フリージア

 母はフリージアが好きだった。

 私のお気に入りの香水もフリージアの香りだ。この香水を纏うと母がそばで励ましてくれている気がしてちょっぴり心が強くなるから。

 フリージアの中でも特に母は黄色のフリージアが好きで、誕生日に贈る花束には必ずお花屋さんに頼んで入れてもらっていた。あの香りが大好きだと無邪気に笑う母はいつまでも少女のようで可愛らしい。

 今日は大切なプレゼンの日。このためにたくさんの時間をかけて懸命に準備をしてきたから、その努力が実るようにあとは自分の持てる力をすべて出し切るだけ。でも、緊張と不安はどうしたって拭い去れないから、今日はお母さんに背中を押してもらうんだ。満面の笑みで「大丈夫!」ってぎゅっと抱きしめてくれる母のぬくもりが懐かしい。

 香水を手首にしゅっと吹きかけて手首同士をとんとんと合わせる。トップノートが鼻を突き抜けて頭がしゃきっと覚醒する。お母さん、どうか見守っていてね。そう思った途端にふわりと駆け抜けた春風に背中を押されながら、いってきますと一人つぶやいた。

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