第7話 眠る前に三人で……
美瑠
「よかった、ただのぼせてただけみたいで……。本当に良かったね、咲人君。それからごめんなさい……、自分勝手なことばっかり言ってしまって……」
「ほんとだよ、好き勝手なことばっかり言ってごめんね……咲人君の気持ちも知らないで……」
病院から家に帰るしばらくの間、咲人君を支えながら、あたしたちは自分たちの行動を反省していた。
「……でもね、さっき言ったことは本当なのよ、咲人君……」
お姉ちゃんてば、家に着いたらまた耳元で囁いてる……。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん! また咲人君が戸惑ってのぼせちゃう……!」
「徐々に慣れていけばいいからね……。私が慣らしていってあげる……。身体を楽にして、咲人君」
「なに考えてるの、お姉ちゃん!? さっきまで真っ青な顔で心配してたのに……。そんなことしたら……」
「これはセラピーよ……。優しくて甘いセラピー……。さあ、全てを私にゆだねていいのから……」
「くっ……、咲人君! お姉ちゃんじゃなくて、こっちを見て? あっ、違う……。こっちを聞いて!」
あたしは空いている方の咲人君の耳に口をつける。
「こっちのほうが甘いよ……。甘くて優しくてお耳が
あたしたちに挟まれて
麻衣那
なっ……! 美瑠、なかなかやるわね……。いつの間にか咲人君をそんなに手なずけて。
「甘さだけじゃねぇ~……。ねえ、咲人君、時には厳しいことも言ってくれる人の方が、より自分のことを考えてくれてると思わない……? 私は美瑠とは違うよ……。ほんとうに君のことを大事に思ってるから……」
「だから無理難題を君に吹っ掛けるかもしれないけど、その分ご褒美は美瑠の何倍もあ・げ・る……」
「ちょっとぉ~お姉ちゃん、丸聞こえだよ? なんであたしが咲人君のことを甘やかしてるだけみたいに言われなきゃならないのっ?」
「だってそうじゃない?」
「むーっ……違うし」
「「ふぬぬぬぬぬぬぬ……」」
睨みあう私たちを咲人君が『まあまあ』と取りなしてくれた。みんなで暮れゆく夕日を窓から眺めながら、長かった一日を振り返る。
「疲れた……」
美瑠は床に両手をついて、のけぞってリラックス。咲人君も疲労困憊といった表情を浮かべてソファーに沈みこんでる。
私も実際、すごく疲れた。でも、もう自分の気持ちを美瑠に知られてしまったし、いまさら咲人君への想いを押し隠す必要はない。
「はあああ……」
思い切り伸びをした。これからは包み隠さず咲人君への愛をアピールしていける。そう思うと気が楽ね。
夜。疲れもあって、言葉少なにみんなで夕食を食べ、それぞれの寝室に向かう。
「咲人お兄ちゃん……あたし一人で寝られないかも……。一緒に寝よ?」
美瑠!? なななな、なんてこと言ってるの、この子!? いつから咲人君がお兄ちゃんになったの?
「待って待って……! 今日はたくさんお手伝いもしてくれたし、咲人君は疲れてるわ。美瑠が眠るのを見守るのは荷が重いと思うの。だから……こっちにいらっしゃい? 私が子守歌を歌ってあ・げ・る……」
「う~っ、さっきからくどいよ、お姉ちゃん? 『あ・げ・る』ばっかりくり返してさ……、単純だよ。つまんないの~、そんなんじゃ咲人君は
「くうっ……。美瑠ぅ~。あれっ? 咲人君どこに行くの?」
「ここにあるソファで寝る!? どうして? 疲れが取れないわよ。ちゃんと咲人君の部屋もあるし、昨日まではそこで寝てたのに……」
「きっと身の危険を感じたんだよ……。お姉ちゃんがあんまりにもガッつくから。ここならカーテンを開ければ外からも見えるし、安心ってことじゃない?」
「ガッついてるのは美瑠もおんなじでしょ!」
「……違うよね、咲人君? あたしのは純粋な気持ちだもん……。分かってくれるよね? お互い何も知らないところから一歩一歩、恋愛ってものを知っていきたいな?」
いくら彼の耳元で言っても、夜の静けさの中では私にも丸聞こえよ、美瑠……。でも、あえてそうするというのなら……。
「……はああ~んっ! 咲人君が欲しくて体が激しく悶えてきちゃうっ……。この衝動は君と一緒にいられないと収まらないっ……。私、なんだかヘンになっちゃいそう……!」
これでどう? 美瑠には決して真似できない、大人の色気を見せてあげたわ。恨めしそうな顔で見つめる美瑠。勝ったわね。
?……。咲人君がソファを開いて、ベッドに変形させていく……。何をする気? まっ……まさか……ここで、三人で――!?
「えっ? 『三人で手をつないで寝よう』? いえあの、そうじゃなくて……。私は咲人君と二人っきりで……」
「そうだよ……。どうしてお姉ちゃんまで一緒なの?」
咲人君は質問には答えず、ベッドの真ん中に横たわると、すぐに寝息を立ててしまう。
「ちょっと待って! もう少し色々話したかった……。はっ、いけない……よほど疲れてたのね……静かにしてあげないと」
「そうだね。あたしも知らない間に彼に負担ばっかりかけてたかも……」
すやすやと子供のように目を閉じて、細やかな寝息を立てる咲人君。今は見守ってあげることが一番かもしれない。
「じゃあ、私はこっちに」
「あたしはこっちだね」
うなずきあった私たちは咲人君の両脇に横になった。目を閉じ、幸せだった一日の記憶が脳裏に浮かぶ。
「そういえば、『手をつないで寝よう』って咲人君言ってたよね?」
美瑠が小声で言う。
「うん……。君の明日が、今日と変わらない幸せで平和なものでありますように……」
自分でも聞こえるかどうかの声で咲人君に囁いて、そっと手のひらを重ねる。
「あたしは、明日も明後日も……ずっとずっと咲人君の味方だからね……。これからもよろしくね……」
美瑠も静かに囁いて、彼の手に指を添わせた。
と、咲人君が突然眠ったままで両手を頭の方に持っていった。
「どうしたんだろ?」
見守る私たちをよそに、彼は両耳に指を入れ、ぐりぐり掻きだした。
「あたしたちが耳元でしゃべりすぎたからだよ、やっぱり。きっと耳の
「ふふっ……、そうかもね。明日からはここぞというときだけにしようか。ね、美瑠?」
「そうだね……。それからもっと姉妹仲良くしなきゃ、だね?」
「その通り。今日は言いすぎたわ、ゴメン、美瑠」
「ううん、こっちこそごめん……」
手もとのスマホが午前零時を知らせる。最後に咲人君に一言だけ……。
「「大好きだよ……」」
美瑠も反対側から同じセリフを囁き、私たちは眠りに落ちていった。
お屋敷のなかで美少女姉妹に追いまわされ、耳元で愛を囁かれる俺は幸せなのだろうか……? 夕奈木 静月 @s-yu-nagi
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