第十五章 騎馬

第142話 馬での戦い方は?・1


 マツモトから許しを得、訓練用の槍と大太刀を借りる事にした。

 蹄鉄を履いた白百合を厩舎から出し、通りを歩く。

 手綱を持って引いていくが、大人しいものだ。

 通りには人が大勢歩いているが、先日まで野生馬だったのに、動じる事がない。


 途中、屋台でりんごをひとつ買って、懐に入れる。

 ギルド前の繋ぎ場に白百合を繋ぎ、訓練用の槍と大太刀を持ってくる。


 馬上では、自分にはどちらが使いやすいだろう?

 長い分、槍が有利とは言われているが、得意の得物は太刀。

 まだ大太刀の方が扱えるだろうか?

 壁に立てかけた槍と大太刀を見て、うーん、と唸る。


 こういう時は、やはりカオルだ。

 彼女に立ち会ってもらい、どちらが良いか聞いてみよう。


 向かいのマツの家に戻る。

 玄関を開けると、カオルが待っていた。


「おかえりなさいませ」


「カオルさん、今お時間よろしいですか?」


「はい」


「これから白百合を町の外まで出して、ちょっと乗ってみようと。

 で、ついでに馬上の得物を練習してみたいんです。

 私はあまり馬上は得意でなくて、カオルさんにも見てもらいたいんですが」


「承知しました。奥方様に、出かけるとお伝えしてきますので、少々お待ちを」


「はい」


 カオルは執務室に入ってマツと少し話した後、奥の自分の部屋へ向かった。

 少しして、女冒険者の姿になって出てくる。


「お待たせ致しました。ついでに、私の剣の方の訓練もお願いします。

 お受けしますので、馬上から打ち込んで下さいませ」


「ありがとうございます。では、行きましょう」


 マサヒデが白百合の手綱を持ち、カオルが槍と大太刀を担いでくる。

 歩きながら、カオルに相談する。


「カオルさんはどう思います?

 私は太刀が得物だから、やはり大太刀の方が良いでしょうか?」


「白百合は背もありますから、私は槍が良いかと思います」


「ふむ」


「槍も、大身槍や、もっと長めの槍が良いかと思います。

 長巻・・・薙刀も良いかもしれません。

 金属鎧が相手でも、重さで転がしてしまえましょう。

 鎧を貫いて一撃なら槍。転がすなら薙刀、と言った所でしょうか」


「大太刀はどうでしょう?」


「薙刀と同じような使い方になるでしょうから、私ならば大太刀は選びません。

 金属鎧が相手になると、簡単に折れてしまうでしょう」


「なるほど・・・参考になります」


「出し入れの問題もあります」


「ああ、確かに・・・大太刀は抜くのが大変ですね。

 私はそう大きくもないですし」


「ええ。槍は穂先に被せておけば良いだけですから・・・」


 話しながら、町の外に出る。

 少し離れて街道を外れ、人のいない場所に出る。


「では、まず白百合を少し走らせてみます」


「はい」


 よっ、と白百合に乗る。

 少し革紐を延ばしてもらったが、上背があるので、乗るのが少し大変だ。


「うん、良いですね」


 白百合は少し落ち着かない感じだが、暴れずにマサヒデを乗せている。

 軽く鐙でとん、と横腹をつついてみる。


「お」


 ちゃんと歩き出した。

 しばらくそのまま歩いてみる。

 手綱を引けば、ちゃんと方向を変えてくれる。


「よし。いい子だ」


 ぽんぽん、と首を軽く叩く。

 しばらく歩いてみるが、大丈夫そうだ。


「よし!」


 強くがつんと鐙を入れてみる。

 白百合が走り出す。


「おおつ!?」


 図体が大きいから、すごい重量感のある走りだ。

 シズクでも吹きとばせそうな勢いだ。実際は片手で止められそうだが・・・

 高い分、上下動がすごい。

 駿馬、というような走りではないが、思ったよりも小回りがきく。


 ぐるぐると走り回って、手綱を引いて止める。

 小さく「ひひん」と鳴いて、白百合が止まる。


「よおし、どうどう」


 頭を撫でていると、カオルが歩いてきた。


「どうですか」


「やはり、乗るとまだ少し落ち着かないようですね。

 しかし、言うこともちゃんと聞いてくれます。

 思ったよりも小回りがききますね。この図体でこれだけ曲がれれば優秀です。

 体力もありそうだ。いくらでも走れそうです。

 軍馬としては最高でしょうね。

 走った時の迫力はすごかったです」


「気に入って頂けて幸いです」


「うん。カオルさん、これは良い馬ですよ。

 ところで、カオルさんは、白百合に乗って捕まえたんですよね?」


「はい」


「大変だったでしょう?」


「ええ。ですが、この走りに興奮して、思わず大声が出てしまいました」


「カオルさんがですか? 余程興奮したんですね」


「・・・」


「また捕まえに行った時に聞かせてもらいます。楽しみですね」


「・・・」


「では、ちょっと槍を試してみます。

 カオルさん、お願いします。まず、少し向こうから走って突き入れてみます。

 ・・・あの、ちゃんと避けるか流して下さいね」


「こんな勢いでくらったら、訓練用でも死んでしまいますよ」


「では」


 とん、と横腹を叩き、少し離れた所でカオルの方を向く。


「行きますよー」


 カオルが剣を構え、ぐっと腰を落とす。

 堂に入った構えだ。


「はあ!」


 槍を抱え込み、思い切り白百合の横腹を蹴る。

 上下に視点が揺れる。

 すごい勢いでカオルに近付いていく。

 槍をぐっと突き出して・・・


「ん!」


 と、声を出し、カオルが下から剣を払う。

 簡単に払われて、槍が上を向く。


 そのまま走ってぐるんと回り、またカオルに向かって走って行く。

 少し離れて、今度は槍を払ってみるが、屈んで簡単に避けられる。


 もう一度。

 ぐるんと回って、今度は上から槍を叩き落してみる。

 これもすっと避けられてしまった。


「うーん・・・」


 今ひとつ、手応えが感じられない。

 白百合を一度止め、ゆっくりとカオルに近付いてゆく。

 カオルの側に止めると、話し掛けてきた。


「すごい迫力でしたが、やはり、もっと長い方がいいですね。間合いもちょっと。

 この長さでは、槍で突くのも体当たりするのも、大して変わりありません。

 薙ぎ払う時や叩きつける時も、背が高い分、簡単に避けられます。

 大太刀なら尚更ですね」


「接近戦になったらどうでしょう」


「多くても5人相手です。この勢いで走り抜ければ簡単に抜けられましょう。

 先程のように、離れて回ってもう一度、でよろしいかと。

 止まってしまったら、跳び下りてご主人様の太刀で抜けられましょうし」


「いっそ、移動用と割り切って、戦う時は降りてしまって良いでしょうか」


「それも良いかと。無理に馬上で戦う必要もないかと思いますが・・・

 軽くねじ伏せられそうな相手だけ、馬で払って行く・・・?

 ・・・ううん・・・?」


 カオルは小首を傾げる。


「そうですね。いざ戦い、となれば、皆さんがいますからね。

 一人二人だけが馬に乗っていては、連携も難しいでしょうか」


 マサヒデは白百合から降りて、懐から買ってきたりんごを取り出し、白百合に食べさせた。


「・・・いや、そんなこともないかと思います。

 馬で突っ込み、陣を崩し、私、シズクさん、クレール様。

 後ろから、また馬で突っ込むなり、降りて跳び込むなり・・・いかがでしょう」


「ううむ・・・良さそうですね・・・

 一応、槍の用意だけはしておきます。あまり使いそうにないですけど」


「そうだ、ハワード様達のように、騎馬の組もおられましょう。

 やはり、歩きと馬では格段の差が出ます。

 馬上戦も、しかと考えておくべきかと」


「確かに・・・ううん・・・」


 2人は腕を組んで、馬の戦い方を考え出す。

 馬での戦い。

 マサヒデのパーティーには、馬上での戦いが得意な者が、1人もいない。

 しっかり考えておくべきだ。

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