すずらん

 すずらんは、幸せをもたらす花らしい。

 はにかみながら彼が私にすずらんを差し出してくる。記念日も、誕生日にも頓着がないひとなのにたまにこうして私に花を贈ってくれる。

 もう付き合って何年もたつのに、花を差し出す彼の反応はいつまでも初々しくて。それがどうしようもなく愛おしい。

 今日すずらんを贈ってくれたのも、「通りかかった花屋ですずらんを見たら麗子を思い出したから」ということらしい。こんなに可憐で良い香りのする素敵な花から私を思い出してくれたのがうれしく、ちょっぴり気恥ずかしい。

 この子に似合う花瓶を選んで生ける。彼が時折花を贈ってくれるおかげで、我が家の花瓶はすっかり充実している。その中でも可愛らしい花瓶が多いのは、彼が贈ってくれる花の系統が慎ましやかで可憐なものが多いからだろうか。

「ふふっ、やっぱりこの花は麗子に似合うね」

「そう? ありがとう」

 そう言った彼の顔があまりに幸せそうだったから、私もつられて笑みをこぼす。今日は、ありふれたとびきり幸せな一日。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る