お屋敷のなかで美少女姉妹に追いまわされ、耳元で愛を囁かれる俺は幸せなのだろうか……?

夕奈木 静月

第1話 隣の美少女姉妹に拾われた!

「……仕方ないですね。生活に困っている人を助けるのは、恵まれた人間の義務です。あなたを連れて帰ります」


 私は、自宅の隣で道に這いつくばる男性を見つけ、思わず声を掛けたの。私は九条院麻衣那くじょういんまいな、大学三年生。四つ下で高校生の妹、美瑠みると一緒に、大きなお屋敷に二人で住んでいる。


「そうだね。これはあたしたちの義務だよ。放っておけないしね……。さあ、玄関はこっちだよ、早く来て」


 美瑠も男性に優しく手を差し伸べ、こうして私たち三人での生活が始まったの。ただ、いざ一緒に暮らしてみると、それは極限まで本音を押し隠す生活だったわ。まるで特殊任務に就いているようだと私は感じざるを得なかった。きっと美瑠だってそう思っているはず――。



美瑠

 学校から帰って、二階の自分の部屋に荷物を下ろしてリビングに降りてきたら、お姉ちゃんがまた咲人さきと君のそばにくっついてる。あたしがいないからって、好き勝手やってるなあ……。咲人くんも逃げればいいのに……。


 どうして? 咲人君ってば、あたしが同じことしたら微妙に距離取るくせに……。あっ、お姉ちゃんに気づかれた……。うう~、咲人君の耳元に口を寄せて、内緒話をしてるよ……。



「咲人君……。今だけは本音でしゃべるね? 美瑠には聞こえてなさそうだし。あのね……私は最初に君を見た時から、ずっとずっと気になってたんだよ? だって君って……私たちに拾われた時……ううん、最初に出会った時から、とっても悲しそうな目をしてたんだもん……」


「とても放っておけなかった……、ギュってしてあげたくて仕方なかった。妹の美瑠の手前、顔にも口にも出せなかったけど……。だから、君が道に倒れていた時、ヘンな言い方だけど嬉しかったの……。これから私がずーっとお世話してあげたいって、心から思った」


「だからね、はい……、壁の方を見て? 頭なでなでしてあげようね……。遠慮しなくていいの、私の方が年上なんだから、照れることもないわ……」



 お姉ちゃんとあんな部屋の隅っこで、一体何を話して、何をしてるんだろう? うう~、おねえちゃんの体で咲人君が隠れて見えないぃ……。何をしてるのかめちゃ気になる……。でもここで近づいていくのはダメ。あたしが咲人君に気があることにお姉ちゃんが気づいて、妨害してくるに決まってるもん。


 あたしだって咲人君ともっと話したい。この間のお礼だって、ちゃんと言いたいのに……。もう~、お姉ちゃん早く部屋に戻ってよ!




麻衣那

 美瑠が台所で咲人君と何か話してる。年が近いからかな、話が合うのかも……。って、美瑠は高二、私は大学三年。お互い咲人君とは二つ違いだもん、同じだよ。


 大丈夫、私にだってチャンスはある。でもこの気持ちを美瑠には悟られないようにしなければ……。絶対に気づかれてはダメ。


 あの子も咲人君に気があるのが丸わかりだから、彼のことを取り合ってケンカになってしまう。そうなったら咲人君がここに居づらくなって、出て行ってしまうかも。


 でも、私の咲人君への思いは止められない……。ああ、今すぐにでも抱きしめたい……。もう……あの子たち一体何を話してるの? はっ、美瑠と目が合っちゃった。すぐに咲人君の耳元に顔を近づける美瑠。私も、もっと咲人君と話したいのに……。



「ねえねえ、咲人君……。あたしのことは好きじゃない? やっぱりお姉ちゃんみたいな清楚な感じが好きなの? でもね……あたしみたいなギャルには、ギャルなりの魅力があるんだよ? だからね……距離を取るのはやめて欲しいな?」


「えっ……? 『別に嫌ってわけじゃない』? よ、よかった~。じゃ、じゃあ、なんであたしが近づいたとき避けてたの? あたし、気になって夜も眠れなかったよぉ~」


「へっ、露出? あーあー、あたしの服ね。イヤだって、これはさ、やっぱり咲人君の前だもん、男の子が好きそうな胸の開いた服着たいよ。ダメ? 『そうじゃない、目のやり場に困ってただけ』? なんだ、そっかあ! 良かったぁ~」



 満面の笑みを浮かべる美瑠が、そのまま咲人君のほうに身を寄せてる! ちょっと待って、咲人君の二の腕にまとわりつかないで! いつの間にそんな関係になってたの!? 私だって授業が終わったら全力で家に駆け戻ってきているっていうのに、いつの間に?


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