いや、もううんざりです」


 かっくん、とマサヒデが肩を落とす。

 シズクもうんざりして、


「やばかったよー。明日、馬車で運ばないとさあー。

 あれ、3、4回は往復しないと運べないよー」


 2人を見て、マツ達はくすくす笑い、


「良い物だけ残しておけば良いのですよ。

 後は売ってしまいましょう」


「売っちゃって良いですかね?

 せっかく贈ったのに、店先に並んでるとか、見つかったら気不味いですよ」


「そんなの気にしてたら、置き場所が無くなってしまいます。

 今日はもう帰って寝ましょう。

 マサヒデ様も、二日酔いになってしまいますよ」


「二日酔い」


 うわあ、とマサヒデが顔をしかめる。


「さっさと帰りましょう」


 アルマダが笑って、


「ははは! では、私もそろそろお暇させて頂きますよ!

 それでは、皆さん、良い夜を!」


「アルマダさん。ありがとうございました。

 騎士の皆さんにも宜しく伝えておいて下さい」


「マサヒデさんも、二日酔いには気を付けて」


 笑って、アルマダが颯爽とファルコンに跨り、蹄を鳴らして帰って行く。


「じゃあ、帰りましょうか」



----------



 からからから・・・


「着いた・・・」


 玄関を開けると、どっと安心感が湧き上がり、がくりと身体から力が抜ける。

 マサヒデが「ぱんぱん」と足を払って、居間に上がる。

 刀架に大小を掛けると、ばったりと寝転ぶ。

 カオルが先に上がってきて、


「ご主人様、皆様のお着替えを先に済ませます」


 倒れたまま、マサヒデが返事を返す。


「お願いしまーす」


 くす、とカオルが笑って、奥の間に入って行く。

 さわさわとドレスの音を立てながら、マツが居間に入って来て、


「うふふ。お疲れになったんですね」


 と、笑いながら、タマゴを床の間に置く。


「疲れましたよお。もう嫌です」


「うふふ・・・」


 笑いながら、マツが着替えに奥の間に入って行く。

 明日は二日酔いの中、馬車で荷運び。

 幸い、カゲミツ達は他で盛り上がったようで、酒は呑まされなかった。

 それでも呑んではいる。二日酔いにならずに済めば良いのだが。


 憂鬱に寝転んでいると、クレールがくす、と笑って、廊下を過ぎて行った。

 まだ何ともないが、頭痛薬や胸焼けの薬も飲んでおいた方が・・・


「あっ」


 マサヒデはぐったりして目を閉じていたが、ぱちっと目が開いた。

 そうだ。ラディには酔い止めしか渡していない。

 今日は盛り上がって飲んだ、と父上が言っていた。

 死霊術の話。あれはラディも一緒に飲んでいたのでは?


 今日はもう遅い。

 明日、朝一番にカオルに薬を届けてもらおうか。


「ふぃー!」


 どっかりとシズクが座る。

 シズクも横になって、


「疲れたね」


「ええ。疲れましたよ」


「私もうーんざりしちゃった!

 でも、思い返してみれば、そう悪くもなかったかも?」


「そうなんですか?」


「うん。食って呑んでただけだもん。

 へへへ。挨拶もしなくて良かったしね。

 マサちゃん達みたいに、囲まれたりもしなかったし」


「羨ましい!」


「でもさ、今日みたいにマサちゃんがパーティー開く! ってんじゃなくて、お呼ばれなら、楽なんじゃない?」


「ああ、そうか」


「囲まれるかもしんないけど。また虎斬ってよ、とか」


「楽じゃないですよ、それ」


「あははは! 楽々斬ってたくせにー!」


 はあー、と溜め息をつくと、マツとクレールが居間に入って来た。


「今日はお疲れ様でした」「お疲れ様でした!」


「マツさんも、クレールさんも、お疲れ様でした」


 また小さく、ふ、と溜め息をつく。

 廊下から、カオルがマサヒデに声を掛ける。


「ご主人様。奥の間でお着替えを。床の準備は出来ておりますから、そのまま。

 早ければ、そろそろ薬も切れます故」


「そうですね。ああ、そうだった。カオルさん」


「何か」


「明日、ラディさんに頭痛薬と胸やけの薬、届けてもらえますか。

 さっき、酔い止めしか渡しませんでしたし。

 父上達と盛り上がってたみたいですから」


「ふふ。お届けします」


 カオルが小さく笑って、皆もくすっと笑った。

 マサヒデは立ち上がって、ぐったりと下がって行く。

 明日は荷運びだ。

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