巨乳女騎士を添えて~裏切者もいるよっ!



「ッツ! ん? なんで俺はここに…」

「よお、さっきそこで隊長が呼んでたぜ?」


 見張りは頭を抱えながら起きると、<見ず知らずの>俺に話しかけられ、礼を言いつつ、ふらふらと廊下の先へ消えていった。後方でそのやり取りを見ていた乳山は、信じられないといった様子で、すぐさま俺に掴みかかってくる。


「お、おおおお前! 何だ今のは! 何をした!?」

「はあ、あー、あれは…頼りない、最低最弱で最悪な俺の、唯一のアイデンティティ」

「あ、あれはお前の魔法…なのか…?」

「違う、あれは俺の能力。効果は<記憶の捕食>相手の記憶を喰い、喪失させる」

「お」

「…お?」

「お前! そんな凄い力あるんならさっさと使え!! それで解決だったろう!?」

「俺だって使うつもりだったんだよ、お前が勝手に行動しなきゃな! それにコイツはお前が思ってるほど――」


「おいこっちだ!こっちから聞こえるぞー!!」


「「!!」」


 くだらない言い争いをしていると、回廊の先から複数人の兵士が走ってくる音が聞こえ、俺は、間髪入れずに走った。もちろん、乳山を置いて。


「待て! おいていくな!!」

「まずいまずいまずい、やべーぞ!!」

「おおお、追いかけてきてるぞ!」

「んなこと分かってんだよ!! だいたいオメーがデケー音出すからだろうが!」

「なっ! それを言うなら、お前の作戦が失敗したから私がカバーしたんだ!」

「それが邪魔だったって言ってんだ! それに俺の作戦は失敗してねー!!」

「そこの人間! 止まれェ!!」

「わわっ! 来てる! 来てるぞ!! どうするんだ!!」

「まてよ? あの言い方からして、もしかして俺の事はバレてないんじゃねーか? だとすると、今こいつを差し出せば俺だけは助かるか?」

「おい、変な気を起こすなよ、契約違反だぞ!」

「うるせーぞ! この乳だけしか取り柄のねェ短絡女! 俺は自分が助かりゃそれでいいんだよ!」

「短絡女ってなんだ!? それショートカットの女って事にならないか!?」

「言葉って難しいねッ! 兵士さぁーん! こいつ捕まえてくださぁーい! 襲われてるんですゥ!!」

「お前ホンット最低だな!!!!」


 二人で走りながら罵りあっていると、追いかけてきていた兵士たちの中で一人だけ、いい鎧に身をまとい、ふさふさの毛をなびかせながら走ってくる獣人族コボルドの隊長が――。


「あ、テメー、ジン!! こんなとこに居やがったのか! そこ動くなよ? その人間の次はテメェだかんな! 賭け(チンチロ)の借りはタップリ返してやるからな!!」

「げっマジか」

「なんだ? 知り合いか? 物凄い形相で走ってきているが」

「……よし、契約続行してやる、あいつらから逃げ切るぞ」


 俺らは鬼の形相で走ってくる一人とその他兵士達をまくため、兵士控室に戻ると隠し通路になだれ込むように入るが、余りに急いでいたため、自分たちの体で狭い通路を圧迫し上へ上がれなくなっていた、その時。

 バンっと回廊から兵士控室の扉が開かれる音がし、先程まで俺たちを追っていた兵士達が入ってくると、中に居た、二人のサボり兵士の机を叩きつけ、酷くきつい声音で問い詰める。


「おい、お前達、ここにジン...裏切者と人間が入ってきたはずなんだが、見なかったか?」

「「…」」


 頼むぞ…。

 聞き耳をたて、必死に祈る。たぶん乳山も同じ気持ちだろう、冷や汗が暗く汚い床へ落ちる。


「見かけたかもなぁ…」

「だがお前に教えてやる義理はないし、得もない」


 …あいつら。


「ほう…お前達魔王様の命令に逆らうのか?」

「魔王様の命令に逆らうわけじゃねーよ、お前には教えねーって言ってんだよ脳みそ入ってるか?バーカ!」

「くっ、どいつもこいつも…」

「俺に得もないのに協力? 何をいってるんだ、俺たち魔物だぞ?」

「あまり非協力だと、上に報告しなくては……得に? ぁあ...なるほど、悪かったな、この金をやるから場所を教えてk」

「上の階に行きました!」

「ついでにジンと人間はグルで~す!」


 あいつらーーー!!

 このクズ野郎どもが、これだから魔族は!!


「お前の知り合いは全員あんな感じなのか?」

「……。」

「よし、半分はこの階の警備、もう半分は上の階に行くぞ! 急げ!! 裏切者を許すな!!!!」


 俺はあいつらをぶん殴りたい気持ちを抑え、階段を上り上の階を目指した。


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