トルコキキョウ

 女の子の多くが一度は憧れたことのあるであろうウェディングドレス、うっとりするような美しさとあどけない少女のような無垢さとかわいらしさを備えたとびきり素敵な衣装を私は今、まとっている。

 思えばここまで長い道のりだった。嬉しいことも悲しいこともいっぱいあった。たくさん喧嘩をしたし、もうダメかもと思った時もある。でも、喧嘩した翌日に二人そろってお互いの部屋から気まずい顔でそろりと出てきて笑いあったり、機嫌を取ろうとお互いに同じ店のケーキを買ってきていて思わず噴き出したり。この人となら、幸せも痛みも分かち合いたいと思った。ともに対等に支えあう互いにとっての止まり木でありたいと思った。初恋は実らないという言葉を覆すかのように一途に思い続けた幼なじみの悠太と私は今日、結婚する。

 美しいドレスをまとってヘアメイクを施してもらった私は、私でないかのようにいっとう綺麗で。おとぎ話に出てくるプリンセスのような出で立ちに、まだ夢を見ているのかもしれないと思った。悠太も私みたいにばっちりドレスアップしているのだと思うとその姿を想像して頬に紅がさす。ああ、早く会いたいな。

 私に魔法をかけてくれたヘアメイクアップアーティストの方が私の緊張をほぐそうと柔らかな声で語りかけてくれる。女同士、おしゃべりに花が咲いてあっという間に悠太との対面の時がやってきた。

 部屋から私を除いて皆が退出した後、コンコンとひかえめにドアがノックされる。

「凛、部屋に入っても大丈夫?」

 いつも以上に慎重で緊張に満ちた声にふっと肩の力が抜ける。

「いいよ、もちろん」

 ドアがゆっくりと開けられる。こちらを見た悠太はびっくりするほどかっこよくて、私は顔を真っ赤に染め上げてしまう。悠太も私を見て顔を真っ赤にしていて、お互いに真っ赤になった顔を見合わせて笑みがこぼれた。

「凛、すごく綺麗だよ」

「悠太もすっごくかっこいいよ」

「ありがとう。……ああ、こんなにうつくしいひとと一緒に生きられるなんて、俺は世界一の幸せ者だよ」

 そう言って悠太が世界で一番素敵な笑顔を咲かせる。その大好きな笑顔に私はぼうっと見惚れてしまって悠太から目が離せなくなる。そして悠太は恭しく私の手を取った。

「そろそろ時間だから、一緒に部屋を出ようか」

「……うん」

 惚けてぼんやりと返事をする私を悠太は愛おしい眼差しで見つめていた。それにまたきゅんとして、たまらない気持ちになる。この人とこの先ずっと一緒に日々を歩んでいくんだとじわじわと実感がわいてきて、決して悠太のことを離さないようにしっかりと手を握り返して二人で一歩を踏み出す。

 私たちをそっと見守るかのように、白く優美なトルコキキョウが優雅に佇んでいた。

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