第15話 選定方法


 マサヒデの組に誘う、新しい参加者の職。

 アルマダの言う通りだ。確かに、剣の達者ばかりではいけない。

 射手は考えていたが、他にはどんな者が必要か。


「うーむ、アルマダさん、まず射手は必要かと思うのですが」


「はい。他には」


「ええっと、そうですね・・・うーむ・・・」


「マサヒデ、ワシら魔術はサッパリじゃ。魔術を使える者を誘いたいが、どうじゃ」


「お、確かに。トモヤ、お主、たまに良いことを言うな」


「たまには余計じゃ。じゃが、良い考えであろう」


「うむ。アルマダさん、せめて、魔術は使えずとも色々な魔術に対する知識がある、という者は入れたいですね」


「魔術ですね。他には」


「うーん・・・」


 首をひねって考えるが、どんな者を入れたら良いのか良く分からない。

 うんうん唸っていると、そうだ、と思い出した。

 参加者でなくとも、誰か雇えば、と考えていた時だ。医者だ。


「医者・・・そうだ、医者が欲しいです」


「医者。癒やし手ですね。優れた魔術師であれば、1人で様々な魔術を使える者もいます。

 治癒の魔術に様々な攻撃の魔術が使える者もいますが、今回はそれぞれ、攻撃の魔術を使える者と、治癒の魔術を使える者がいれば良いでしょう。当然、両方使えればなお良し、です」


「む、アルマダ殿。お待ち下され」


「お、トモヤさん。どうしました」


「攻撃の魔術が使えるものがおれば、射手はいらぬのでは、と思うが、いかがかの」


「ほう・・・」


「魔術も遠くから攻撃できるのじゃろう。マサヒデ、どうじゃろうか」


「ふーむ」


「ふふ、さすがですね、トモヤさんは慧眼をお持ちで」


「そ、そうかの?」


「我々のパーティーも、リーとジョナスが魔術師ですよ」


「え? お二人は魔術師なんですか」


 皆がっつり全身鎧を着込んでいるので、魔術師ではないと思い込んでいたが・・・


「ええ。2人とも、治癒の魔術と、攻撃魔術を使えます」


「魔術師といえば、てっきり杖をついてローブを着ているものかと」


「冒険などをしない、例えば宮廷や役所の魔術師などはそうですが、我々のように外で危険にさらされている者で、そういう方は少ないですよ。魔術だけでなく、多少は剣の心得がある者がほとんどです」


「そうだったのですか・・・知りませんでした」


「ははは、マサヒデさん、やはり村にこもっておらず、もう少し外に出ておいた方が良かったですね」


「いや、全くその通りです」


「さて、まとめましょうか。今回必要とされるのは、魔術の使える者が2人。

 それぞれ、攻撃の魔術師。治癒の魔術師。両方使えれば尚良し。

 残りの1枠は自由枠。剣でもよし、射手でもよし、魔術師を入れてもよし」


「魔術師か。早く会ってみたいのう」


「では、彼らをどう試験するかです。マサヒデさんはどう考えますか」


「ううむ、射手はともかく・・・魔術師の試験ですか・・・」


「マサヒデ、良いか」


「お、本日のトモヤさんは冴えていますね。お聞きしましょう」


「治癒の魔術師は分からんが、攻撃の魔術師なら簡単じゃ」


「ほう?」


「一番でかい花火を上げられる者で良いのではないか。どうじゃ」


「・・・」


「・・・」


「さ、マサヒデさん。魔術師はどう戦うでしょう。それで試験内容が決まります」


「アルマダ殿! ひどいの!」


「トモヤさん、ただ大きな魔術を使えるだけではダメですよ。

 自分の使える魔術を使ってどう戦うか、そこがキモです」


 あっ、とマサヒデは気付いた。

 これはトモヤだけでなく、マサヒデにも向けた言葉だ。


「む・・・アルマダさん。これは普通に立ち会えば良いだけでは」


「その通りです。これはマサヒデさんにも良い経験になりますよ。

 まだ、魔術師と戦ったことはないでしょう」


「はい。正直な所、楽しみです」


「ふふふ。やはり武人ですね。治癒の魔術師に関しては、私の考えをお聞き下さいますか」


「是非、聞かせて下さい」


「治癒の魔術師、こちらの参加希望者は、マサヒデさんとの試合で怪我をした者の治療に当たってもらいます」


「ほう」


「こちらは我々の専門外ですし、リーとジョナスに見てもらいます。もし参加希望者だけでは手が足らないような場合は、2人に手伝ってもらうことも出来ます。

 ギルドの方々に見てもらっても良いですね。

 彼らには商売の信頼、というものがあるので、我々には適当なものを回して・・・

 などということは心配ないでしょう」


「アルマダさん、お二人はあなたの部下でしょう。そこまでしてもらって良いのですか」


「良いんですよ。これはマサヒデさんの祭です。せっかく大きくするんです。

 そこに我々も参加して、楽しませて頂く。そのお礼です」


「それにしても、親切がすぎますよ。本当に、ありがとうございます」


 マサヒデは正座で、ぐっとアルマダに頭を下げた。


「まあまあ、我々も楽しむのですから、お気になさらないで下さい。それと、大事なことですが」


「なんでしょうか」


「大前提として、冒険者には依頼を選ぶ権利があります。

 ギルドからの参加者で、マサヒデさんが希望した方は、必ずパーティーに加わってもらう。

 もちろん、依頼料を払えればですが、この条件は必ずギルドに飲んでもらった上で、冒険者さん方には参加してもらいます。

 ここは絶対に引けません。断られたら、今回は諦めて、足で探しましょう」


「はい」


「そして、ギルド外からの参加者です。

 パーティーに参加する気はなくても、あなたへの興味だけで来る者は多くいるでしょう。どんなに欲しくても、それらの方々は無理に誘うことは出来ませんよ」


「もちろんです」


 アルマダはにこりと笑って、


「さあ、明日は朝一番に、冒険者ギルドへ挨拶に行きましょう!

 ふふふ、これは楽しくなりそうですね!」


「むうん! ふん!」


 トモヤは不機嫌な顔をしている。


「ん、トモヤ、どうした」


「皆が楽しんでおる時に、ワシは寺でむさい坊様と将棋か!?」


「トモヤ、さっき懲りたばかりだろう。人の集まった所へ将棋の兄さんが行ったらどうなると思う」


「う、そうじゃった・・・確かにあれはもう嫌じゃ。町へは行かん方が良いな・・・」


 トモヤはがっくりと方を落とした。


「そういうことだ。さあ、明日の坊様との勝負に向けて、お前も寝ろ」


「ふん!」


 どすん、とトモヤは乱暴に横になり、ぱちん、と焚き火の火が跳ねた。



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 夜明けと共に、マサヒデは目覚めた。

 番をしている2人の騎士に挨拶をする。


「おはようございます。一晩、ご苦労さまです」


「お、マサヒデ殿、おはようございます。早いですな」


「ええ、この時間に起きるのが癖になっていまして」


「おお、そうだ。マサヒデ殿、家の後ろに清水がありますので、そちらで身体を拭かれると良いでしょう」


「ありがとうございます」


 家の裏に行くと、小さく水音がする。少し歩くと、小さな流れが見つかった。

 懐から手ぬぐいを出し、濡らして身体中を拭く。焚き火の側で寝ていたので、身体中が煙の匂いでぷんぷんする。

 しっかり拭ってから、昨晩下ろした荷物の所へ行き、木刀を取り出した。


「さて、と」


 日課の素振りを始める。

 青眼に構え、ゆっくりと上げてから


 しゅっ、しゅっ


 素振りを始めた。

 番の2人がこちらを見ているのを背中に感じたが、すぐに無心になった。


 しゅっ、しゅっ


 そのまましばらく振り続けていると、アルマダも起きてきたようだ。

 こちらを見ている。


 しゅっ、しゅっ


 しばらくして、汗が吹き出した頃、青眼に構え、木刀を収めた。


「・・・お見事です」


「いやあ、まだまだですよ」


「ご謙遜ですね。私にはあの音は10回に1度出たら良い所です。正直、嫉妬しますね」


「アルマダさんならすぐですよ」


「ふふ、そうあってほしいものです」


「汗を拭いてきます」


 木刀を荷物の中に戻し、先程拭いた身体をもう一度拭き直した。

 番の騎士2人が何やら話している。


「さっきの素振り見たか」


「ああ、あの音・・・」


 マサヒデが戻ると、2人は黙りこんだ。


「マサヒデさん」


 アルマダが声をかけてきた。


「今日は冒険者ギルドへ行きますが、昨晩、ご相談したことは覚えていますよね」


「はい。町中を私の祭にするんですね」


「よろしいですか。もしかしたら、100人組手どころの数ではないかもしれませんよ」


「構いません」


「そんなにあっさりと・・・さすがと言いますか、なんと言いますか。

 さて、冒険者ギルドで町中へ触れを出して頂きますが、触れを出して即日では人も集まらないでしょう。試合はいつにしますか?」


「うーん、3日後くらいで・・・あっ」


「ええ、ここには3日間の逗留は許されておりますが、その後です」


「そうでした。宿を用意するか、お坊様に逗留を許して頂きませんと」


「そうです。人が多ければ長引いてしまいましょう。まず、お坊様にご相談に行きましょうか」


「そうですね。では、まず寺へ参りましょう。トモヤを起こしてきます」

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