『ヴァンパイアは第9が苦手』 下の1


 ああ、そこには、家主一家のほぼ、全員がいた。


 主夫婦。


 長男、次女。


 さらに、腕のよい社員数名。


 しかし、長女のかえでさんの姿はない。


 全員が、こぶりのヘッドフォンを頭に装着している。


 『やあ。元気かい?』


 父親が、そう言うのである。


 『これは、第9交響曲音像排除ヘッドフォンなんだ。第9交響曲だけを聴こえなくする優れものだ。だから、君の素晴らしいアイディアは、すでに無効だな。さ、その子を渡してもらおう。さらに、太陽丸の居場所を言いたまえ。さすれば、君は、見逃されることになるのだ。どこに行ってもらっても構わない。よい条件だろう。』


 『どこが? 良く言いますね。なんで、兄さんに従うの。兄さんは、ヴァンパイア嫌いだよ。あなた方たちの味方ではないよ。』


 『いやあ、それは、ま、分かってますがね、やはり、嫌いでも利害が優先するわけです。彼は資金援助してくれる。ま、建前は、立てなくてはならないが、最終的に自決は不味い。しかし、敵を結果的に滅ぼすには、自分を苦しめる必要もあるのですよ。我慢比べですな。外交もそうだ。しかし、君にはいま、簡単な脱出方法があるわけだ。』


 『絶対的に、いやです。』


 『でも、君には勝ち目がないよ。諦めなさい。諦めは心の養生。キリストさんにも仏陀さんにも、ユダさんや、だいばだったさんみたいな抵抗勢力はあったのです。気にしなくてよい。』


 『そりゃ、はなしが違いましょうぞ。あなた方がやってるのは、内部告発でも、路線対立でもない。過ちだ。』


 『仕方がないなあ。いざ。』


 父親は、タルレジャ拳法の静態の構えをした。


 他の二人も、社員さんも、補助者の構えをしたのである。


 しかし、ぼくは、それを、知ってるだけで、対抗はできない。


 しかも、赤ちゃんを抱いている。


 放せば、さっさと、誰かに連れてゆかれるだろう。

 

 彼らには、多数の従者(社員)がいますからね。


 しかし、そこに、思わぬ助けが入ったのであった。


 かえでさんが、突然ぼくの背後に現れたのだ!



      🧍‍♀️

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