第6話
ピピッという腕時計のアラーム音にハッとして時計を見ると、もう日付が変わっていた。
(もう終電はねぇな。まったく、しょーがない……)
「ほら、どけ。布団敷くぞ」
「えぇっ?」
非難がましい公一の声。
「おれ、まだレポート終わってないのに?!」
「明日やりゃーいいだろ、どーせ休みなんだから。俺は眠いんだよ」
「さっき寝てたくせに。しょーがねぇなぁ、純平は」
(……どっちが、だよ)
ほんとうに公一は、しょうがない奴だ。20歳を過ぎた立派な大人なくせに、我が儘で甘ったれで……でも、しょうがないと思いながらも、俺はこいつを放っておけない。なんだかんだと、結局手を貸してやってしまう。だから、公一はますます俺を頼り、俺に甘える。
「悪循環なんだよなぁ」
「なにが?」
俺の独り言を聞きとがめ、公一が聞く。
「何が、悪循環なんだ?」
「俺と、お前が、だよ」
「あ、純平もそう思う?」
(え?)
まさかの公一の言葉に一瞬驚く。が……
「今から寝たら、絶対おれの方が早く寝ちゃうだろ?純平は寝付き悪いから。で、純平がやっと寝付いた頃、ちょうどおれが目、覚ましちゃって、で次におれが寝る頃には純平が起き出して、おれのことを起こす、と。……まったく悪循環だ。何だってこう、おれと純平は眠りのタイミングが合わないんだろう?」
「……そうだな」
(ま、そんなこったろうとは思ったけど)
座ったまま、手伝おうともしない公一をどかして、俺は公一の布団を敷く。
そう、この一組の布団は、ほとんど公一専用と言っていいだろう。それくらい実にしばしば、公一は俺の部屋に泊まっていた。
「いいのか、お前。家、帰らなくて」
あまりに俺の家に入り浸るので、俺は公一に聞いたことがあった。
「親、何も言わないのか?まぁ、男だから別に女ほどやかましくはないだろうけど」
「親父は、忙しくて家に帰ってもほとんど会わないんだ。お袋は……別に何も心配してないんじゃないの?実の子じゃないしね。あんまり関心無いみたい。それにもう、おれ子供じゃないしさ」
「え?!実の子じゃないって……」
「今のは、3人目だよ。おれを生んだ母さんはおれがまだ小さい時に死んだんだ。2人目の母さんは、ほんとの母さんみたいに優しかったけど……今の人は、どうもおれとは合わないみたい。親父が選んだ人だから、嫌いにはならないけど。家に帰ったって、顔合わせるのはお袋くらいなんだよ、だからおれ、あんまり家には帰りたくないんだ」
こともなげにこんなことを言うくせに、
「……兄貴も忙しいみたいで、ここのところ全然会えてないし」
ことお兄さんに関しては、とても淋しそうになる。
(この、ブラコンが)
「それにここ、居心地いいんだ。純平って何だか兄貴みたいだしさ」
「俺はお前の兄さんの代わりか」
思わず苦笑しながらも、悪い気はしない。
何故なら俺は、遠い昔、兄貴だった。
おぼろげな記憶ではあるが、確かに俺には弟がいた。
母の手紙にも、記されていた。俺の弟・強太の名前が。
たぶん俺は、強太の面影を、公一の中に見ていた。
とても幼い日の、遠い昔の記憶の中の、弟。
「そうだよ。純平はおれの兄貴だ」
(そう、お前は俺の弟の代わり……なんて、な)
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