フリージア
母はフリージアが好きだった。
私のお気に入りの香水もフリージアの香りだ。この香水を纏うと母がそばで励ましてくれている気がしてちょっぴり心が強くなるから。
フリージアの中でも特に母は黄色のフリージアが好きで、誕生日に贈る花束には必ずお花屋さんに頼んで入れてもらっていた。あの香りが大好きだと無邪気に笑う母はいつまでも少女のようで可愛らしい。
今日は大切なプレゼンの日。このためにたくさんの時間をかけて懸命に準備をしてきたから、その努力が実るようにあとは自分の持てる力をすべて出し切るだけ。でも、緊張と不安はどうしたって拭い去れないから、今日はお母さんに背中を押してもらうんだ。満面の笑みで「大丈夫!」ってぎゅっと抱きしめてくれる母のぬくもりが懐かしい。
香水を手首にしゅっと吹きかけて手首同士をとんとんと合わせる。トップノートが鼻を突き抜けて頭がしゃきっと覚醒する。お母さん、どうか見守っていてね。そう思った途端にふわりと駆け抜けた春風に背中を押されながら、いってきますと一人つぶやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます