夏の樹々
梅林 冬実
夏の樹々
メタセコイア並木で
さよならを告げられた
去年の夏 翌週に避暑地に小旅行の予定だった
8月の行楽地 見知らぬ人が大勢いる場所を選んだのは
君の卑劣さ故と私は思った
私が騒がないように
私が泣き出さないように
私が君に縋らないように
わざとあの場を選んだのだ
老夫婦や無邪気な子供の笑顔がはじける
あの場所を
1年経って 私は違う人といる
行きたくないといったあの場所に
その人は無理に連れ出した
私の気持ちなんてまるで無視するその人と
それでも一緒にいるのは
あの場で別れを押し付けられたリアルに
私の心が追い付かなかったから
誰でもいい 誰かと一緒にいられるなら
それなりに過ごせていけると考えた
私の浅はかさ
1年経って メタセコイアの並木道を
ひとり 君は歩いていて
私は今の人と少し離れていたから
君は私が思い出に浸っていると誤解して
声をかけてしまったのね
まだひとりでいるの? なんて
よく聞けたよね
何言ってるの?
思わず聞き返してしまう
露になった私の素直さに
君は驚いたように目を見開く
ひとりじゃないよ
言い終えないうちに今の人がやって来て
「誰?こいつ」
なんて 随分失礼な言葉で訝しんで
知ってる人と軽く答え
それじゃ と空々しい挨拶を交わして
その場を後にする
来るんじゃなかった
強い後悔に身悶えし
私は今の人との別れを決意した
そういえば 去年の君が
私との離別を選んだ理由は
何だったんだのろう
聞きそびれてしまったそのわけを
夏の樹々の翠緑に問いかけたなら
何かしら 答えてくれるだろうか
夏の樹々 梅林 冬実 @umemomosakura333
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