第3話 きわどいしりとり

麻衣那

 全くもう……、美瑠に付き合ってたらイライラして仕方ないわ。そ、それよりも……、咲人君を放っておいちゃダメだった……! 私たちが好き勝手言い合っている間、取り残されたようにキョロキョロしてる。


「さ、咲人君……ごめんね、なんだかドタバタしてしまって……。大丈夫よ、あなたは自然にしておいてくれればいいから……。 えっ、『自然にしづらい』? どうして?『耳元で囁かれるとくすぐったいし照れるから、少し離れてくれると助かる』?」


 まずいわ……。さっきも卑怯な手段に出た美瑠のことだから、もしかしたらリビングに盗聴器でも仕掛けているかもしれない……。だったら、なおさら耳元で話さなくては。咲人君への、この私の熱い想いを……!


「じ、実はね、声帯をちょっと痛めていて、大きな声が出せないの……。だから咲人君のお望み通り、離れて話したいのはやまやまなんだけど、それが難しいっていうか……。分かってもらえるかしら?」


 くっ……、我ながら苦しい言い訳……。でも素直な咲人君ならきっと受け入れてくれるわよね?


「わ、分かってくれた!? わあ……良かった。ほんとに良かったよぉ~。じゃあじゃあ、耳元しりとりしよっか?」


 私は貴重な咲人君との時間を一秒でも長く味わうため、無理な愛の告白をするのをやめて、イチャイチャ時間を有意義に過ごすことに全力を費やすことに決めたの。


 だって「愛してる」なんて言ったら、咲人君が変に緊張してさっきみたいに『自然にしづらく』なっちゃうもの。


 それはダメ。私がするべきことはまず、咲人君がリラックスして暮らせる空間を作ってあげることだから。


 咲人君の手を引いて、こたつに向かう。夏だからこたつ布団は被せてないけど、日本人ならやっぱりこたつは落ち着くんじゃないかしら。


 咲人君がうなずいてくれたから、私から、しりとりスタートね。


「みかん……」


 はっ、きゃああああっ! 最初からアウトって……! 私のバカっ。いくらこたつから想像できるものだからって単純すぎ……。しかも耳元で堂々と言っちゃうなんて……。咲人君も笑いをこらえてるみたい。は、恥ずかしいよぉぉぉぉぉぉっ!


「き、気を取り直して、やり直してもいいかしら?」


 もはや、耳元で話す必要のない会話内容なんだけど、私は頑なに吐息が激しく吹きかかるポジションでのお話をやめない。


 それは意地よ。美瑠に対してアドバンテージを広げるための唯一無二の秘策……。って美瑠も同じことしてるんだから秘策でもないけど。


「果物でいくわね……。マンゴー……」


 さ、咲人君の顔が……赤いを通り越して紫色になってる……!!


「だ、大丈夫、咲人君!?」


 必死で首をカクカクさせてうなずく咲人君は、とても大丈夫そうには見えないよ。ちょっと耳元で言うには刺激が強すぎるワードだったかしら……。


 でもこのくらいやって咲人君に私を意識させないと美瑠には勝てないっ! 美瑠は持ち前の胸の大きさで咲人君を誘惑するわ。私にはそんな武器はない。私は咲人君が欲しい、どうしても欲しいのっ!


「さあ、咲人君の番だよ、『ご』から始まる言葉を言ってみて……?」


「えっ、『ごはん』? うふふっ、それアウトだからっ! 私と同じだね~。よく考えて言ってよ~?」


 動揺しているのかな。思わず言っちゃったんだね、可愛い……。


「大丈夫だよ……、罰ゲームなんてないから。じゃあ、もう一回、咲人君の番だね」


 一体どんな言葉で来るんだろう……。楽しみ……。す、「好き」とか言われたらどうしよう……? きゃあぁぁぁぁぁぁっ!


「『ゴリラ』? ああ、さっき『ごはん』だったから『ご』から始めてくれたんだね。よーし、じゃあ私はね……『ランジェリー……』!」


 さ、咲人君がプルプル震えてる!? めいっぱいえっちな感情をこめて言ったからかな?


「ご、ごめん、ちょっと激しすぎたかな? 大丈夫?」


 私から目をそらして、生まれたての子羊みたいに戸惑ってる。可愛い……、なんて可愛いの、咲人君。お姉さんがもっと色々教えてあげたいぃぃぃっ!! あっ、ダメダメ、今はしりとりを楽しむんだった。

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