第123話 この魔剣はどんな物?


 カオルと話していると、馬車が外に到着した。


「おや。もう帰ってきたんですか。早かったですね」


「では、迎えに」


「私も出ましょう」


 外に出ると、ぞろぞろと馬車から皆が降りてくる。


「おかえりなさい」


「おかえりなさいませ」


「只今戻りました」


「父上はどうでした?」


 マツは小首を傾げる。


「うーん・・・一言で言うと、驚きました」


「すごかったですよね!」


 クレールも目を輝かせる。


「はは、上手く行ったみたいですね。さあ、中に入りましょう」



----------



 皆が縁側の部屋に座る。

 ラディとシズクの顔色が悪い。

 

「おや、ラディさん、どうしましたか」


 ラディの顔が、急に興奮して顔が赤くなる。


「す、すごい作が・・・見られました!

 あまりの作に、私、気を失ってしまって・・・」


「はは、カオルさんから聞きましたよ。あれ、父上のいたずらです。

 最初に一番良いのを出して、驚かせようとしただけですよ」


「眼福でした・・・この先、あれほどの作は見られないでしょう・・・」


 ラディの目が遠くを見つめる。


「で、シズクさんはどうされました? 顔色が悪いですけど」


「ええと、道場で・・・カゲミツ様が立ち会ってくれた」


「ほう。どうでした?」


「なんか、すごく謝ってて、頼むから俺で勘弁してくれって」


「ははは!」


「それで、三手もらって、でも全然分からなかった・・・

 当たったと思ったら、当たってなくて、後ろから一手って聞こえて・・・

 分からなくなった」


「ほう・・・三手・・・」


 マサヒデの目がすっと細くなる。


「うん」


「三手ってことは、父上もちょっと本気出してきたんですね。

 本気出せるほどの相手がいないから、腕が錆びるっていつも言ってましたし。

 シズクさんは、父が本気を出せる相手、って見てもらえたんですね」


「そうかな・・・もう、生きてる人と戦ってる感じがしなかったよ」


「そういう事ですよ。さて・・・」


 マサヒデは並んで座っている、マツとクレールに顔を向ける。


「お二人は、上手くいきましたか」


「はい。すごく・・・さすが、マサヒデ様のお父上という人物でした」


「すごい人でしたね!」


「ふふ。もう、カオルさんから色々と聞きましたよ。上手くいって良かった」


「最初はすごく丁寧な感じで、マサヒデ様から聞いてたのと随分と印象が違いまして、驚きました」


「そりゃあそうですよ。マツさんが行くってなったら、父上も驚きます」


「うふふ。でも、タマゴの事を話したら、急に変わりました。

 豪放磊落、でしたね」


 クレールがにこやかな笑顔になる。


「あれが、いつものお父様なんですね。

 すごく喜んでくれてましたよね。酒だ酒だって」


「喜んでくれましたか・・・そうですか」


「はい。お母様も泣いて下さって・・・私・・・」


 マツの目に涙が浮かぶ。

 クレールも泣きそうだ。


「・・・」


 マサヒデもぐっとくる。

 父も、母も、すごく喜んでくれた・・・


「・・・そうだ。お二人共、父上から刀を見せてもらったと聞きましたけど」


「あ! あれはすごかったです! あの、まきわら、でしったけ?

 あれを刺したんですけど、全然手応えがなくって、すっと抜けてしまって」


「私も、刀を持って走ったんです。全然疲れなくって、驚きました」


「あの雷の魔術みたいなものも、すごかったですよね!

 雲が渦巻いて、雷が落ちて、お父様が刀を上げたら、どかん! て」


「あの3本の力、私も見たことがないんです。良い物を見られましたね」


「ええ! マサヒデ様も見せてもらったことがないんですか!?」


「そんなものを見せてくれたんですね・・・」


「ふふ、父上もよほど嬉しかったんでしょうね。

 そうだ、マツさんは、父上と立ち会ったって聞きましたけど」


「あ・・・立ち会いました・・・」


 マツが急に俯いてしまった。


「? どうされました?」


「あの、私の術が・・・破られました・・・」


「え!? あの術を破ったんですか!?」


 マサヒデも驚いてしまった。

 一体どうやって・・・


「何か、きーんて高い音がしたら、お父様が出てきて・・・」


「・・・」


「それで、ぐっとしてびゅんとか、ここが大事とか言って、素振りを始められて」


「何を言っているのか、良く分からなかったですね?」


 マツもクレールも困惑した顔。


「あの術、お父様・・・魔王でも、かかれば破れないだろうって自負はあったんですけど・・・私、まだまだでした・・・」


「ううむ・・・まさか、父上があの術を破るとは・・・

 あれは、さすがに父上でも、無理だろうと思ってたんですが・・・

 ぐっとして、びゅん、ですか。さっぱり分かりませんね」


「マサヒデ様にも、やっぱり分かりませんか?

 私達も、全然分からなかったです」


「さっぱりです。父上は感覚的というか、そういう所がありますから・・・」


「あ、そうだ! マツ様、道場から戻った時、誰か入ったって、お父様が言ってましたね!」


「そうでした! あれ、カオルさんですよね? 一体何をされたんですか?」


 カオルがにやりと笑う。


「ふふふ。私は、カゲミツ様から一本取りましたよ」


「え! 何したんですか!?」


「ははは。さ、お二人共。これを見て下さい」


 マサヒデが懐から、布に包まれたナイフの身を取り出す。

 くるくると布を回して、外す。


「あ! これは!」


「ま、魔剣じゃないですか!?」


「え! それ魔剣だったの!?」


 カオルがどうだ、と言わんばかりの顔を向け、シズクが驚いてナイフを見る。


「カ、カオルさん! これは私がお父様に贈ったものなんですよ!?」


 マツが慌てて立ち上がりかける。


「ははは! まあまあ、マツさん。そう怒らないで」


「でも! 私の気持ちを込めて・・・」


「マツさん、気付きませんでした? これを見た時の父上の様子」


「様子ですか? えーと・・・少し、驚いた感じでしたけど・・・」


「で、何て言ってました?」


「これは、私のお父様の気持ちがこもった物だから、受け取れない、って・・・

 だから、だから、お父様と、私の気持ちも込めて、受け取って下さいって!」


「ははは! 父上も上手くマツさんを誤魔化しましたね!」


「誤魔化したって・・・どういうことですか?」


「今まで、世に出ていない魔剣なんです。

 どんな力があるのか、さっぱり分からないんですよ? 

 もしかしたら、怖ろしく危険な物かもしれない。

 いつ家が吹き飛ぶようなことがあってもおかしくない、そんな物かもしれない。

 身近に置いておきたいと思いますか?」

 

「・・・」


「父上は、何とかして、これを持って帰ってもらいたかったんですよ」


「では・・・それで、受け取れない、と・・・」


「ははは! そういうことです」


「・・・」


「でも、落ち着いて考えれば、これ、そんな危険な物じゃないんですよ」


「どんな力があるか、分かるんですか?」


「そこまでは、実際に調べてみないと分からないですけどね。

 推測ですけど、おそらく魔術とか魔力とかに関連したものじゃないかと思います。

 ものすごい魔力を与えるとか、魔術の威力がものすごく上がるとか」


「なぜ、そうお考えに?」


「私とカオルさんがこれを持った時、何というか、身体中に何かが満たされるような感じがしました。ですけど、それがどんなものかは分からなかった。さて、ラディさんはどうでした?」


「あ! 私はすごい魔力が流れ込んできたって感じて・・・身体中が・・・」


 マサヒデはにこっと笑った。


「やっぱり。推測通りでしたね。これは魔術に関連するものですね」


「でも、私は特に何も・・・」


「マツさんは元々すごい魔力も魔術の強さもあるから、変化がよく分からない。

 魔王様も、同じです。持ったって大して変わらないから、ただの飾り物なんです。

 魔剣といっても、持ってて意味がない。じゃあ贈り物として、というわけです」


「なるほど・・・それで『贈り物』と・・・」


「ラディさんがすごい魔力を感じたのは、マツさんほど魔力がなかったからですね。それにしても、いくら飾り物とはいえ、世界に数本の魔剣を贈り物に使え、と渡すなんて・・・さすがというか、なんというか。やはり魔王様は太っ腹ですね」


「・・・」


「ま、今は魔力や魔術にどう変化を与えるものかって所は、分かりませんが・・・間違いなく魔剣ですから、マツさんほどの方でなければ、ものすごい影響があるはずです。ですけど、ただ持ってるだけなら、怖いものじゃないと思います」


「はあー・・・」


「さっき、投げたり振ったりしてみましたけど、特に何もなかった。

 おそらく、切ったり刺したりしても、ただのナイフと変わらないでしょう。

 あとは、秘めた力を使うのに、何か呪文のようなものが必要で、安心だとか」


 皆が、マサヒデの手の中にある魔剣をじっと見つめる。

 一体、これはどんな魔剣なんだろう・・・

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