第14話 沙織と舞
「二十二時到着ね」
「わかった。ロビーで待ってる」
もう少し舞と話していたかったが、仕事中だったので沙織は電話を切った。舞が北海道から日本を縦断して沖縄へ来るという。今日の今夜来るというのだから、よほどの理由があるのだろう。沙織は大学卒業後、名護にある水族館の獣医師として勤務していた。今年で勤続十二年目のベテランだ。獣医師は沙織の他に二名在籍しており、交代で休みを取るようにしていた。人と違って具合が悪いと訴えることがない動物たちが相手なので、少しの異変も見逃さないように、常に医師が常駐している。今日は珍しく、水族館の生き物たちは体調がよかった。いつもならどこかの水槽で、つきっきりの治療をしているところだ。
「館長、今日はみんないい子にしているので、定時で退社します」
「うん、だいぶ気候が落ち着いてきたから心配ないだろう。たまには飲みに行くか?」
「すみません。今日は学生時代の友人が来るので、またの機会にお願いします」
沙織は、デスクトップパソコンをシャットダウンして、スタッフルームを出た。
「わざわざ日本を縦断してまで会いに来る理由ってなにかしら」
沙織は、名護市内にある自宅マンションへ戻り、シャワーを浴びてから半袖のTシャツとジーンズに着替えた。九月の沖縄はまだ暑い。
「二十二時着かぁ。食事どうしよう」
壁にかけてある、振り子の壊れた時計は十八時を少し回ったところを指していた。
「もう、飛行機に乗っているよね。機内ってWIFIあるのかな」
沙織は舞にラインを入れてみた。
「食事どうする?」
「さっき吉野家で牛丼食べたからいらないよ」
すぐに既読になり返事がきた。
牛丼なんか食べるんだ。しかも女ひとりで・・・。
とりあえず夕食の準備は不要のようだが、お酒なら少しくらいは飲むだろうと、仕事帰りにコンビニで買ってきた缶ビールとチューハイを冷蔵庫に入れておいた。
「話は明日にして、今夜は一杯飲んで、あとは寝るだけにしておくか」
酒は用意したが、つまみがなにもなかった。沙織はマンションを出て、駐車場に停めてあるマニュアルシフトのJA11に乗り込み、那覇空港に向けて走り出した。
「途中のスーパーで買い出しだな。明日の朝食も考えなくちゃ」
羽田発の最終便は沖縄に五分遅れで到着した。平日のため、降りてくる客はほとんどがサラリーマンだ。ノーネクタイのサラリーマン男性に混ざり、ジーンズにロングブーツ、タートルネックのセーターにウールのコートを羽織った女性がいた。
「舞だ。沖縄に来る服じゃないぞ」
沙織は、場違いな服装の女性が舞だとすぐにわかった。自分に向かって歩いてくる男たちをかきわけ、舞に近づいて声をかけた。
「いらっしゃい」
不意に声を掛けられ、舞はハッとして立ち止まった。
「沙織・・・」
三年ぶりに会う、懐かしい顔がそこにあった。舞は、今朝からずっと気を張って平静を装っていたが、心許せる旧友を前にして緊張がゆるみ、頬に大粒の涙が溢れ出た。
「おいおい、なんで泣いてるのよ。何があった?」
沙織の肩に顔を沈め、舞は声を出さずに泣いた。
「何か大変なことがあったのね。辛かったね。よく頑張ったね。沖縄まで会いに来てくれてありがとう」
沙織は舞の体を優しく抱きしめた。いつの間にか、空港の到着ロビーは二人だけになっていた。
「車で来てるの。駐車場へ行きましょ」
沙織の胸で泣き続けた舞は、しばらくして気持ちが落ち着いたのか、顔を起こして手のひらで涙をぬぐった。
「車、持ってたっけ?」
「あるのよ。ボロだけど」
三年前に会ったとき、沙織は車を持っていなかった。自転車で十分だと言っていたのを思い出した。舞はベルトコンベアーに乗って運ばれてきた荷物を受け取り、沙織と一緒に空港の駐車場へ向かった。停めておいた車を見つけ、沙織はJA11のキーをポケットから取り出した。
「これ、なんていう車?」
「ジムニーよ。ポンコツでしょ」
「カクカクしてて、カッコいいね」
「去年、中古で買ったの。ボロだけど頑丈で壊れないんだ」
沙織はドラバーズシートに座りエンジンをかけた。軽い振動が体に伝わってきた。
「二十二万キロ?」
舞がメーターを覗き込んだ。オドメーターは二十二万四千キロを表示していた。
「うん。二十年以上前の車だけど、元気よく走るのよ」
「すごいね、軽なのに」
「日本車って優秀よね。あと十年は乗れそうな気がする」
エアコンスイッチの下に、後付けの安っぽいカーステレオが装着されていた。舞が右手を伸ばしてスイッチを押すと、FMラジオからサザンの曲が流れてきた。
「サザンの曲、なにが好き?」
「若い頃の曲が好きかな。ふぞろいの林檎たちの頃の」
「そうね。私もあの頃の曲が好き」
「この曲、ミス・ブランニュー・デイ。これもそうよね」
「うん、なんか思い出すね。あのドラマ、すごくおもしろかった」
「再放送、よく見てたよね。学校から帰ると、ちょうど放送時間だったし」
沙織が窓を開けて、心地よい風を車内に入れた。舞が、ラジオのボリュームを上げる。
「窓、これで開けるんだね。こういうの好き」
舞も、ウインドウハンドルをくるくるとまわして窓を下げた。潮の香りがする沖縄の風が車内に入り込んできた。
「こっちはまだ暑いのよ。夜はいいけど、昼間は真夏」
「北海道は、あと半月もすると冬。朝晩はだいぶ冷え込んできた」
「同じ日本でも差があるね」
「そっか。こっちの昼間は暑いのか。私、変な服装よね」
舞が、首にまとわりつくセーターの首を引っ張って胸元を開けた。
「うん。舞がロビーに現れた時、どこから来たの?って、感じだった」
夜は涼しくなったとはいえ、ウールを着る気温ではない。舞は、背中に汗を感じてコートを脱いだ。
「どうしよう。服がないわ。わたし」
着替えを用意する暇もなかったくらい、大きな出来事があったということか。
「私の着ればいいじゃない。長居はしないでしょ」
「長居、しちゃダメ?」
「えっ、そのつもりなの?」
「わかんない。そうなったら、服を買いに行けばいいよね」
ダメとは言えなかった。まだ何もわかっていないし、まずは話を聞いてから。答えはそれからでいい。
「空港に来る前にスーパーで買い物しておいたの。つまみだけどね。おなか、空いてないでしょ?」
「おなか、空いてるよ。ソーキそば食べたいなぁ」
ラインで聞いた時、牛丼食べたって言ってたでしょうが。どんだけ食べるのよ。
「なんか、北海道から沖縄まで一気に来ると、おなか空いちゃうね」
飛行機に乗ってるだけで、おなか空いちゃうの?
「うん、わかった。スーパーに寄って買い出しだ」
「ありがとう。ソーキそば、食べたかったの」
さっきまで泣いていたはずなのに、ソーキそばで元気が出たのか。沙織は、名護市内にある、海沿いのスーパーマーケットに車を停めた。そこは深夜まで営業しているので、時々使わせてもらっていた。二人で店内を物色して、ソーキそばと明日の食材を適当にカゴに入れてレジに並んだ。
「ねぇ、これもお願い。私がお金出すから」
黄色の買い物カゴに、舞がペットボトルに入った安物のウィスキーを入れた。
「こんなのやめなよ。悪酔いするよ。うちにいいのがあるから」
沙織は、ウィスキーをカゴから取り出し舞に手渡した。
「棚に戻してきて」
名護に向かう海沿の国道をJA11は制限速度を守って走った。ボディーが赤にオールペンされていること以外はノーマル。三気筒のエンジンは、ターボを効かせなければ思いのほか静かだ。
「さてと、着きましたよ」
「へぇ、マンション買ったんだ。お洒落な外観ね。いくらしたの?」
「うーん、中古だから大したことなかったよ」
地下の駐車場に車を停め、二人はエレベーターで部屋に向かった。
「ねぇ、いつマンションに引っ越したの?」
「去年よ。車と一緒に買ったの。どっちも中古ね」
「そうなんだ。知らなかった」
「教えてなかったよね。前はボロアパートにチャリンコだったからなぁ。私も出世したのさ」
「そうね」
クスッと舞が笑った。
「おかしい?」
「そんなことないよ。がんばってるなぁって思った」
沙織、すごいな。自分の努力でこれを手に入れたのね。久しぶりに会って、なんか一回り大きく見えたのは、そのせいね。
マンションは四階まであり、沙織の部屋は三階にあった。部屋の窓からは名護湾が見渡せた。
「沙織、シャワー浴びてもいい?」
「どうぞ。着替え、用意するね」
舞はずっと我慢して黙っていたが、空港に降りた時から、暑さで背中に汗が流れ続けていた。
セーターとジーンズを脱いだ。汗がさっと引いていく。下着を外して熱いシャワーを頭の先から浴びると、水を得た魚のような気分になった。
「ふぅ、生き返った」
肌にまとわりついていた膜のような汗が流れ落ちた。シャワーを止めて乾いたバスタオルで体を拭くと、さらさらとした感触が肌に戻ってきた。
「着替え、用意しておいたから」
不意にユニットバスのドアが開き、沙織が覗き込んできた。
「おぉ、相変わらず綺麗な体してるね」
「ちょと、覗かないでよ。リセットしてる最中なんだから」
舞がシャワーを浴びている間に、沙織はソーキそばを仕上げておいた。既に日付は変わり、時刻は深夜一時になっていた。
「こんな時間に食べちゃって、大丈夫なのかなぁ」
そばだけではなく、酒につまみも揃っている。太るための準備は万端だ。
「たまにはいいか。連休取ってきたことだし」
「シャワーありがとう。さっぱりしたぁ。沙織も浴びたら?」
「私はさっき浴びたから大丈夫」
舞は、用意してもらった服を着ていなかった。体にバスタオルを巻き、たくしあげた髪をフェイスタオルで束ねていた。
「服、着ないの?」
「うん、これでいいの。涼しいから」
「いいけど、風邪ひかないでよね」
沙織は、料理をテーブルに運んだ。ソーキそばの香りが食欲を刺激する。
「いただきます」
「めしあがれ」
本当にお腹が空いていたようで、舞は一気にそばを平らげた。
「食欲、すごいね」
牛丼食べた後だというのに、まるで体育会系の高校生のようだ。
「沙織は食べないの?」
「うん、それよりも飲みたい気分」
「あぁ、ごめん。普通はお酒が先よねぇ」
「そのとおり!」
沙織は、冷蔵庫から冷えた缶チューハイを出してきた。沖縄のメーカーが製造した、かーぶちーを使ったサワーだ。
「なにこれ。かーぶちー?」
「うん。沖縄の果実。シークワーサーみたいなやつね」
レモンほど酸味はなく、オレンジのようなしつこさもない。さらっとした味わいだ。
「なんか、口当たりがよくてたくさん飲めそうね」
「でしょ。私はビールよりもこっちなんだ」
つまみは、ナッツとミミガージャーキーだ。
「なんか、おじさんのつまみみたい」
「これもあるよ」
そう言って沙織が出してきたのは、豚ジャーキーと海老おかき。
「ねぇ、いつもそういうのなの? ちょっと笑えるんだけど」
「いいじゃない。簡単だし。あっ、ちょっといいものもあるよ」
沙織は、冷蔵庫から島豆腐を取り出して皿に盛りつけた。その上に、瓶詰のスクガラスを乗せて冷奴にした。
「これ、なぁに。めざし?」
豆腐の上にのっている小魚を箸でつまみながら舞が聞いた。
「スクガラスっていうの。スクは、アイゴの稚魚のことで、ガラスは塩辛の意味なの。沖縄の塩で漬け込むのよ。豆腐と一緒に食べてみて」
スクは、めざしより小さい、小指ほどの大きさだ。舞は、箸で豆腐を切り、スクガラスを乗せて口に運んだ。
「なにこれ美味しい。豆腐と相性バッチリね」
「でしょ。私も大好き」
冷奴をつまみに、二人は缶チューハイを四本空けた。ほろ酔いになったところで、沙織はウィスキーを出してきた。
「スーパーの安物より、こっちのほうがいいでしょ」
ラベルに、BOWMOREと書かれている。三十年物のようだ。
「これ、どうしたの? 高級ウィスキーじゃない。飲んじゃっていいの?」
「いいのよ。もらいものだし。久しぶりに舞に会えたから、飲んじゃいたいの」
「もらいものって、誰から?」
聞くつもりはなかったが、沙織の口ぶりが少し寂しく感じた。女の勘で何かあると思った舞は、すかさず聞いてみた。
「うん、館長にもらったの」
「水族館の?」
「そうよ。エロおやじでさぁ。言えばなんでもくれるのよ」
「もらうだけで、お返しはしないの?」
「うん、しない。きっと体を要求されるから」
「なるほど。そういうことか」
寂しいと言うより悲壮感。舞はそう感じた。
「一度だけ食事に行ったことがあったんだけど、車で家に送ってくれるからって乗り込んだから、そのままホテルに行っちゃってさ」
「それで、どうなったの?」
「ダッシュで逃げた」
「まじ?」
「うん、蹴り入れてやった」
二人は顔を見合わせて笑った。
「職場の上司でしょ。そのあと大丈夫だったの?」
「うん、なんともない。それどころか次に誘うチャンス伺ってる」
「すごいね。よっぽど沙織のことが好きなのね」
「そういうんじゃなくて、単純にヤリたいだけでしょ。独身だし」
「独身って、いくつなの?」
「今年で五十って言ってた」
「一度くらい遊んであげればいいのに」
「いやよ。私、男も女にも興味ないんだから」
沙織は、恋愛の経験がない。自分がアセクシュアルだと気づいたのは高校生の頃だ。舞と恋愛の話になったとき、好きな男の子のことで夢中になる彼女を見て、どうしてそこまで感情的になれるのか理解できなかった。同じクラスの女子たちは、アイドルや運動部のキャプテンに憧れ、話題はいつもそれに集中した。サッカー部のキャプテン、切れ長の目が素敵よねぇと言われてもピンとこない。自分には異性に対する興味がないのだと思った。もしかしたら女性が好きなのではないかと疑ってみたが、舞を含めて一緒にいるクラスメイトや教師にも恋愛感情は起きなかった。
「ロックでいいの? 炭酸もあるわよ」
「うん、これでいい。すごく美味しいね。酔っちゃいそう」
ウィスキーは、あっという間にボトルの中身が半分になっていた。二人とも酔いが徐々に深くなってきていた。
「じゃぁ、そろそろ本題に入ろうよ」
今夜は飲んでおしまいにするつもりでいたが、酒の勢いで沙織は舞が沖縄へ来た理由を聞いてみた。
「本題?」
「うん、北海道で何があったの?」
館長のことや昔話で盛り上がっていたが、沙織は急に話を変えてきた。いきなり沖縄まで押しかけて来たのだから、理由を話さずにはいられないだろうと、舞は順を追って全てを話した。
「そう。いろいろあったね。広大と駿は、今どうしているの?」
沙織は二人のことをよく知っていた。学生時代、通う大学は違うが、舞の友人として何度か遊びに行ったことがある。舞と広大の披露宴にも呼ばれ、祝辞の挨拶もしていた。
「広大はきっとあの女のところにいるでしょ。私がいなくなって気楽になったと思う。駿は、若い女の子に夢中なの」
「若い女の子?」
「うん。天才ライダーらしいよ」
「なるほど。駿もライダーだからね。本業ってやつだ」
「本業なのか彼女に近づきたいただけなのか、はっきりしないけど」
「いいじゃない。それは駿の自由でしょ」
「まぁ、たしかにそうね」
北海道から逃げるように沖縄へやって来た理由はわかった。冷たい言い方をすれば身から出た錆であり自業自得だが、非を認めずに悲劇のヒロインを演じているようには見えなかった。広大と距離を置いてホッとしているようでもあり、自分の身勝手な行動が最悪の事態を迎えたことに後悔しているようにも見えた。
「本当は、広大じゃなくて駿、だったんでしょ?」
「どうして?」
「誰が聞いてもそう思うよ」
「やっぱり、そうなのかな」
「私が思うのは、広大は安定派で、駿は行動派。この違いに舞は迷ったのよ。そして、最終的に安定を取ったけど、心のどこかで広大以上に魅力のある駿を選ぶべきだったんじゃないかしら。安定を求める男はつまらない。それに対して行動派は常に変化を求めて成長し続ける。失敗すれば地獄を見ることもあるけど、そのリスクを承知で挑戦する姿は人の心を惹きつける。そのことに結婚してから気づいたあなたは、ずっと悩んできた。そいうこと、だと思うわ」
舞は本心を突かれたような気がした。本当は心の奥底でそう思っていたのかもしれない。けれども、それを認めてはいけないと思う自分がいた。幸せを装い、仮面を被り続けて生きてきたが、沙織に指摘されたことで、結論を出せなかった思いに終止符が打たれたような気がした。
「これからどうするの?」
「決めてない。というか、考えてない。私も沖縄に移住しようかな」
「仕事はどうするの?」
「それも考えてない。バイトでいいかも」
「こっちは、仕事探すの大変よ。時給低いし、バイトの収入だけでは苦しいよ」
「そうなんだ。でも、それでいいかも。なんていうか、しばらく何も考えなくて済む時間が欲しい」
「なるほど。その気持ち、わかるよ。急に緊張感がほどけると、糸の切れた凧のように心がふらふらして、何もかも嫌になって考えるのが億劫になっちゃうから。現実逃避して、今後のことをじっくり考えるのもいいかもね」
「うん、沙織、わかってくれてありがとう」
「行く宛がないなら私のところに来てもいいよ」
「いいの? 実はそのつもりだったけど」
「そうだろうと思ったけど。使ってない部屋あるし、掃除してくれるなら家賃いらない」
「掃除だけでいいの? お買い物とか家事もするからね。沙織、ありがとう。来てよかった」
行く先を決めず心の赴くまま牧場を後にした舞は、とりあえずの棲家が見つかってほっとした。二人とも強い酒を飲みすぎて、かなり酔いがまわっていた。
「寝よっか。なんか酔っぱらっちゃった」
「うん。私も、今日は疲れました」
歯を磨いてから二人は寝室に移動した。キングサイズのベッドに舞が倒れ込むようにして横になった。沙織は、シルクのパジャマに着替えてから舞の隣に寝転んだ。
「大きなベッド。一人で寝るの、寂しくない?」
「平気よ。ベッドが大きいと熟睡できるの。舞は、どんなベッド使ってるの?」
舞は返事をしなかった。よほど疲れていたのか、穏やかな表情のまま、すでに眠っていた。
「舞、相変わらず可愛いね。子供みたい。そういうところ、好きよ」
沙織は、ベッドから降りてクローゼットからバスローブを取り出した。体にタオルを巻いただけの舞が、風邪をひかないように着替えさせる必要があった。
「舞、風邪ひくよ。着替えてから寝て」
呼びかけても反応しない。沙織は、舞のバスタオルを取り、バスローブを着せようと腕を取った。
「綺麗ね。私と全然違う」
モデルのような体型の舞に対して、沙織はスレンダーで貧弱な体をしている。胸は小さく、職場の旅行で温泉に入ったとき、裸を同僚に見られるのが苦痛だった。自分の体を嫌だと思ったことはないが、舞のような体になりたいと、憧れだけは持っていた。
沙織は調光ライトをダウンして部屋を薄暗くした。着ていたパジャマと下着を脱いで全裸になった。横向きに寝ている舞の体を仰向けにして、自分も横になった。張りのある、盛り上がったふたつの胸が、淡い光に照らされ、呼吸に合わせて上下に動いた。沙織は手を伸ばし、舞の乳輪に軽く触れた。円を描くように指先を這わせ、乳首を撫でた。
「うぅん・・」
舞が少しだけ反応したが、眠ったままだ。
指先で乳首の先を撫でながら、もう片方の乳首を口に含んだ。舌を這わし、唾液で乳首を濡らしてから軽く吸い上げた。
「はぅぅん」
舞が体を捻り、沙織の胸の中に入り込んできた。
「起きちゃった?」
舞は薄目を開けていた。沙織は、舞の背中に腕を回して愛撫した。そのまま上に覆いかぶさり、胸を揉みしだいた。
「ううん」
舞は目をつぶったまま、沙織のされるがままにしていた。昔、高校生の頃、沙織にしてもらったように。
二人は、子供の頃、お互いの自宅が近かったこともあり、家族ぐるみの付き合いがあった。舞と沙織はいつも一緒に行動を共にしてきた。同じ高校に進学すると、見る世界が変わり、行動範囲が広くなるにつれて、性に対する関心も膨らんでいった。沙織の部屋で一緒に勉強しているときだった。胸のふくらみの話になり、舞は、沙織がどのくらいの大きさになったのか、確かめてみたくなった。沙織は断った。人に見せられるほど発達していなかったからだ。それでも、触って大きさを知りたくなった舞は、沙織の胸に手を伸ばした。その手を沙織は軽く跳ね除け、逆に舞の胸に触れた。服の上からでもはっきりわかるくらい、柔らかな弾力が手に伝わってきた。沙織は、手のひらを広げ、つかんだ胸を上下に動かした。人に初めて胸を触られた舞は、一瞬驚いたが、じっとしていた。
「なんか、変な感じ」
「変って?」
舞は目をつぶった。胸から全身に、じーんとする感覚が伝わった。その反応を見て、沙織は興奮を覚えた。揉んでいた片方の胸から、もう片方の胸に手を伸ばし、両方の胸を揉んだ。
「あっ」 舞が小さい声を漏らした。
それ以来、二人は沙織の部屋で勉強を終えると、お互いの体に触れあい、性を目覚めさせていった。どこをどう触れば気持ちよくなるのか、時間をかけて確かめ合った。決めたわけではないが、いつしか男役が沙織になり、舞の体を一方的に刺激するようになっていた。感情が高ぶり、舞の股間は愛液でぐちょぐちょになるようになった。指先でいじると、くちゅくちゅと音を立てた。やがて、蕾の存在を知り、沙織はそこを徹底的に愛撫した。力を入れずに指先でつまみ、左右にさすると舞は何度も昇天していった。まだ、男を迎え入れたことはないが、イクことはすでに何度も経験していた。
「ねぇ、して」
舞は起きていた。寝たふりをしていた。そして、沙織がそうするのを待っていた。体にタオルしか巻かなかったのはそのためだ。
沙織は、知り尽くした舞の体を開き、愛撫を始めた。感じる部分全てを刺激し、何度もイカせた。ぐちょぐちょになった膣に入れた指は、しわしわにふやけた。
「ねぇ、あれもして」
その意味はよくわかっていた。口で舞のそこを愛撫することだ。沙織は、股の間に顔をうずめ、舌でヴァギナを舐めまわし、蕾をチロチロと舌先で転がした。
「あぁん、イクぅ」
何度も何度も昇りつめた。やがて意識が薄くなり、舞は気を失った。
どのくらい眠っていただろう。舞はシャワーの音がして目が覚めた。窓の外はかすかに明るくなっていた。
「起きたの?」
全裸のまま、ユニットバスから沙織が出てきた。
「うん、久しぶりによく眠れた」
「そう、それはよかった。朝食、用意するね」
「うん、ありがとう。私もシャワー浴びてくる」
熱いシャワーを浴びながら、夜のことを思い出していた。男に抱かれるのとは次元が違う。優しさと気持ちよさは、沙織の方が数段上だった。スッキリした気分で朝を迎えられた。舞は、ここに来てよかったと改めて沙織に感謝した。
「どうぞ。卵とパンしかないけど」
「ありがとう。コーヒー、いい香りね」
「うん、ハワイのコナよ。こっちでは安く手に入るの」
部屋に入ってくる日差しは強くはないが、眩しいくらい明るかった。昨日まで沈んでいた気持ちが嘘のように晴れていった。
「今日はどうする?」
「そうねぇ。とりあえず舞の服を買いに行く」
「賛成!」
「その後は、街ブラでもしよう」
「うん」
「本当に、うちに引っ越してきてもいいからね。遠慮は禁物よ。舞の気の済むまでいてもらっていいから」
「うん、ありがとう。沖縄まで来てよかった。感謝してます」
沙織がテレビを付けた。NHKのニュースで、柴咲重工が水素エンジンを搭載したオートバイを開発中であることを報道していた。それは、他社が未だ着手していない技術であり、環境問題に真っ向から取り組む企業の賭けだとも伝えていた。
「駿、どうしてるかなぁ」
舞が、コーヒーカップを持ったままぽつりとつぶやいた。
「気になるの?」
「そうじゃないけど、うまくやれているのかなって」
「例の天才ライダーと?」
「うん」
「もう、うまいことやっちゃって、お持ち帰りしちゃってるかもよ」
「それはどうかなぁ。けっこう奥手だし。こっちから声かけないと反応しないから」
「天才ライダーが誘ったらどうなる?」
その一言に舞は少し動揺した。
「それなら、あり得るね」
「舞、心配なら戻ったほうがいいよ」
広大とうまくいかなかったのは、駿との関係を断ち切ることができなかったのが原因だが、自らの行動によって現実が大きく変わってしまった今、舞には、改めて駿だけを真っ直ぐに見てほしいと沙織は思った。その方が自然であり、沙織も安心できた。
「ねぇ、沙織」
「ん?」
「しばらく、ここにいさせてね。生活費はちゃんと出すから」
「いいわよ。自由にして。そのあとは?」
「うん、これからどうするかよく考えて、答えが出たら一旦北海道に戻る 残してきたものを整理して、スッキリさせてから、また戻ってくる。ね、いいでしょ」
沙織は安心した。北海道に戻ると言うなら好きにさせてあげようと思った。一緒に暮らしたいならそうすればいいと。
「はいよ。行ってらっしゃい。いつでも戻ってきていいからね!」
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