第三章 冒険者ギルド

第14話 冒険者を雇うには


「リー殿、良い案とは」


「マサヒデ殿は、パーティーにどなたか誘うおつもりでしょう。冒険者ギルドで探すのはいかがでしょう」


「冒険者ギルドで? しかし、それは大丈夫なのでしょうか?」


「新人冒険者などを見て回るのも良いでしょうが、いっそ依頼を出してみては」


「依頼を? とても雇えそうもないという話でしたが」


「冒険者さんをパーティーに誘う依頼です。参加者外として雇えば、先程の話のように膨大な額が必要となりましょうが、参加者として組に入りませんか、と誘うのはいかがでしょう」


「ううむ、それは冒険者ギルドにはあまり良い顔をされないかと思うのですが・・・」


「たしかに良い顔はされないでしょうが、条件付きでなら歓迎もされるかもしれませんぞ」


「条件? 金ですか」


「いや、マサヒデ殿、あなたです」


「私が条件? どういうことでしょう?」


「依頼の際、まずマサヒデ殿がパーティーに入るにふさわしいか力試しを行います。ここまではよろしいでしょうか」


「たしかに組に入れたいものの力は計りたいですし、依頼でなくとも力試しはしたい所ですね」


「そこに冒険者ギルドの方々を立ち会わせます」


「分かりません。それがギルドの方々に得になりますでしょうか?」


「なりますね。冒険者の方々の力量を見るに、トミヤス流が無料で力試しをします。何人でも構いません、ときたらどうでしょう」


「む、うーむ・・・」


「ギルドの方々も、実際に冒険者さん達がどれだけ戦えるか、という実力を計るのに、マサヒデ殿との試合は絶好の機会ではありませんか。特に新人さん方はまだ実力も分からない方が多いでしょう。彼らの実力とランクをすり合わせるのに、ギルド側も冒険者側も好都合」


「いや、しかし・・・」


「リー殿、素晴らしい案です。マサヒデ殿、これは良いと思いますよ」


「うーむ、いや、私も良い案だとは思うのです。しかし・・・」


「なにかあるのですか?」


「いや、その。なにか自分の腕を売るというか、なんというか、上手く言えないのですが」


「ふふ、剣はこういうものではない、と感じておられる?」


「まあ、その通りです」


 サクマとリーは顔を合せてにこりと笑った。


「マサヒデ殿。『武芸者』とは、『武』の『芸者』です。今回はその剣をギルドに売る。その代わり、有望そうな方がおられれば、正規の依頼料金を払って組に入ってもらう。互いに悪いことはありません」


「『武』の、『芸者』ですか」


「昔から言われるお説教ですよ。ふふふ、マサヒデ殿も年相応に若い所があるものですね」


「良く分からなかったら、お父上にもしこの話をしたらどうなるか、ご想像してみて下さい」


 ふむ、とマサヒデは考える。もし父上にこの話をしたらどうだろう・・・


 仁王立ちで、満面の笑みで、並んでいる冒険者達の前に立つ父。


 「よーし全員並べよー」

 「さあ、順番に掛かってこい!」

 「足らねえ! どいつもこいつも掛かってこい! 全員まとめてこい!」


 足元に転がる冒険者達・・・


 「くだらねえ! もちっと鍛えて出直してこい!」


 ・・・ありありと父の姿が目に浮かぶ・・・


「うーむ・・・喜んで冒険者さん方を叩きのめす父上が見えます・・・」


「ふふふ。どうですか」


「分かったような、分からないような。まあ、悪いことではない気がしてきました」


「ま、剣の腕も売り物ということです。売り所が分からなければ、剣では生きていけませんよ。今回はマサヒデさんもその勉強ということで、いかがです」


 そういえば、父は貴族からの贈り物は全部受け取っていた。「金に困れば蔵に放り込んでいた物を売れば」と言っていた。剣の腕も、商売・・・


「よし。やってみます。明日、冒険者ギルドへ出向きます」


「弁当でも食べながら皆と相談して、細かい事を決めましょう。単に力試しと言っても、全部が1対1では分かりませんしね」


「そうですね! うむ、やると決めると、なにか楽しくなってきました」


----------


 あばら家では、アルマダ達が焚き火の周りにむしろを敷いて寝転んでいた。


「只今戻りました」「お待たせしました」


 と、サクマとリーが声をかける。


「っ!」


 びくっ、と、アルマダが無言で跳ね起きて、剣の柄に手を添えた。

 騎士の2人も、枕元の槍を握っている。

 待っている間に、みんな寝入ってしまったのだろう。アルマダほどの者が、声を掛けるまで起きないとは、やはりひどく疲れていたのだ。


「あっ・・・失礼しました。うっかり寝入ってしまったようで。いや、これはお恥ずかしい所を」


「やはり、相当お疲れなようですね。さあ、弁当です。酒もありますよ」


「や、酒が2本も。これはありがたい」


 騎士の2人は酒を見て喜んでいる。

 マサヒデは騎士に酒と弁当を渡し、アルマダの隣に座った。


「なんと、トモヤのおかげで、弁当も酒もタダでもらえたんですよ」


「おい、その話はよしてくれ。ワシはもう恥ずかしゅうて、町に顔を出せんわ」


「おやおや、何か楽しそうなことがあったようですね? 聞かせてもらえますよね」


「アルマダ殿、勘弁して下され」


「トモヤ、もう諦めろ。皆がお主の勝負を見ておったのだぞ。この先、お主は『将棋の兄さん』だ」


「なんてこったい・・・」


「喜べ、お主の『最後の言葉に痺れた』と言っておった方もたくさんおったではないか・・・」


 こうして焚き火を囲み、トモヤを肴に、酒も食事も進んだ。


----------


 パチパチ、と音を立てる焚き火に、空っぽの弁当の包みを放り込んで、マサヒデはアルマダに帰り道にサクマとリーと話した冒険者ギルドへの依頼の話を相談してみることにした。


「アルマダさん、明日、冒険者ギルドへ行ってみようと思うんですよ」


「冒険者ギルドへ?」


「ええ。私達の組に、参加希望者を募ろうと思いまして」


「参加希望者ですか。なるほど、非参加者を雇うとなれば法外な金額ですが、参加者として募れば、と」


 少し聞いただけで、ここまで理解を進めるとは、さすがにアルマダは頭が切れる。

 マサヒデが彼を尊敬する所の一つだ。


「ほう、考えましたね。しかし、そんな依頼を出しては、ギルドが良い顔をしないでしょう」


「ええ、そこでリー殿が名案が出してくれました」


「はは、名案とはお恥ずかしい」


 先程まで寝ていた2人は、弁当を食べた後、入り口の番に向かった。

 番とは言っても、このような場所に来る者もいまい。敷地の外とはいえ、一応寺社が管理する建物でもあるし、少なくとも祭の参加者から襲われることはないだろう。形だけだ。


 明日の番はリーとサクマで、今夜は休みだ。

 リーもサクマも酒が進んでいる。トモヤもちびちびと飲んでいる。

 しばらくぶりの安心した休みで、酒もある。嬉しそうだ。


「リーさん。聞かせて頂けますか」


「はい。今回は、参加者を募る代わりにマサヒデ殿の腕を売ることにします」


「腕を売る。ふむ。詳しくお願いします」


「マサヒデ殿には参加希望者の力試しを大々的に行って頂きます。そこに、ギルドの方々も立ち会って頂きます。今回は『希望者』ですから、新人冒険者も多く参加されましょう。彼らの実力を計るにも良い機会。他にも実力とクラスの伴わぬ者もありましょうし、それらの方々を実力試験を行う、という訳です」


「代わりに、こちらが希望した者を祭の参加者と雇う、と」


「その通りです」


「中々良い案ですが、ふむ・・・」


 アルマダは顔に手を当て、少し考えた。


「不足です」


「アルマダさん、良い案だと思うのですが」


「ええ。しかし、これでは新人冒険者の方ばかりが参加しますね。ということは、皆が実力不足ということも十分考えられますよね。もちろん、中にはマサヒデさんの腕を見てみたい、と上のクラスの方も来るでしょうが、そういう方々は雇うのに大きな額が必要となってきますね」


「あ・・・そうですね」


 アルマダは、にやりと笑って、


「ふふ、ここはもっと大きく、派手に行きましょう」


「なんじゃアルマダ殿。もしやして、町で大暴れといくのか」


 大きく派手に、と聞いて、トモヤが割り込んできた。


「そうです。大暴れですよ」


「アルマダさん、聞かせて下さい」


「まあ、基本は先程と同じです。ギルドに話を通した上で、マサヒデさんの力試し大会ですが・・・参加希望者をもっと増やしましょう」


「もっと増やす?」


「せっかくですから、ギルドに町中に触れて頂きましょう。冒険者だけでなく、祭参加者はもちろん、参加していない方々からも希望を募ります」


「えっ!」


「おお! 町中から! それは大騒ぎになりそうじゃ! マサヒデ祭じゃの! ははは!」


「そして、後は先程の通り、ギルドの立ち会いを願う。これなら、ギルド側は冒険者でない者から有望な人材を探すことが出来る。マサヒデさんも、有望な人材を探すことが出来る。一石二鳥です」


「待って下さい、アルマダさん、それはさすがに・・・」


「このくらいがマサヒデさんにはちょうど良いでしょう。新人冒険者の力不足な者ばかり。目に適った者は皆上位ランクで高額で雇えない、という事態も避けられましょう」


「まあ、それはそうかもしれませんが、大きくしすぎでは・・・」


「せっかくのマサヒデさんの腕のお披露目ですから、大々的に行きましょう」


「大丈夫でしょうか・・・」


「大丈夫ですよ。いやあ、残念です。マサヒデさんは長年の剣友だと思っていたのですが、私の言葉が信じられませんか」


「アルマダさん、それは卑怯ですよ・・・」


「ははは。冗談ですよ。さて、他にもまだあります」


 アルマダは真剣な顔になった。


「まだ、ありますか」


「ええ、あります。ただ戦って強い者だけではいけません。マサヒデさんの組には3人分も空きがあるのです。よろしいですか、どんな職の方を入れたいのか、よく考えましょう。試験の内容もただの力試しだけではなくなりますよ。その試験の内容もしっかり考えておきませんと」


「うーむ・・・」

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