第三話 因縁の敵、現る
街はかなりの喧騒と活気に満ちていた。
辺りの出店から煙と美味しそうな香りが香ってくる。
俺は彼女に言われた通り早速話し方を変えてみた。
「エリカはいつも朝ごはん外で食べてるのか?」
「いや今日は特別。朝ごはん落としちゃったし。」
あ、もしや、俺に驚いて取り落としたトレイに乗っていたのが朝ごはんだったのだろうか。
それは悪いことをしてしまった。
「あ、それは申し訳ない、、、ごめん、、、」
「いやいいよ。あれは私が驚きすぎたのも悪いし。それより朝ごはんどうする?」
エリカが俺に優しく訊ねてくる。どうしようか考えあぐねているとき、傍から大きな客引きの声が響く。
「おねえちゃん、おねえちゃん、どう朝ごはんにこの肉串!
今なら焼きたてだよ!!」
「ひえっ、、、、」
エリカは露店の店主から声をかけられて恐縮しまくっていた。
彼女は俺以外に対してはコミュ障なのだろう。
物言わぬ俺くらいしかまともに話せる人がいなかったみたいだし。
どうやって露店で朝ごはんを買うつもりだったんだろう。
彼女は俺に耳打ちする。
「エス、あれでいい?」
「ああ、いいけど、どうやって注文するんだ?」
「大丈夫、紙に書くから」
どうやら彼女は筆談で何とかする予定のようだ。俺はそれだと店主に迷惑だと思ったので代わりに注文役を勤めようと思い立つ。
「エリカ、お金くれれば俺が買ってくるけど。」
「え、いいの?」
助け舟を出すとすぐに乗ってきた。
そして彼女は俺に銅貨?らしきものを数枚持たせてくれた
「おじさん、俺と彼女の二人分で肉串二つお願いします。
おいくらですか?」
「おお、可愛いお嬢ちゃんだね。おつかいかな?
可愛いね、肉串二つで銅貨五枚だよ」
「これでお願いします。」
店主は微笑ましいものを見るように俺の手から銅貨を五枚取り、代わりに肉串を二本持たせてくれた。
想像以上にずっしりとした重みを感じる。
「まいどー」
「エリカー買ってきたよ。」
店主の声を背に浴びながらエリカの元へ向かう。
俺は余った銅貨と肉串を彼女に手渡す。彼女は不甲斐ないと言わんばかりに下を見つめていた。
「そんな気にしないで。苦手なことは俺が代わりにやってあげられるからさ。」
「でも、、、買い物一つできないなんて子供じゃないんだから」
「いつかきっとできるようになるだろ。気長に頑張ればいいさ。」
エリカはコミュ障とかそういうレベルじゃなくて対人恐怖症か何かなのだろうか。
どこか力になって上げられればいいんだけどな~と思った。
俺とエリカは近くにあったベンチに座る。彼女が落ち込みつつも肉串を頬張った。
「あ、おいしい。」
目を真ん丸にして呟く彼女。俺もつられて肉串を食べる。
「おっ、これ、結構いけるじゃん。」
噛んだ途端にじゅわりと肉汁が口内で溢れかえり、唐辛子、、、だろうか?
ほんのりと味付けされた辛さがピリリと舌を虐めてくるのがなんとも言えない。
肉の味は照り焼きのようなガツンとした感じがして食感はヒレ肉のような柔らかさで食べやすくもある。
口の中で数回噛めばほろりと崩れてくれるところも非常にポイントが高い。
すぐさま串の最上部に刺さった肉を完食し、二つ目を食べ始める。
またガブリと嚙みついて、、、、、
っ!?
味が先ほどまでとは打って変わってマイルドになっている。
もしやあの店主、違う肉をミックスして串に刺してあるのか!?なかなか乙なことをしてくれる。
今度の肉はぷにぷにな感じで柔らかさが何とも言えない。
鶏皮だろうか。唇とぷにぷにさ加減でいい勝負をしそうな肉である。
少し楽しくなってきた。串に刺さっているのはあと二つ。次はどんな味だろうか。
串からうまく外して三つ目の肉を口いっぱいに頬張る!と思いきや口内でシャキッという噛む音が響いた。もしやこれは野菜!?肉にしか見えなかったがどういうことだ!?
俺は驚愕に串を見つめるが、一口で頬張ってしまったため、そこにはもう三つ目の肉は存在していない。
口の中で転がすようにして味わってみるとあることがわかった。どうやらこれは肉を野菜で包んであるタイプの奴だ。
シャキっという感触から噛み進めると確かに肉らしき感触がある。キャベツだろうか。
野菜側も肉のたれの味が染み込んでいる。これは種変わりな食感が面白いな。
ごくりと三つ目を嚥下してラスト一つと向き合う。
四つ目の肉。今まで見た目は色が僅かに濃いだけで大して変わらないがわずかに艶やかに見える。
俺はこの肉串の有終の美を見届けるべく最後を一口で味わう。
ここまでで最高潮にまで上がったハードルをあの店主はどのように超えてくるのか楽しみであったが、結論から言おう。
四つめの肉は、、、、、、レバーだった。
焼いてたれにつけただけであろう四つ目のレバーはぼそぼそとした食感と独特のえぐみが自己主張激しめで、食べることすらが苦痛ですらあった。なんとか飲み込むが、食べ終えた後の俺の虚無感に満ちた顔は滑稽であっただろうか。
エリカは隣で俺の食べっぷりを見ていたようだった。俺は昔からレバーとだけは相いれなかったものだ。
「すごい食べっぷりだったね。もう一本買ってくる?」
「いや遠慮しとく」
最後のレバーのせいで上がったボルテージは一気に冷え込んでしまっていたのでおかわりする気はない。
彼女の串に刺さっている肉はあと二つだ。刺してある肉は俺が食べたのと同じだ。
「そう、じゃあちょっと待って、もう私も食べちゃうから」
彼女はそう言って三つ目を食べる。うんいい笑顔だ。美味しいであろうことが俺にも伝わってくる。
そして運命の四つ目。
俺は性格の悪いことにさっきの自分と同じ境遇に陥ってしまえという思いの中彼女を見つめる。
シャーデンフロイデというよりかは苦しみを共有する仲間が欲しいというあれである。
押しつけがましいかもしれないが、友達同士苦しみは分かち合いたいじゃぁないか!
そうこうしているうち肉串の四つ目の肉、、、レバーが彼女の口の中に入って、数回の咀嚼。そしてごっくん。
俺が嬉々として見た当の彼女の食べ終わりの表情は、、、それはもう満足げな表情であった。
「おいしかったね。じゃあ行こうか。」
彼女は何事もなかったかのように立ち上がる。
なんで?え、だってレバーだよなんで平然と食べられるの?
「え、?四つ目の肉どうだった?」
「あ、レバーのこと?おいしかったね~。私結構あれ好きかもしんないな~」
どことなく裏切られたような感覚に俺はどん底に落ちたような気がした。
俺はかつての記憶を思い出す。
そうだったレバーは好みが結構分かれるんだった。
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