【怪しい治験バイトから始まる異世界エルフ人生】~種族チートで世界救う~
@takeyouji
プロローグ
大学一年生の夏。高校生などの夏休みよりも期間は長いはずの大学の夏休み。
しかし、その実はあまりにもいろんなことがありすぎてとても短く感じてしまうものだ。
多くの大学生一年生は受験の反動という免罪符の元、思い思いに遊ぶだろうが、俺はそんなことをしている場合ではなかった。働かなければならないのだ。なんて言ったって我が家は父子家庭。稼がなきゃ明日のおまんまも食えたかどうかわかったもんじゃない。
おっと、少し言葉が古臭くなってしまった。しかし今俺が歩いている光景を見るにこの言葉遣いとて、あまり場違いだとは言えないだろう。たった今、俺が我が物顔で闊歩しているのはまさしくTHE田舎。ホモサピエンスよりもサルの方が多いであろう山間部であるのだ。何をしに来ているかって決まっているではないか。山奥に金のない大学一年生が一人で向かうものと言えば、、、、、、?
違う違う、断じて夜逃げや自殺などではない。
お察しの通り、俺が今やろうとしているのは治験バイトだ。
治験バイト、、、、。
医薬品などの最終的な安全チェックなどのために人を集めて薬剤などの効果を明らかにする臨床試験のバイト。
一定期間運営側の用意した食事、住まいで過ごさなきゃいけないが逆を言えばそれさえ守ればただ暮らしているだけで金がもらえる神バイトである。しかも高収入と来た。山奥の研究施設で行われるであろうこのバイトは場所の辺鄙さも相まって相場よりもかなり割高な給料が設定されていた。
名前も知らない製薬会社の治験バイトで山奥という事で怪しさ満点であるが多分大丈夫だろう。
何しろ治験を行うのは最終段階であるため人間に害があることは殆どないと知恵袋が言っていたからだ。
さあ、そうこうしているうちに目的地の研究施設が見えてきた。
山奥の傾斜部分にへばりつくように建設されたそれは周りの未開の地とのギャップも相まってなかなかに面白い様相を呈している。
俺は山道を歩き疲れたので早く建物に入りたいと思い歩調を早めるが何かがおかしい。
施設に近づけば近づくほどに道がなくなっていくのだ。普通人がいる場所に行くのだろうから整備された道でなくても獣道程度の道があって然るべきだ。そこはかとなく漂う不気味さに一歩身を引きそうになる。
地面に落ちるムカデの死骸や遠くをはばたく大きなカラスなどが今から向かうであろうその場所のおぞましさを間接的に表しているように思えた。しかし、ここまで来て引き返すという選択肢は俺にはない。
気のせいだと自身に言い聞かせて研究施設へ足早に向かった。
「やっと着いた~~~」
「ようこそ。いらっしゃいました」
「うぇっ!?」
気づかなかった、、、いつの間に背後に!?
俺が到着に際して独り言を漏らすと同時に関発入れずに背後にいた白衣の男が声をかけてくる。
いつの間にか背後にいたことに怖気を感じつつも男の案内に従う。
ひんやりとした空調の風が妙に心地よくて恍惚となってしまう。
三分ほど歩いて辺り一面真っ白の大広間のような場所に通される。
そこでこれから服用する薬の説明や様々な説明が行われる。
これから飲む薬の名称はメイル錠というらしく何の変哲もない朝晩一錠ずつの胃腸薬らしい。
二日に一度採決と適当なアンケートがある入院タイプの治験だ。二か月という夏休みを殆ど使い切る長さに見合っただけの待遇があってひとまず喜んでおこう。
想像以上に長めの説明があったが殆ど上の空で聞けていない。
「えー説明は以上です。
それではいきなりですが最初の服用お願いいたします。」
おっと、もう説明が終わってしまったようだ。
いつの間に目の前に置かれた薬を雑に口に放り込み水で流し込んだ。
運営側から案内されて自分の部屋まで向かう。ビジネスホテルくらいの大きさの個室で結構よさげだ。
「おーすげえ。実家のような安心感。」
部屋に入った瞬間ベッドにダイビングする。いわゆるスプリングのチェックだ。
新しく泊まる部屋ではベッドのスプリングをしっかり確かめる必要性があるのだ。知らんけど。
俺は荷物を端に投げ捨て寝転がった状態で天井を見上げる。
持ち込んだゲームでもしようかと思ったが気力が湧かない。山道を歩いてきて疲れたしな。
それに、先ほどから胸の底にどことなく異物感というかモヤモヤを感じる。不安感?焦燥?得体のしれない不気味なものが体内で這いずり回ってるみたいだ。きっと慣れない田舎の空気にあてられたとかそんなところだろうか。
そうあってほしいものだ。
今まで感じたことない感覚が不思議だが俺はもう何も考えないことにした。
その後も不思議な感覚は絶えなかったが何も起きることなく、治験バイト一日目は終了した。
胸中のモヤモヤは晴れることなく俺は眠った。
ベッドのスプリングはちゃんとしていたはずなのにどことなく沈んでいる感覚がある。
それこそ泥の中に意識ごと飲み込まれていくような、、、、、
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