『ヴァンパイアは第9が苦手』 中の6


 ぼくは、ふと、思い付いた。


 そうだ、張り付け形スピーカーは、まだある。鞄に入っていたはずだ。


 ぼくは、まず1つを起動させ、鞄に張り付けた。


 赤ちゃんは、まだ生きてはいる。


 ならば、延びてくれていた方が良いのかもしれない。心配だが。


 さらに、1つを、最大出力で、玄関のこちら側に張り付けた。


 上手くゆけば、玄関が、多少は共鳴してくれるかも。


 すると、思いの外成功だったらしい。


 切断ビームが止まり、第9交響曲だけが鳴り響くのだ。


 『やた! 鍵穴はどこか?』


 ぼくは、鍵穴を必死に探したのである。


 大抵は、ドアの、上か、下か、にあるはずだ。


 しかし、ない。


 なぜだ?


 鍵はある。鍵穴がないはずがないだろ。


 その世にも素晴らしい、長い第3楽章も、容赦なく進む。


 こうなると、もはや、秒読み信号みたいだ。


 まて。これかあ?


 玄関ドアの横に四角い箱がある。


 そいつを開けると、鍵穴があった!


 ぼくは、鍵を挿入し、回した。


 『ロック解除!』


 自動音声が鳴ったのだ。


 天の声のようだった。


 そうして、玄関扉が、ゆったりと開いてゆく。


 開ききるまえに、赤ちゃんを抱き上げて、ぼくは、玄関から走り出た。


      🏃............





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