第一話 エリカとの邂逅
目が覚めたら見知らぬ土地に居たという体験をしたことはないだろうか?
俺は現在進行形でそれを体感している。
眼前に広がる部屋は明らかに昨日俺が寝た部屋ではない。
昨日のことはよく覚えている。治験バイト初日で疲れて泥のように眠ったんだっけな。じゃあこれは夢、、、、の世界、なのか?
しかし夢にしてはあまりにリアルすぎる。いわゆる明晰夢というやつ?
明晰夢というかつて僅かに耳にした事象について思い出してみる。それは夢を夢だと明確に自己認知できている特殊な夢だそうで、曰く夢だから自分の思うがままだそうな。
しかしそういう訳でもないような気がする。直感だけど。
一応興味本位で目の前に好きなアニメのキャラが出てくるように念じてみるが何となくわかっていた通り何も起きなかった。僅かには期待していたのでちょっと残念。
しかし、夢にしてはリアルでとても興味深いのも事実である。俺はとりあえず体を起こして辺りを見渡してみる。
異国情緒あふれる部屋の内装だ。壁には見たこともない動物の頭骨?だろうか。眼窩が三つあるオオツノジカのような剥製が飾ってある。さらにはどうやって中空に浮いているのか皆目見当がつかないような金魚鉢?のようなものもある。絨毯の刺繡は左右対称の平面に見えて角度を変えて見てみるとトリックアートのように柄が目まぐるしく変わっている。
それより一番の驚きだったのは自分の体の変化である。女性のように長いサラサラの銀髪と病的なまでに白い肌。
肉がついてんのか?と思うほどに細くしなやかな手指。驚いて顔を覆うように触ると、もちっという何ともまあ甘美な感触が指先にダイレクトに伝わってくる。女性のようというよりは正しく女性だ。
まさか、、、、そんなまさか、、、、、?
ふと脳内によぎった仮説を否定するように打ち消すが一度気になってしまったらどうしようもない。
俺は先ほど立てた仮説の証明をするために、恐る恐る胸を触ってみる。
かつて画面越しに幾度となく見ていた二つの禁断の果実がきっとあるはずだ。
いや果実という程ではなかったとしても丘くらいにはあるはずだ。
いやそうあってくれ。俺は心の中で祈る。十九歳彼女なしの悲痛な願いだった。
しかし現実はあまりにも非情であった。大いなる期待を持っていざ胸に手を当ててみたらどうだろう。
それはまるでまな板のようで、はたまたアルプスの断崖絶壁のように雄大な、、、、
”真っ平ら”だった。
期待していた柔らかい肉の感触は何処へ!?!?!?!?!?!?!?
果てしない動揺と共に今度は手を股間部へ滑り込ませる。そこには男の象徴たるアレは一切の存在すら感じられず、、、、、これらの情報から推察されるのは、、、、
「俺は今、、、つるぺたな女の子に転生している夢を見ているというのか?」
茫然自失になりながら呟く。つるぺたな女の子ってなんだよ、、、、?犯罪じゃない?
異性に生まれ変わったら誰しもがやるであろうソロプレイをするにしても俺に小児性愛の趣味はない。
俺はどんなに落ちぶれたとしてもロリコンという名の犯罪者にはなりたくないのだ。
これが俺の夢だと考えると自分の精神を案じるレベルである。
およそ夢とは思えぬ自身の置かれたあまりの微妙すぎる境遇に咽び泣いているその頃、俺のいる部屋に向かっている人間がいた。
「エス、、、入るよ~♪」
やや喜色の割合が高めの声を出しながら部屋に入ってくる女性。
状況があまり読めないが、この部屋にいるのは俺しかいない。
つまるところあの女性が言う「エス」という人物は俺であるという可能性が高い。
え、どうしよう?だって、いまの俺はエスなんていう可愛い女の子じゃなくて中身は大学一年生の男だよ?
扉の向こうの女性の口ぶりからしてエスという少女と彼女は恐らく顔見知り。
俺はどちらかと言えば夢の中で少女に転生しているというよりかは少女に憑依しているという方が表現としては正しいのかもしれない。つまり、、、、死ぬほど気まずい。
どうしようと考えあぐねた俺は最悪の選択をしてしまう。
扉が開き、入ってきた女性と目が合った瞬間。精一杯の女性らしさを出した挨拶をしたのだ。
「にゃ、にゃっはろー?」
俺にとっては正真正銘真剣な女性の演技であった。東京観光大使やってそうな挨拶である。
でも、こういう挨拶しか知らないんだよ。悪かったなオタクで!!!
しかし、やはり大根演技だったのが祟ったのか、眼前で女性は驚き、持っていたトレイを取り落として後方二回転を盛大に披露しながら部屋の隅まで後ずさった。
「ひ、ぃ、、、いぃいいいぁぁぁやっあっあ、、、」
女性は声にならない悲鳴を上げながら怯え続けている。いくら何でもオーバーリアクションすぎやしないだろうか?
いくら違和感があったとしても声帯は正真正銘女性のものだからそこまでおかしいことはないはずだ。
と思えば彼女が俺に尋ねる。
「エ、エス、、、意識がもどったって認識であってるの?」
情報源は少ないが、察するに俺はどうやら意識がない状態がノーマルモードらしい。
確かに意識がなかった奴が突然起きたら驚くだろう。多少オーバーなのは否定できないが。
しかし、余りに突飛な世界観に巻き込まれて緊張してしまう。
普段通りの会話はできるだろうか。
「あ、はい、意識、、、あります、、、とりあえずどんな状況かだけ教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「っ、、、、ふぅ、、、
あ、えーと、記憶にないと思われるのですがあなたが売り出されていた所、奴隷市場で私に買われました。
今まで三年間、ありがとうございました。あなたがこれからどこに行こうが私は追いません。
し、失礼しました。」
息を吸い込んだかと思いきや早口言葉のように状況説明をする彼女。あまりうまく聞き取れなかった。
ってか、え?奴隷市場?俺、、、奴隷で売られてたの?夢なのに想像以上に設定がアレやな。
退廃的?背徳的?というかなんというべきか。
俺は自分の夢のダークファンタジー感に戦慄する。
しかしここまで深い作りこみの世界観だとどうしてもゲーマーの血が騒いできてしまう。
どうせこの世界は夢の世界で今夜限りなのだからゲーム感覚でやるのがいいのかもしれない。
俺はとりあえず情報を集めるために色々訊ねてみることにした。
敬語がいいだろうかやっぱり。
「ど、奴隷市場ですか?
えっと、、、もう少し具体的に説明願います。あ、あとそんなに化け物扱いというか、お化けを見るように対応されると俺も傷つきます。せめてそこの椅子に座ってお話しませんか?」
俺は傍らの椅子を指さすと共に両手をホールドアップして危害を加える意思がないことを暗に示す。
彼女に伝わったのかゆっくりとこちらに近づいてきてくれた。
「ありがとうございます。今意識が戻ったばかりであんまり覚えていないんです。
俺が奴隷市場で買われたってところから詳しくお伺いしても?」
「あ、はい。
少し長くなるけどいいんですか?」
「そちらの方が都合が良い。ぜひお願いします。
あ、あと俺に敬語は大丈夫ですよ」
彼女は落ち着いてきたのか少しずつ冷静さを取り戻してくる。
そして彼女は身の上をとつとつと語り始めた。
「私はちょっといろいろあって人と話すのが怖くてね。
でも、ある時なんというか耐えられないというか、人肌が恋しくなったというか。話し相手が欲しいって思ったんです。でも私なんかと友達になってくれる子いないし、それにほら、、、私こんなにすごいコミュ障じゃないですか?だからお人形さんみたいに私を無条件で受け入れてくれる子はいないかなと思って」
「なるほど、それで?」
「ふと立ち寄った奴隷市場で死魂病のあなたを見つけてね。そして存外安かったのでふっと買ってしまったんです。それから毎日は充実してましたんだ。だってエスが毎晩、私の話し相手になってくれたから。死魂病だと意識がない状態だから私も話しやすかったし、、、、。
あ、エスって名前は私が勝手につけました。ごめんなさい。
それはともかく、エスはなにも言わないけど私の話を聞いてくれてるってだけで凄く嬉しかった。
それでね。ずっと考えてたんだ。エスが意識を取り戻したらどうしようって。
ずっとこの家に居てほしいなって思ったけど、最終的には、エスはエスの人生を歩んだ方がいいって思ったの。
だからもう私は奴隷だからとか言って止めたりしない。あなたはもう自由だからね。」
彼女は沈痛な面持ちで事のあらましを語る。なんとなく雰囲気は読めた。
あれだ。傷心の人間がペットとかを買ってそれと一緒に暮らしてメンタルケアをする感じのあれだろう。
話を聞くに俺は死魂病という意識を失う病気に罹っていてそれが彼女のメンタルケアには都合が良かったという感じかな。
しかしまあ、あれだ。すごく同情してしまいそうだ。
彼女は一見平然を装っているがその実、拳が強く握られプルプルしている。
きっと傷心の彼女にとってエスという物言わぬ存在は心の支えだったのだろう。
それなのにエスとお別れをしようと切り出しているような物なのだから彼女の寂しさや苦しさは計り知れない。
なによりも自身の願望よりもエスの幸せを願おうとする優しい姿勢に惚れこんでしまった。
彼女は苦しいのだろう。しかし明るさを取り繕って喋る。
「あ、そうだ。エスの本当の名前ってなんていうの?
エスって私がつけた名前だからさ。最後に教えてよ、ねえってば」
彼女が苦しそうに俺の服の裾を摘まんでくる。さながらいかないでと親に縋りつく子供のように。
俺は気づいたら口から言葉がついて出る。夢の中なんだということすら忘れてしまっていた。
のちのちの事すら考えずただ、目の前の彼女が悲しまない選択をしてあげたかった。
「俺は別に出ていこうと思ってはいないです。記憶もないし、ここがどんな世界なのかもわかっていません。ひとまずはこの家に置いてほしいのですが、だめですかね?
あと、これはよければなんですけど私とお友達になってくれませんか?」
「ふぇ?」
「俺はこの世界についてあんまり知らないものですからそれについて教えていただきたいし、それに、悪い人ではなさそうなので仲良くしてくれると嬉しいなって。」
「本当に私なんかでいいの?」
「ぜひお願いしたいです。」
「私の事嫌いになりませんか?」
「嫌いにならないですよ。きっとあなたは優しい人だから」
そこまで話して気まずさが勝るようになる。友達になろうなんていう生涯初のむず痒い言葉を吐いたからか俺は羞恥心に悶えていた。
非常にこっ恥ずかしい
「とりあえず、あなたはどうお呼びすればいいですか?」
「エリカって呼んで。エスはエスでいいの?」
「うん、エス、、いい名前だと思います。遅れたけど名づけありがとうございます。」
彼女はエリカというらしい。どことなく日本人らしい名前だ。
俺は日本での名前があるけど彼女が慣れている呼び名の方がいいだろうということで名前はエスという事にした。
エリカは先ほどから感極まったような表情をしている。
そして俺にしなだれかかるようにして、、、、
「エス、、、、ありがとう、、、ありがとう、、、」
エリカは俺に抱き着いてきた。そして耳元でしきりにありがとうと言い続ける。
彼女は意識がない寝たきりの俺に三年間話し続けるくらいには病んでるんだったっけな。
もしかしたら心に大きな闇や傷を抱えているのかもしれない、、、、
でもそれでも俺は彼女の気持ちを尊重してあげたいと思ったし、おこがましいかもしれないが彼女が悩むならそれを解決してあげたいと、ふと思ったのだ。
「変な夢だけど、とりあえず彼女のために頑張ろうかな。」
俺は独り言ちる。きっとエリカには聞こえていなかっただろう。
ってやばい!!!耳元で囁かれてしかも抱き着かれてちょっと俺には刺激が強すぎる!
耳がこそばゆいし、なんかいい匂いするし、着痩せするタイプなのかわかんないけど、
すごく、、、そう、、、肉感的だ。俺の体をぎゅうっと圧し潰すように二つのふわふわな球体が体に触れ合う。
もしかしてエリカって隠れ巨乳なのでは!?
何者よりもダイレクトに伝わってくる圧倒的なボディランゲージ。いまだかつて感じたことがない甘ったるい体験だ。
「あ、これ、、、、思考回路止まるは、、、、、」
俺は人生初の感触に思考能力を奪われる
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