薔薇

 今日は待ちに待った幼馴染の樹里とのランチ会。いつもは月に二回ほど会っていたのだけれど先月は繁忙期で忙しくて一回も会えなかったから、久しぶりの再会だ。

「樹里~! こっちこっち!」

「ごめん菜々、遅れた!」

「いいよいいよ、今日も半休取ってきてくれたんでしょ?」

「もう話したいことがたくさんあって! だから仕事早めに切り上げてきた」

「じゃあ、早速頼んじゃお。ここのランチ、おいしいって有名だから楽しみにしてたんだ」

「いろいろあって迷うなあ……。う~ん、私はパスタランチにしようかな。カルボナーラにしよっと」

「私はラザニアのセットにしようかな。じゃあ店員さん呼ぼうか。すみません~!」

 料理が運ばれてくるまでの間もとめどなく会話は続いた。仕事の愚痴や最近あった嬉しいこと、趣味の話など会話に花が咲く。料理が運ばれてきてからはおいしい食事に舌鼓を打ちながら、穏やかに会話が続いた。そして会話の中で樹里がベランダで育てている花の話題になったとき、草花に造詣が深い樹里に聞きたいことがあったことをふと思い出した。

「ねえ、薔薇の花って本数になんか意味がある?」

「あるけど、急にどうしたの?」

「毎年旦那が結婚記念日に深紅の薔薇を一本、贈ってくれるの。私はいつも律義に花屋さんまで買いに行ってプレゼントしてくれるのが嬉しくて本数はさして気にしていなかったんだけど、そういえばなんで花束じゃなくて一本の薔薇なのかなあって」

「……凄まじい惚気をありがとう。一本の薔薇を贈る意味はね」

 樹里の答えを聞いて羞恥と喜びで薔薇のように赤く頬を染めた私は、帰って早速旦那の玲央に問いただす決意を固めた。――だって、ひとめぼれだなんて聞いてない!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る