巨乳女騎士を添えて~買収もあるよっ!


 その様子の一挙手一投足を、視線に舌でもついているかのように、じっくり、ねっとりと目線を這わせ視姦していた俺に向かって、インナーから手を引っ張り上げると鼻の下を伸ばしきった顔めがけてペンダントを投げつけられた。

 が、上手くキャッチした。ごちそうさん。


「高価なものだ、私にとって値段はどうでもいいのだが」

「ほぉ、へぇ、これはこれは」


 俺はそのペンダントをまじまじと眺め、プレートを戻すのに手間取って揺れている人間の胸元とペンダントを重ねるとニヤニヤと不快な笑みを浮かべる。

 ケケッ! こいつは驚いた、何が飛び出したかと思えば、コイツ、運がいいな、交渉材料としては完璧だ。

 ――魔道具マニアの俺と交渉するには完璧な選択だ、まあ、コイツは知らねーだろうからたまたまなんだがな。


「良いぜ、お前をここから脱出させてやる」

「裏切ったら、お前を殺して私も死ぬからな」

「うぇ!? お、おう、ま、任せろ……それ、自分だけになったりしねーか」

「…。」


 こいつを信用して大丈夫だろうかと、その表情からひしひしと伝わってくる。

 もう遅せーよ、貰うもんは貰ってんだ。


「そういえば、まだ名前を聞いていなかった、私は『シャルロット・ベルンダム・キリコ』キリコと呼んでくれ」

「ん?おージン、よろしくーえーーっと……乳山?」


「もうやだコイツ」


 そんな悲痛な声が聞こえたような気がした。






「おい、本当にこっちで合ってるんだろうな」

「あってるって、素人は口だすんじゃねーよ」

「だが、さっきから暗くてあまり良く見えないんだ」

「俺は見えてるから安心しろ」

「お前さっきもそう言って思いっきり頭をぶつけてただろう」

「油断してたんだよ!ほらそこ気をつけろよ」

「な、なんだ何処だ?」

「そこだって」


 俺の後ろをついてくる乳山は、壁に手を付き身を屈めながら、昔使われていた狭い連絡用の階段を下ってくる。

 壁や階段、低い天井など、あらゆるところが薄汚れていて、いたるところに虫やネズミが這いまわっており、乳山のちょうど手を付こうとしている場所にも黒くてテラテラしている一匹の…。


「ぎゃあああああああ!!!! んぐっ!!」

「!!」


 あまりの声量に慌てて口を両手で塞ぎに行くと、その勢いのまま階段に倒れこむ。

 乳山は尚も腕を振り身を捩るようにして五秒ほどパニックで暴れ、俺のわき腹や顔に怪我を負わせると、ようやく少し落ち着きを取り戻し始めた。


「声、したよな?」

「「!?」」


 壁の向こう側、武器庫から声が聞こえ、思わず俺たちは静止する。


「おん、俺も確かに聞いたぜ」

「またサウロンさん所の幽霊かなんかか?」

「かもな、それか人間の生き残りか」

「まっいっか、続きをやろう」

「へっへっへっ、だな」


 俺たちが通っていたこの隠し通路は、魔王城の至る所に張り巡らされ、この砦、一階から四階までの道をつなぐ隠し通路のちょうど壁向こうには、簡単な武器を保管しておく倉庫が設置されていた。

 その中でもつれるように倒れこむ俺たちは、身を静かに起こし、この通路の出口である武器庫の扉を見ると、乳山と二人、顔を見合わせる。


(オメーが騒ぐセイでバレたじゃねーか!)

(わ、私のセイか!? どちらにせよ、ココを出るにはあの出口を使うしかないんだ! バレようがバレまいがどうにかするしかないだろ!?)


 チッ、まーその通りだよ。

 俺はそんなことを考えると勢いよく扉に向かう、後ろから乳山の静止する声が聞こえるが、構わずにその出口を開けると、盾の壁飾りが付いた隠し扉がいきなり開かれ、驚いた表情の二人組の魔族がこちらを訝しむように眺めてくる。


「よお、儲かってるか?」

「び、びっくりした、ジンか」

「おいマジかよ、そんなところに扉なんてあったのか、良く見つけたな」

「まぁな、たまたま知ってたんだよ」

「そうか…それより退屈してたんだ、お前も一緒にどうだ?」


 そういうと座っている丸机の上に置かれたカードをひらひらと見せてくる。


「いんや今はダメだ、お前らもサボってねーで残党狩り参加したらどうだ?」

「んーー?分かって言ってんだよな?どんだけ働いても同じ給料なんだから、こうやってサボタージュってんだろ」

「はっ、まぁな」

「だったら下らねーこと言ってねーでオメーも参加すんだよ!今度こそ泣かせてやるから覚悟――」


 俺はそう言いかける兵士二人の間に置かれている丸机の上に、追剥から手に入れた金袋をドンと置いた。


「だから聞いてんじゃねぇか、儲かってるかってよぉ」

「お、お前これどこでこんなに手に入れたんだ」

「企業秘密、景気の悪いお前らにやってもいいぜ」

「うひょーー!!マジかよ!」

「ただし、こいつは口止め料だ」

「「……ほーん」」


 様子を見るために扉の隙間からチラチラとこちらを見ていた乳山に視線を誘導すると、二人の魔族は何かを納得したように俺と乳山の顔をにやにやと見つめてくる。

 ったく、こいつら、何か勘違いしてねーか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る