第3話
『
純平、ごめんね。
母さんね、もう純平と一緒にいられなくなりました。
おじいちゃんは、お母さんのこと、怒っているの。
母さんは、純平のお父さんと結婚して、純平が生まれたんだけど、おじいちゃんも、亡くなったおばあちゃんも、この結婚には大反対だったのよ。でも、母さんは、おじいちゃんとおばあちゃんを裏切って、駆け落ちしたの。本当はね、おじいちゃんとおばあちゃんには、母さんに結婚して欲しい人がいて、その人におじいちゃんの跡を継いでもらいたかったんだって。でも、母さん、その期待、裏切って……その上、そのショックでおばあちゃん、死んじゃって……。
母さんが、おばあちゃんを殺したようなものなの。全部、母さんが悪いの。おじいちゃんが怒るのは、当たり前なのよ。
でも、やっぱりバチがあたったのね。
純平も強太もまだ小さい頃に健二さんは……お父さんは、交通事故で亡くなりました。純平はもう、憶えてないかもしれないけれど、とても優しいお父さんでした。
本が好きな人で、純平にもよく色々な絵本を読んでくれたのよ。
あなたの本好きはきっと、お父さん譲りね。
母さんがもっとしっかりしていれば、母さんと純平と強太と3人で、もっとずっと一緒にいられたのに。
ごめんね。
母さんは、純平の知らないところへ行きます。
純平の知らない人と、結婚するの。
でも絶対に、純平のことは忘れません、ずっと。
ずっと、愛してる。かわいい純平。私の坊や。
おじいちゃんに、たくさんかわいがってもらうのよ。
おじいちゃんが怒ってるのは、母さんだけだもの。純平は、かわいがってくれるはず。
でも、あなたはあなたの望む道を歩んでね。
おじいちゃんの言う事を全て聞く必要は無いのよ。
それはもしかしたら、とても辛いことかもしれない。
だけど、自分の気持ちを曲げてまでおじいちゃんの言う事を全て聞いていたら、いつかきっと後悔する。
あなたに、そんな後悔の人生は送って欲しくない。
つらくなったら、母さんを思いだして。
いつでも、どこにいても、母さんは純平のことを思っています。
あなたを、応援しています。
あなたの幸せを、願っています。
大好きよ、純平。
』
母さんは、他の人と結婚させられて、この家を追い出されたんだ。
でも、祖父を憎むことはできない。祖父が母さんを許せない気持ちも尤もで……それに、厳しかったが、母さんの言うとおり祖父は俺のことをとてもかわいがってくれた。俺は、祖父が好きだった。
だけど。
祖父の期待に添うことはできない。祖父は好きだが、俺の一生を縛られるのはごめんだ。俺は、俺のやりたいことをしたい。俺の好きな道へ進みたい。
母さんの手紙にも書いてあった。『あなたはあなたの望む道を歩んでね』と。
母さんならきっと、俺を応援してくれるはずだ。
この思いを胸に抱え続けて三年間、俺は祖父を騙し続けた。
表向きは、毎日予備校に通って、図書館で勉強して、家に帰るとその日の復習と次の日の予習。しかし、俺は後ろめたさを感じながらも毎日バイトに励んで金を稼ぎ、家に帰れば医学へ進む道とはほど遠い文学の勉強。そうして充分に金がたまった頃、俺は大学に合格。祖父の期待を裏切り、俺の希望通り、文学部に。
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