モッコウバラ

 幼いころ見た夢を、今でもずっと覚えている。

 小さな子供と子供が、将来結婚する約束を交わす夢。植物園にあるような蔦のアーチの下で、二人密やかに指切りをした。夢を見た翌日は「わたしのおうじさまがいた!」なんて喜んだっけ。

 でも相手の顔は靄がかかったように思い出せなくて、脳裏に浮かぶのはただ相手がいたという記憶だけ。

 そんなことを彼氏の雪也に話せば「その相手、俺じゃない?」なんておどけて私を笑わせてくれた。運命ではないかもしれない、でもこの先を共に歩みたい人を私はこの手で選び取った。そして彼もその手を握り返してくれた。これ以上の幸福が、何処にあるというのだろう。

 ねえ、小さな私。貴方の王子様は明るくてとっても面白い、そばにいるだけで笑顔があふれるそんな素敵な人だよ。だから、楽しみに待っていてね。

「みなみ、もう準備できた?」

「今靴下履いてる!」

「おっけ~。じゃあ玄関で待ってるね」

 お出かけの準備をした私たちは、手をつないで一歩を踏み出す。庭のモッコウバラがたわわに咲き誇って、いつか見たアーチのように美しく佇んでいた。

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