第143話 馬での戦い方は?・2


 マサヒデとカオルは白百合の隣に座り込み、馬を使う戦い方を考える。


「まず、私達の組には馬上戦が得意な方はいません。

 アルマダさん達のように、全員馬に慣れている組には、馬では敵わないでしょう。

 今から訓練しても、大して変わらないですよね」


「そうです」


「あと、シズクさんは馬には乗れませんよね。

 乗れても、すぐ潰れちゃいます」


「ううん・・・となると、ご主人様、私、クレール様、ラディさん・・・」


「しかし、ラディさんには、前に立ってほしくない。

 戦闘になっても、なるべく後ろにいて欲しいですよね」


「そうですね。ラディさんがやられてしまうと、治療に大きな支障が出ます。

 クレール様も治癒魔術は使えますが・・・

 四肢を失うような大きな怪我をした際、治せませんし」


「となると、ラディさんは抜ける。

 私にカオルさんに、クレールさん・・・いや、クレールさんもダメですね」


「どうしてでしょう」


「ラディさんは、攻撃魔術がほとんど使えない。身を守れない。

 刀や剣は少しは使えるかもしれませんが・・・

 まあ、鑑定で据物斬りが少し出来るようになった、という程度でしょう。

 聞いてみないと分かりませんが、おそらく、まともに動いて戦うのは無理です。

 となると、誰かがラディさんを守らねばならない」


「なるほど。そこで、後ろからも手を出せるクレールさん」


「その通り。ラディさんは必ず後ろ。

 クレールさんはラディさんの側で、ラディさんを守ってもらう。やはり後ろ。

 私、カオルさん、シズクさんが前に出て戦う所に、魔術で補助をしてもらう」


「では、ラディさん、クレール様は馬は・・・

 いや・・・ううん・・・」


「荷馬車を用意し、お二人はいつもそこに居てもらう感じでしょうか。

 前に出るのは、私、カオルさん、シズクさん」


「となると、馬で戦うのは、ご主人様と私」


「に、なりますね」


「・・・私も、馬はあまり・・・」


「私も・・・」


「うーん・・・初撃で馬で突っ込む、後は降りて戦う?」


「といった形が良いでしょうか」


「せっかく捕らえてきましたが、戦闘となると、あまり出番がないですね・・・」


「やはり、ほぼ移動用と割り切った方が良いみたいですね。

 戦闘では、やはり初撃で相手の陣を崩すような。

 しかし、移動で足を使わなくて済むというのは大きいと思います」


「うーん・・・」


 せっかく捕まえてきた良馬が、戦闘で活躍できないとは・・・

 カオルは不満そうだが、これは皆の長所を考えると、仕方がない。

 逆に馬に乗せては・・・という感じになってしまう。


「シズクさんも健脚ですが、普段は荷馬車に乗ってもらいましょうか。

 いざ、となった時、ほんの少しの体力の差が、決定的になることもある。

 2頭立てにすれば、大丈夫でしょう」


「荷馬車ですか・・・」


「これだけ図体の大きな馬ですから、かなり引っ張れるはずです。

 荷馬車に3人、私達が馬。歩きがいなくなる。

 となれば、移動の速度が大きく上がる」


「たしかに、移動の速度が上がるのは大きいですね」


「ええ。カオルさんの槍も用意しましょう。長い・・・」


 む、とマサヒデは思いつく。


「そうか。長い・・・長い得物・・・」


「何か思い付かれましたか」


「短銃を使うのはいかがでしょう」


「なるほど、短銃ですか。値は張りますが、小さいし、邪魔にならない」


「ええ。長い得物はどうしても大きさが邪魔になりますし・・・

 騎射なんて、馬に慣れていない我らが上手く出来るとは思えません。

 短銃なら離れた・・・」


 は! とマサヒデは顔を上げる。


「あ! そうだ! ラディさんに銃を持って頂くのは!?」


「おお! さすがご主人様! いい案ですね!」


「離れた相手に上手く当てるのは、訓練が必要でしょうけど、別に当たらなくて良い。大きな音もしますし、狙われていると分かれば、十分な威嚇になりますよ」


「しかし、我ら含めて3丁となると、さすがに出費が。

 弾薬もかなり値が張ります。馬鹿になりませんよ」


「うん・・・私とカオルさんは槍で良いでしょう。

 後ろから、ラディさんに援護してもらえば良い。鉄砲なら、当たれば金属鎧も貫く。全身を金属鎧で固めたような騎馬組も、鉄砲がいるとなれば上手く連携も取れないでしょう」


「そこに我らが、と」


「ええ。馬から落とせれば、私達の勝ちです。

 槍で貫けなくても、落とすだけで良いのです。あとは降りて戦えばよしです」


「なるほど。落としてしまえば、我らの得意な場に持ち込める」


「私もカオルさんも馬は得意ではないですけど・・・鉄砲で崩れた相手なら、2対1で向かえば、落とすくらいなら、多分いけるのでは?」


「いけそうですね。相手が徒歩なら、最初から馬から降りても良いですし」


「馬を使った戦い方は、こんな感じでしょうか」


「ふむ・・・」


 2人の相談は続く。



----------



「おーい」


 街道の方から大きな声。

 シズクだ。道場から帰ってきたのだろう。いつの間にか、もう夕刻だ。

 どすどす歩いてくる。


「・・・カオルだよな?」


 カオルはいつものメイド服ではなく、冒険者姿だ。


「はい」


「どうしたの? 二人共、難しい顔しちゃって」


「ちょっと、馬を入れた時の戦い方を考えていましてね」


「それで白百合を連れて来た、ってわけだ」


「まあ、慣らしも兼ねて。そんな所です」


「ふーん・・・」


「そうだ、シズクさんは結構旅をしていますよね。

 馬の相手をしたことはありますか?」


「あるよ」


「どういった所が厄介でした?」


 シズクが首を傾げて考える。


「うーん・・・特にないかな。重いってくらい」


「そうですか・・・どうやって相手をしました?」


「大体、馬乗ってる奴って、右手に槍持ってるだろ?

 突っ込んで来た所で武器持ってない方に横に動いて、こうやって」


 シズクはさっと横に動き、ひょい、と鉄棒を横にして上に投げる。


「そんで、乗ってる奴は当たって落ちる、って感じかな」


 ぐいっと鉄棒の端を掴んで、前に突き出す。


「うっかり真正面になっちゃった時は、こうやって前に伸ばしてさ。

 そうすれば馬が止まって落ちるかな。がつんとくるから、これがまた重いんだ」


「ふむ」


「ま、武器持ってない方に動けば楽勝かな。あとは落ちた所にごっつん。

 あー・・・でも、弓矢とか鉄砲は面倒かも。鉄砲が当たった時は大変だったよ。

 こうやってぐりぐりやってさ・・・あれは痛かったよー」


 顔をしかめ、上腕に指を当てて、ぐりぐり・・・

 指で銃弾を取ったのも驚きだが、シズクの身体は銃弾も止めてしまうのか?


「武器を持ってない方に動けば楽勝、ですか」


「うん。楽勝だよ。マサちゃんとカオルなら余裕じゃない? 長いの持ってるやつもいるけど、武器持ってる方とか、前に立たなきゃ簡単だって。まっすぐ走ってくるだけだから、簡単簡単」


「まっすぐ走ってくるだけ・・・確かに、簡単そうですね」


「私はこの棒で落とすけど、2人なら横から蹴飛ばせば簡単に落ちると思うよ。

 金属鎧とかの、重いの着てても簡単じゃない? 馬って揺れてるもん。

 カオルみたいに軽いのでも、余裕でいけるって」


「横から、蹴り飛ばす・・・ふーむ・・・」


「大体、長いの持ってるでしょ? 槍とか。

 横から蹴飛ばせるくらい近くに飛んじゃえば、何も出来ないと思うよ」


「なるほど・・・」


 確かに、突っ込んでいった所で、手前でさっと左側に立たれると面倒だ。

 左手で刀は抜けないし、脇差は下まで届かないから、跳んできたのを迎え撃つくらいだ。

 すごい速度で突っ込んで行くから、左に持ち替えるには、とても間に合わない。


 右側から左側に上から突くような感じか、横に寝かせて薙ぐとか・・・

 しかし、あの揺れと速度で、慣れない槍を、まともに扱えるだろうか?

 大太刀や薙刀なら横には対処出来そうだが、前方への長さが大してない。

 シズクがぐっと棒を前に出したように、槍でも突かれたら、簡単に止められる。


「ふーむ・・・」


「うーん・・・」


 マサヒデもカオルも、顎に手を当てて考え込んでしまった。

 確かにシズクの言う通りだ。

 もし、相手も横から蹴り飛ばせるような事が出来るなら、初撃で突っ込む、なんて危険すぎる。

 こちらは馬での戦闘に慣れていないのだ。

 簡単に落とされて孤立。あっという間に袋叩き。


 とすると、馬での戦闘の優位は騎射しかない。

 シズクも、弓矢や鉄砲は厄介だと言っている。

 しかし、慣れない馬上で、まともに騎射など出来るか?


「いいじゃん、乗って旅が出来るんだから。歩かなくて良いんだから、楽でしょ。

 それに馬に乗ってたらかっこいいじゃん」


「・・・かっこいい・・・ですか・・・」


「・・・」


 移動に使うくらいしか、出番はないのだろうか・・・

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