第2話 この子たちの距離感、どうなってるの?

美瑠

 今日は日曜日。おうち全体の大掃除をするよ。こないだみたいに空き巣被害にはもう遭いたくないから、ついでに家の周りの防犯対策もするんだ。お姉ちゃんとも話し合って、分担してレッツ掃除!

 はっ……! 自分の部屋を出てリビングで朝ごはんを食べてたら、もうお姉ちゃんの魔の手が咲人君にっ……。全く……どうしてあたしに聞こえないように、咲人君の耳元でコソコソ内緒話するかなあ……。



「この間は本当にありがとう、咲人君……。私、怖かったからあんまり思い出さないようにしてたんだけど、やっぱり空き巣の犯人にしがみついて取り押さえてくれた君には感謝しかないの……。おかげで家の中まで荒らされずに済んだわけだし」


「美瑠の手前、助けた時は『仕方なくこの家で生活させることにした』なんて言ったけど、本当はそうじゃないの……。私、あれからずっと君のことが……」


 ガチャンッ!!


「ちょっと……! どうしたの美瑠!?」


「ああごめん、お姉ちゃん。ちょっと手が滑って……」



麻衣那

 台所の方を見ると、美瑠が慌てて飛びのいた場所に割れた食器が散乱していた。

 びっくりした……美瑠に聞かれてないわね!? 大丈夫よね?

 気を取り直した私は、再び咲人君の耳元で囁くの。


「いいムードだったのに、あの子のせいでゴメンね……。もう一度言うわ、私、君のことが……」


 ピンポーン~!!


 ああもう、なんてこと……!! どうしてこんな時に……。美瑠は? いつの間にかいなくなってる。仕方ない、私が出ないと。



美瑠

 よしよし、もう隠れておく必要もないね! お姉ちゃんは宅配便の相手の最中。


 でもあれは偽物。あたしの仕掛けた罠。友達のお兄ちゃんで劇団員をしてる人に頼んで、玄関で時間稼ぎをしてもらう予定よ。ふっふふふ……。


 今のうちに掃除をしているふりをしながら、咲人君と思う存分くっついて、イチャイチャして、それから、それから……。


「ねえねえ、咲人君……。えっ? 『お姉ちゃんがいないんだからそんなにくっつくことない』? そ、そうかな……、あたしにとってはこの距離感が自然っていうかぁ、この耳元おしゃべりに慣れちゃってる感じ?」


 それに、お姉ちゃんがやたらと咲人君に囁くようにしゃべって自己アピールしてるから、あたしも負けてられないしね。


「だから咲人君も、あたしに言いたいことがあったら耳元で言ってくれていいんだよ?」


 ああ~っ。咲人君の吐息を感じたい……。是非是非やってほしいよ……、今すぐにでもぉ~!


 なんだ……、してくれないのか。『大丈夫……』だって……。遠慮せずに内緒話しようよぉ~。まあいいや、気を取り直して小声で、彼の耳たぶをくわえるような感じで……、


「あたし、咲人君にはホントに感謝してるからね……。あたしの大事な宝物だとか思い出の品だってこの家にはたくさん置いてあるから、それがもし盗まれたら……って思うと、すっごい怖かったよ」


「だから……、咲人君が泥棒を捕まえてくれて、本当にありがとう、って……心から思ってる……。へっ? 『目のやり場に困る』? ああそうだった、咲人君、あんまり女の子は得意じゃないのかな? こういう露出の多い服は苦手だったね」


「『そうでもない』!? そうなの!? 必死で目をそらしてるけど、本当は見たいんだ? おーおー、いいねっ! 思春期男子はそうじゃなきゃ! って、年下のあたしがゴメン……、偉そうだよね? 『そんなことない』? 良かったぁ~! ねえ見て……もっとあたしを見てぇ~!」


「なにしてるの、美瑠!?」


「うわあっ! お姉ちゃん!?」


「ようやく白状したわ……あの人。やれ伝票の機械が調子悪いだとか、やれトラックのハッチが故障したから荷物を取り出すのに時間がかかるだとか、散々言い訳して足止めしてくれたけど……、美瑠の仕業だったのね?」


「え……、いや、違うって。なんかの間違いでしょ?」


「こらっ! あなたが口笛を吹いてる時は、後ろめたいことをした時だって分かってるんだからね!」


「しらないもーん」


「待ちなさーいっ!」

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