第二話 初めての友達ってなんだかむず痒いよね

はっ!!!まずい人生初ともいえる女体の感触に絆されてしまっていた。


平常心。平常心。


俺は心の平静を保って頃合いを見て彼女を何とか引き離す。


彼女は袖で目元を擦った。彼女の顔には薄く涙の跡があった。


友達ができて泣くって彼女は一体どれほどまでに波乱万丈な人生を送ってきたのだろうか。


今度機会があったら聞いてあげたい。


それはともかく、今しないといけないのは情報収集である。




「俺はあんまりこの世界の事情を存じ上げないんですけど、、、」




「うん、わかってる、なんとなくそんな気がしてた。


私がエスに手取り足取り教えてあげるね。」




食い気味にエリカが俺の手を取って寄ってくる。


思わずびっくりするがエリカの普段の素が出てきたんじゃないかと考えると微笑ましく思えてきた。


どことなくお姉さんになりきろうとしてる残念系のように見えるがまあいいだろう。


その後エリカはいろんなことを教えてくれた。


今俺達がいるのはアリューシカ王国の地方都市トリノ郊外の山小屋らしくエリカと俺の二人で住んでいたらしい。王制の国でアリューシカなど聞いたこともないので世界観はマジモンの異世界なのではなかろうか。


もしかしたら魔法や異種族もあったりして。


俺はとりあえず外に出てみないかというエリカの提案に乗って、外に出てみることにした。


ベッドからエリカに手を引かれて立ち上がる。


地面に足をつけて、立ち上がろうとしたその瞬間。


ガクリと膝元から崩れ落ちるようにコケてしまった。


おかしい。どうしても足に力が入らない。




「あ、ごめんエス。


三年も寝たきりだったからきっと足の筋肉がなくなっちゃってるんだ。ちょっと待ってね。」




「三年ですか!?」




「そう、死魂病の患者はずっと寝たきりだよ。三年っていうのは私がエスを買ってから。


エスは売られてる時点で死魂病だったから歩いてない期間はもっとかも。」




エリカはそそくさと部屋を出ていき、なにやら手袋を持ってくる。そしてそれを左手に装着すると俺の足に向けて手を翳した。




「汝、我の願いを受け入れ給え、ブースト。」




彼女が謎の呪文を唱えると足の辺りがぽうっと温まる感触がする。




「あれ、歩けるようになってる!?なにこれ!?え!?」




「強化魔法で足をひとまず強化したので動けるはず。


しばらく歩けば強化魔法なしでも歩けるくらいに回復すると思う。」




「ま、魔法?え、なにそれ魔法なんてあるの?」




俺は新出情報にせっかく歩けるようになったのに腰を抜かしそうになる。本当に異世界っていう感じだ。


明らかに地球の文明とはかけはなれた部屋の内装もあったし、魔法のファンタジーな世界だったからと考えると納得がいく。


それに忘れかけているがこれは俺の夢だろうしな。多少突飛でも夢だからと納得できる。




「エス、、、まさか魔法もわからないの?」




「ああ、一切わからない。」




「魔法は魔力を使って様々な恩恵を受けることができるものだよ。ほら、アダプターとかインジェクターを使って。」




「待ってなに、、、アダプター?インジェクター?」




聞きなれないカタカナ言葉がエリカの口から紡がれる。一体何なんだそれは。


エリカはもう俺の世間知らずっぷりには慣れたようでメガネをくいっとやるようなジェスチャーをして鼻高々に説明し始めた。




「これは一から説明しなきゃですね。


アダプターとかインジェクターっていうのはアーティファクトの一種です。


あっ、アーティファクトっていうのは古代文明の遺物みたいなもので、よく発掘される便利な道具ね。


そしてアダプターっていうのは体内埋め込み式のアーティファクトで、空気中の魔力を結晶して魔力を人間が扱えるようにするものなんだ。


インジェクターはアダプターから出力された魔力を魔法に変換する機構。私が持ってるこの手袋のことなんだけど、基本外出時はつけるかな~


これないとまともに生活できないし。


まあ役割的にはアダプターが電池でインジェクターが回路みたいなものかな?


エスにもアダプターは埋め込まれてると思うよ。


どう、ここまででわかったかな?」




ふふーんとわざとらしく威張るように腰に手を当てるエリカ。


さっきまでの保護欲を掻き立てられる雰囲気と打って変わりやはり残念系お姉さんの気がある。


これはこれで見守りたいという親心らしきものが芽生えそうになる。


しかし、古代文明やアーティファクトというのはまたもやファンタジーな設定が出てきた。


もう驚くほどでもないな。


しかしそれよりも聞き逃せない情報があったぞ。




「アダプターっていうのは俺の体のどこに埋め込まれてるんですか?」




「あー、アダプターの埋め込みはこの国の国民全員が十歳くらいの頃に左手にするんだよね。


あ、ちなみに右手じゃないのは一応何らかの施術ミスがあったときに利き手だけは残しておこうという考えからだね。これ豆知識。」




「へーそうなんですね。今度もっと詳しく聞きたいところなんですけど、とりあえず外に出ましょう」




興味関心は尽きないが俺はとりあえず外の様子を見ることにする。魔法に関しては今度詳しく聞くという事にしよう。今はこの体を動かしたり外を見てみたい。


俺とエリカは部屋から廊下を経て外に出る。


今は朝のようで太陽が左手側に見える。異世界といえど空は青いし、太陽は一つだった。ちょっと安心感。


辺りを見回すと景色が開けた場所がある。そこにはレンガ造りの家が乱立するように並んだ街があった。まるでテレビで見たヨーロッパの街並みのような新鮮さに心躍る。


朝日に照らされて街の中心を縦断する川の水面がきらきらと輝いた。




「わぁーーーー!すっげぇ、あれが地方都市トリノ?」




「そうだよ、今から朝ごはん食べに行くんだけど一緒に行こうか?」




「ああ、行きたい!」




「ふふ、はしゃいでますね」




「あっ、、、」




先ほどまで慣れない敬語を使っていたが緊張の糸が切れて、思わず大人げなくはしゃいでしまった。


少し恥ずかしい。頬がかぁっと熱くなるのがわかる。


俺は何事もなかったように咳ばらいをした。




「それじゃ山を下りるよ。下るだけだから大丈夫だと思うけどつらかったら言ってね。」




エリカがにっこりして俺に優しく声掛けをしてくれる。ぶっちゃけいうとちょっと、、いやかなり可愛らしい。


そういえば急展開に追いつけていないがエリカは胸も大きいし目鼻立ちも整っていて美人だ。


黒髪の艶やかさといったらかつて雑誌で見たモデルを彷彿とさせるし、少し芋っぽい服装と目元にかかりがちな前髪を切ればかなりのスペックを誇りそうである。そんなことを思いながら彼女の顔をまじまじと見ていると彼女が恥ずかしそうに顔を背けてしまった。俺はちょっと見すぎたかなと思い目線を逸らして彼女の隣を歩く。


街へ向かいつつエリカが口を開く。




「エスは本当になにも覚えてないんだね。


魔法も知らないようだし、常識とかも覚えないとね


言葉はやけに話せるけどね。」




「うん、そうですね。とりあえずは街ではエリカの邪魔にならないようにします。」




「そんな気にしなくていいよ。そういえばエスって喋り方、特徴的だよね」




「え?そんな特徴的ですか。」




「いや子供なのに喋り方が時々大人びてるし一人称が俺だしさ」




「あ、喋り方はちょっと緊張してたのと一応初対面なので配慮して。一人称は昔からこうです」




「ふーん、まあ一人称は自由だけどさ、喋り方は私の前では普通でいいからね。というよりタメ口がいいな、、、


なんて。だってほら私たち友達でしょ?」




エリカはにへらと顔を綻ばせる。そういえばこの世界で初めてできた友達が彼女だ。


少し感慨深いものがある。俺は久々に胸がほっこりした気がした。


そんなこんなで話している間に俺たちは街についたのだった。

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