第144話 馬での戦い方は?・3
「帰りましょうか・・・」
「そうですね・・・」
「早く帰ろうよ! もう、稽古でお腹へっちゃったよ」
3人で歩き出す。
今のマサヒデでは、戦闘で馬を使う優位が全く分からない。
カオルも同じようで、下を向いて考え込んでいる。
「カオルさんは、その槍と大太刀をお願い出来ますか。
私は白百合を厩に連れて行きます」
「はい」
「また三浦酒天に行きたいなー」
「シズクさん・・・昨日、いくらかかったと思ってるんですか・・・
行くなら、自腹で行って下さいよ」
「はーい」
うしろから、ぱか、ぱか、と蹄を鳴らして、白百合が着いてくる。
ふう、とマサヒデはため息をついてしまった。
こんなに良い馬なのに、移動か荷物持ちにしか使えないとは・・・
もうひとつ、りんごでも買ってやろう。
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からから・・・
「只今戻りました」
「おかえりなさいませ。夕餉の支度は済んでおります」
カオルはもうメイド姿に戻っている。
「ありがとうございます」
マサヒデは上がって、居間に通る。
「おかえりなさいませ」
「おかえりー」
マツが手を付き、シズクが手を上げる。
マサヒデも座って、
「じゃあ、夕餉にしましょうか」
と言うと、カオルがさっと膳を持ってくる。
「ありがとうございます。では、いただきます」
「いただきます」「いただきます」「いただきまーす!」
箸を取って、汁をすすっていると、マツがわくわくして話し掛けてきた。
「白百合ちゃんはどうでした? 慣れました?」
「ふふ、そんなすぐには慣れませんよ。
まだ、乗ると少し落ち着かない感じです」
「うーん、そうですか・・・仕方ないですよね。まだ初日ですし・・・」
「そうですよ。でも、あの調子ならすぐにマツさんも乗れますよ」
「本当!? 楽しみですね!」
「ふふ、昨日と同じですね」
「マサヒデ様はあまり浮かない顔ですね?
白百合ちゃんは悪くはなかったんでしょう?」
「ええ、まあ・・・その後が問題でして」
「と言いますと?」
「いやあ、私は馬での戦い方に慣れてないもので。
せっかく良い馬を手に入れたのに、どう戦ったら良いか・・・」
「? アルマダさんの所の騎士さん方には、お聞きになられたんですか?」
「ああっ!!」
思わず大声が出てしまった。
カオルも、ころん、と箸を落とす。
そうだ! 彼らは馬上戦に慣れている騎士なのだ!
なぜ、こんな簡単な事に思い付かなかったのか?
『アルマダの騎士達のような相手には、馬上では敵わない』
そこまで考えていたのだ。
ならば、彼らに聞けば良かったのだ・・・
「ど、どうしたの、マサちゃん?」
「急に大声を・・・」
マサヒデはがばっとマツの両肩に手を置いた。
「マツさん! あなたが妻で良かった!」
「え? え? どうしたんです?」
「奥方様! 素晴らしい!」
マサヒデもカオルも、目を輝かせる。
マツは一体どうした? という顔で、箸を止める。
シズクもなんだ? という顔で2人を見つめる。
「そうだ、皆さんに聞けば良かったんですよ! 思い付きませんでした!」
「奥方様! 奥方様のおかげで、白百合は救われました!」
マツはじとーっとした目で、2人を見る。
「はあ・・・白百合ちゃんが救われたのは良いですけど・・・
もしかして、カオルさんまでいて、気付かなかったんですか?」
「うっ・・・いや、自分たちだけで考えようとしちゃって・・・頭が一杯で・・・」
「・・・」
「お二人共、もう少ししっかりして下さいませ」
「はい・・・」
「明日にでも、お聞きになってきてはどうです?
白百合ちゃんも、見せてあげては」
「そうします・・・」
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翌朝。
「それでは、行ってきます」
「行ってまいります」
マサヒデとカオルは、アルマダ達の泊地、あばら家に向かった。
途中、厩舎に寄って、白百合を連れて行く。
騎士達は馬上ではどんな戦い方をするのか、楽しみだ。
「カオルさん、彼らは一人ひとりは私達には劣りますが、馬上では遥かに上です。
きっと良い戦い方が聞けるはずですよ!」
思わず浮かれてしまうマサヒデだが、カオルは厳しい顔だ。
「ご主人様。私、昨夜の夕餉の後、懸念が浮かびました」
「懸念?」
「シズクさんは『馬は突っ込んでくるだけ』と言っていましたよね。
今まで、そのような相手しかいなかった、ということですよね。
では・・・彼らもそうなのでは? と・・・」
は! とマサヒデの浮かれ顔が一気になくなる。
「む・・・確かに・・・それも、なきにしも・・・ですけど・・・
アルマダさんが雇ってる方々ですし・・・大丈夫では」
「もちろん、聞いてみる価値はありますが・・・
もしそうだと、白百合はただの乗り物になってしまいますね」
「まあ・・・そうでしたら・・・仕方ありませんね・・・」
「騎士様達が特に良い戦い方をお持ちでなければ、冒険者の方々にも聞いてみましょう」
「そうしましょうか・・・」
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がさがさと草をかき分けて行くと、途中で見張りの騎士が顔を覗かせる。
「あ! マサヒデ殿!?」
「その馬は一体!?」
「おはようございます。いかがですか、この馬」
「これは随分と大きいですね!
うーん・・・脚もしっかりしている・・・」
騎士のジョナスが白百合に近付いて、顎に手を当てて見ている。
「荷馬車を引かせても良いですが・・・しかし、この脚は・・・うむ、速そうだ・・・この重量、素晴らしい軍馬になりましょうな・・・名は?」
「マツさんが、白百合って名付けたんです・・・かわいい名前がいいって・・・」
「かわいい名前・・・ですか・・・」
「はい・・・」
さー・・・と、草むらを風が吹き抜けてゆく。
「・・・どうぞ。アルマダ様も、この白百合には驚きましょう」
「失礼します」
門をくぐると、アルマダは素振りをしていた。
トモヤと非番の騎士2人が、焚き火の前で握り飯を食べている。
全員がこちらを向き「おお!」と声を上げた。
「マサヒデ! こりゃ一体!?」
「マサヒデさん、すごい馬じゃないですか」
全員がぞろぞろ白百合の前に群がってくる。
少し驚いたのか、白百合がくっと後ろ足を下げる。
「あ、どうどう。大丈夫・・・」
ぽんぽん、と軽く首を叩き、ゆっくりと撫でる。
「すみません、まだ捕まえてきたばかりで、まだ少し」
「捕まえてきたんですか? これはすごい・・・」
アルマダも上背のある白百合の顔を見る。
「すごいのう・・・ヤマボウシとは比べ物にならんわ・・・」
トモヤも驚いた顔で白百合を見つめる。
2人の顔を見て、マサヒデはにやりと笑う。
「実は、この馬の住処、まだ人に見つかってないんですよ」
「え? ということは? つまり、捕まえ放題ですか?」
「ふふふ。実はそうなんですよ。こんなのが一杯いたそうです。こいつを捕まえる時に走り回ったので、散ってしまいましたが、すぐ戻ってくるでしょう」
「すごいのう・・・こんなのがいくらでもか・・・」
「カオルさんが見つけてくれました」
「カオルさんが・・・捕まえたのも?」
「そうです」
「へえ・・・やりますね・・・これは苦労したでしょうね・・・」
「この白百合を捕まえたので、せっかくなのでこいつでも戦いたいと思ってるんです。でも、上手い戦い方が分からなくて」
「ああ、なるほど。そこで熟練の皆さんに・・・というわけですね?」
「はい。ただ槍で突っ込むってだけじゃ、簡単に躱されちゃいますし。
もし、横から突き飛ばされたり、蹴り飛ばされたりしたら、落馬して袋叩き。
良い扱い方はないかな、と思いまして」
「まさか、マサヒデ殿に我らがお教えする事になりますとは。光栄ですね」
横からくいっとサクマが顔を覗かせる。
「では、我々、熟練騎士の戦い方、お教えしましょう。
多少は練習が必要ですが、そう難しくはありません。至極単純なものです。
ですが、そういう単純なものほど、実は非常に効果的、というものです。
我々がここまで生き残ってきたのも、この戦い方ありきですよ。
マサヒデ殿ならば、すぐに身に付けることが出来ましょう」
「サクマさん! お教え願いますか!」
「もちろんですとも!」
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