第4話 妹、テンパりすぎじゃない?
美瑠
「ちょっ……、お姉ちゃんっ! いったい咲人君に何をしたのっ!? 震えてるよ?」
しばらくして、あたしがリビングに戻ると、咲人君がお姉ちゃんから必死で目をそらしながら顔を真っ赤にしていた。
「な、なにもしてないわよ。ちょっとしりとりをして遊んでいただけよ」
「本当? 何もされてない、咲人君?」
必死でうなずいてくれてるけど……。絶対お姉ちゃんヘンなことしたんだ……。まっ、まさか咲人君の耳たぶにチュッ、とか!? ず、ずるいっ! あたしもしたいっ……。
「お姉ちゃん……」
「な、何よ、怖い顔して」
「今度はあたしの番だから……、その、咲人君から離れてくんない?」
「咲人君は順番待ちのジェットコースターじゃないの。人なの。だから、咲人君に聞いてみるわね」
なにその屁理屈……。うっとうしいお姉ちゃんだね。
「咲人君、私と美瑠、どっちと話してたいかな?」
まーた耳元で話してるよ。まあ、あたしもだけど。こんなことばっかりしてたら咲人君の耳の中、
「ふられた……ううっ」
残念だったね、お姉ちゃん。よしよーし、あたしの番だね。
「てか、掃除はどうするのよ、お姉ちゃん?」
「はっ……すっかり忘れてたわ……。すぐにみんなで始めましょ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。あたしと咲人君との時間がまだ……」
「いいじゃないの、それくらい。ここは私たち三人が暮らす家なのよ。いつだって美瑠も咲人君とお話しできるんだから」
お姉ちゃんがいなければね……。まったくもう。
「今ここで話したいのっ! だから15分後から掃除ならいいよ」
「仕方ないわねえ……分かったわ。くれぐれも咲人君に変なことしないようにね。私は掃除の用意をしてくるから」
ようやくお姉ちゃんがいなくなったよ。はあ……。だいたい『変なこと』ってなに? お姉ちゃんのほうが絶対咲人君に変なことしてるでしょ? 咲人君、困った顔してたよ。
「やっと逢えたね……咲人君」
お姉ちゃんがリビングから出ていったのを確認してから、あたしは咲人君の耳元で囁いた。べつに離れて言ってもいいんだけど、この方がドラマティックな気がするしね。
「ずっと逢いたかった……」
さらに続けるよ。お姉ちゃんも間違いなく咲人君のことが好き。姉妹だもん、分かる。そして、どんな路線でお姉ちゃんは咲人君を攻めてるんだろう?
よく分からないから差別化のために、今のあたしはロマンティック路線で行くよ。
「もう心配ないからね……」
や、やばっ……なんかあたし、男の子みたいなこと言ってるし……。咲人君も微妙な顔してる……。男女逆転しちゃってるかな? ……ダメダメ、もっと可愛らしいことを言わないと。
「きゅーん……。さきくんにきゅんきゅんしちゃってるっ!」
うわっ……! なに今の!? 自分で言ってて引くわぁ……。ヤバすぎ……完全おかしいしっ! あたしのキャラじゃないよっ!
ひいーっ! 咲人君の顔を見るのが怖いっ! 絶対、ヘンなものを見る目をしてるよぉ~!
怖くて咲人君の耳ばっかり見てる。いやでも、顔も見たいっ……。15分なんてすぐ過ぎるし、絶対お姉ちゃん15分測ってて、速攻で戻ってくるだろうし……、今のうちに咲君を間近で見ておかないとっ……!
恐る恐るそっと自分の顔を遠ざけて、咲人君の横顔を見る。うすーく微笑んでるね。それはやっぱりさっきのあたしの氷点下で滑りまくった可愛らしセリフに引いてのことなんだろうな……、ああ……、やっちゃったよ。
「さ、咲人君? あたすぃ、ほんとはこんなんじゃないんだからね?」
うひゃあぁぁっ! 噛んじゃったし……! 『あたすぃ』って何? カッコつけて英語的な日本語発音をしてるJ-POPかよ?
咲人君が笑いをかみ殺してる……。ウケたのはいいけど、彼の中のあたしの女の子ランキングは大きく下がっただろうな……。もうお姉ちゃんにも勝てないよ……。ああ、さよなら、咲人君……大好きだったのに……。
「うう……」
ガックリうつむいていると咲人君が恐る恐る、あたしの肩をぽんぽんと叩いてくれた。
う、嬉しい……。咲人君からのボディタッチは初めてだよ。これはお姉ちゃんに対して一歩リード? やったね。
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